81.昏睡
「フロックス!オリビエは?」
「応急処置は済んだ。後は目覚めるのを待つしか出来ない」
「分かった…」
怒りのままに数分でその場を沈めたロキは、フロックスからオリビエを抱き受けると、後は頼むと言い残して屋敷に向かって歩き出した
「待てクロキュス!この俺から逃げる気か?!卑怯者が!!」
ナルシスの声にロキは無言のまま大きく息を吐きだした
「…ダビア、そのゴミを黙らせてくれ」
「引き受けよう」
ダビアの返事を聞いて振り向きもせず去っていく
煩い喚き声は次の瞬間唸り声と共に消えた
「さて、この大馬鹿野郎たちをどうするかだな」
ダビアは騎士に付き添われて駆けつけてきたタマリに投げかける
「王宮には鷹を飛ばした。負傷者の救済を優先してくれ。場所が足りなければ俺の屋敷へ」
タマリは声を張り上げた
町の者の無事
それがタマリにとっての最優先事項であることは揺るがない
「家に被害を受けた者は広場へ。テントを用意している。少しの間窮屈だとは思うが我慢して欲しい」
「雨風がしのげるならそれだけでもありがたい」
「組み立てを手伝いに行くぞ」
少しずつ町の者が動き出す
「ご苦労だったな。タマリ」
突然タマリの側に人が現れた
その姿を見た騎士が一斉礼の形を取った
「まさかこんなに早く、王自らお越しいただけるとは…」
「ここで食い止めてくれたことに感謝する。あとで魔術師に壊れた家の修復と救護にあたらせる」
「おぉ…ありがとうございます!」
「この場は引き受けよう。町の対応に当たってくれ」
タマリは深く頭を下げて走って行った
「さて、愚王にその愚息よ。随分情けない姿だな」
猿轡をされ拘束されたまま牢に入れられたナルシスと、片腕を失い涙を流しながら蹲っているオナグルを汚いものでも見るかのように眺める
「我が国に勝てると思ったか?」
「うぅぁぃ!(うるさい)」
睨みつけて歯向かうものの何を言っているかは分からない
「特攻騎士も精鋭もフジェに来た。残ったのは命を張る度胸のない称号持ちのごみのような騎士ばかりだ。そんな屑が固まったところで勝てるはずがなかろう?」
「ぐぅ…」
その言葉には他の騎士達も歯を食いしばる
「ここにいる者は一族共々裁かせてもらう。ナルシスとオナグル以外の騎士を城の地下牢へ。同時にソンシティヴュの元称号持ちを監視するように」
「承知しました」
応えた魔術師たちがすぐに動き出す
魔術師たちは馬に乗り牢を浮かせて運んでいく
フジェの町から沢山の牢がなくなるのは一瞬だった
モーヴはダビアとマロニアだけを残し人払いした
2人の猿轡を外してその顔を見据える
「さて、この愚息はオリビエに対峙したらしいな」
「そ…れがどうした」
オナグルはモーヴを睨みつけて吐き捨てるように言った
「オリビエは召喚された者だ。その者に対する行いとしては最低だな」
「バカバカしい。召喚したのは歌姫だ。あの女は勝手についてきただ…ぅぁあああ!!」
モーヴはオナグルが言い終わらないうちにナイフを投げていた
それが見事に腕のあった場所に刺さる
「すげ…全然見えなかったぞ?」
ダビアが思わずつぶやいていた
「本当に救いようのない親子だな?俺の妹を殺し、その家族も殺させた。それだけでは飽き足らず召喚されたオリビエと、俺の甥がいる町を襲うとは…」
「…な…んの事かわからん…俺は知らん!」
否定するナルシスにモーヴは1枚の写真を見せる
「あ…」
それは以前ロキが手にしていた写真だった
「ここに映ってる封筒にはお前の蝋封がしてあった」
「!!」
「知らぬと思ったか?誤魔化せると本気で思っていたのか?」
威圧の籠った言葉にナルシスは必死で首を横に振る
「安心しろ。貴様らを簡単に殺したりはせん。殺してくれと乞いたくなる裁きを用意してやるから楽しみにしてるがいい」
「…今のは?」
魔力の動きを感じてマロニエが訊ねた
「自害できなくする魔術だ。こいつらのしてきたことは簡単に死んで済ませられるようなことじゃないからな」
その冷たい声にダビアとマロニエは珍しく恐怖を覚えた
「これは持って帰らせてもらう。そなた達に頼みがある」
「何なりと」
「オリビエが傷を負ったと聞いた。万が一等考えたくないが…クロキュスを頼む」
2人の頭の中には先ほどの姿が浮かんでいた
かつて2つ名で呼ばれていた頃の姿が…
「俺たちにとっても2人は大事な人間です」
「…そうか」
ダビアの言葉に頷いてからモーヴは2つの牢と共に転移で帰って行った
「昔のクロキュスよりおっかねぇな」
「流石、王って感じ」
呟きながら歩きはじめる
「オリビエが心配だな」
その言葉に足が速くなる
屋敷に駆け込むと皆がロキたちの部屋の前にいた
「オリビエは?」
ダビアの言葉にシュロが首を横に振る
「解毒は出来たらしいが意識が戻らない。フロックスとクロキュスがついてる」
「そう…か…」
「…散々助けて貰ったのに祈るしか出来ないなんて…」
カメリアが泣き崩れると子供たちまで泣き出した
オリビエはそのまま夜が明けても目を覚まさなかった
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