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80.襲撃

突然轟音が響き城壁の一部が崩れ落ちた

期日の1か月は過ぎてしまった

ソンシティヴュとつながる門では、称号持ちがしつこくごねていたため、フジェの町では警戒態勢を取っていた

でも城壁を崩すなど想定外だった


「下敷きになった者の救助が最優先だ!他の者は警戒態勢を取れ!」

その声が響いた直後ソンシティヴュの騎士が流れ込んできた


「我が国から寝返ったお前たちだけでも道連れにしてやる!」

唸るような声で叫んだのはナルシスだった

そこにはもう王である威厳は見えない

自らが先陣を切って突撃してきたことで必死だということだけは伝わっては来たが…

門番は即座に発煙筒を打ち上げた

3回続く破裂音

それは非常事態を告げる音だ

戦える者は城壁に、それ以外のものは身を守るために動くための合図でもある


「俺達が相手になる」

前衛に出たのは元特攻と元精鋭の14人だった

その後ろにカクテュスの騎士と魔術師が並ぶ

一部の騎士に守られながら自警団が怪我人を助け出す


「貴様ら…この裏切り者どもめが…」

「我々を捨て駒としてしか見てなかったのに裏切るも何も無いだろうが」

「貴様らは忠誠を誓ったはずだ」

対峙したオナグルの怒声が響く


「忠誠ですか…」

「それこそ誓う内容は自由でしょう?」

「は?」

予期せぬ言葉にオナグルは呆けた声を出す


「俺は家族を守ると誓った。それは別にソンシティヴュでなくても出来ることだ」

そう言ったのはコニーだ

「そもそも王都にいる騎士で王族に忠誠を誓ったものがどれだけいたか疑問だな」

「何だと?」

「当然だろ?あんたらは俺達に何も与えてはくれなかったし、切実な願いに耳を傾ける事さえしなかった」

「自分の事をゴミとしか思ってない相手に忠誠を誓うはずがないだろうが」

「ならばなぜ騎士団にいた?」

「冒険者では簡単に揃えることが出来ない装備と、万が一自分が死んだときの家族への補償のためだ」

「それ以外に騎士でいるメリットは無いからな」

元特攻も元精鋭も吐き捨てるように言う


「何と恥知らずな…もういい。貴様らの事は許さん!」

真っ先に躍り出たのはオナグルだった

王族として幼い頃より剣の指導は受けている

でも最前線で魔物と対峙していた特攻と精鋭に、多少剣の覚えがある程度では敵わない

あっさりと剣を弾き飛ばされた

それを見てソンシティヴュの騎士がオナグルを庇う様に襲い掛かってくる

オナグルはその隙に安全な場所に身を隠した


「甘いな。あんたらは所詮自分の身を守る事しか出来ない」

精鋭は称号持ちの数倍の動きをする

特攻はそれよりも上だ

さらにカクテュスの騎士は戦闘狂だ

攻め入ってきた人数から考えれば被害は少なかった


それでも被害がないわけではない

隙をついて襲われるのは城壁の近くに住んでいた町の者だった



***

「非常事態だ、行くぞ」

屋敷で待機していた私たちは戦闘準備を整えた

出向くのは私とロキ、ダビアとマロニエ、そしてフロックスだ


「シュロ、屋敷の者を頼む」

「分かってる」

頷いたシュロを残し私たちは走り出した

冒険者として魔物と戦っていても、騎士の経験のないシュロには前線に出るよりも守りに回ってもらった方がいいというのはロキの判断だった

私も騎士の経験はないけど相手がソンシティヴュということで前線に出ることになった

途中防空壕やカフェに向かう町の者とすれ違う

どの顔も不安が浮かんでいるのを見ると少しでも早く収めたいと思う


「あれは…ナルシスか?」

前衛に立つゴージャスな装備を纏う男に顔を顰める


「ナルシスとオナグルは曲がりなりにも王族だ。壁はその力で破壊したんだろう。だがゴールドとシルバーの者が見当たらないのが気になるな」

「ああ、あとから乗り込んでくるのか、それとも同意を引き出すことが出来なかったのか…」

瓦礫となった壁の一部を見ながらロキとフロックスが言葉を交わす


「オリビエは俺と来い、ダビアとマロニエは騎士達の援護を、フロックス!」

「俺は騎士団と連携しながら調査にあたる」

皆まで言わなくてもわかるとフロックスはニヤリと笑う


「頼んだ」

ロキのその言葉に私達は分かれる


「オリビエ」

「ん?」

「頼むから無茶だけはするなよ」

「ロキもね」

こぶしを重ねた瞬間纏う気が変わる


「ナルシス!」

「…」

呼び捨てにしたロキを恨めしそうに見る


「馬鹿な真似を」

「喧しい!丁度いい、お前も家族の元に送ってやる」

対峙したナルシスはニヤリと笑う

その顔は醜く歪んだように見えた


「!」

殺気を感じて迫ってきた剣を受け止めるとそこにはオナグルが立っていた

ダビアとマロニエ、元特攻は町の者に向かおうとする騎士達と対峙している


「女、お前がこんなところにいるとはな…あいつらの隙をついて隠れていて正解だったようだ」

隠れてたって…乗り込んで来たくせに何言ってんの?


「おい!歌姫をどこにやった」

「はい?」

まるで私が隠したような物言いに首を傾げる


「これだけ探しても見つからない。考えられるのはお前が隠したということくらいだ」

「あほらし」

「何だと?」

叫びながら切りつけて来るのを適当にかわしながら考える

ソンシティヴュではまだイモーテルの行方を掴めていないのかと

まぁ閉ざされてしまった以上、外からの情報も入らないから仕方ないのかしら?


「死にたくなければ歌姫を連れて来い」

「それ、連れてこれたとしても死ぬ未来しか見えないんだけど?」

「クックッ…少しは頭が働くらしい」

「自分の望む相手に逃げられるような馬鹿に言われても嬉しくないわね」

「な…貴様!」

「でも今のあなたを見る限り…イモーテルじゃなくても逃げたくなるんじゃない?」

あえて煽る様に言う


「この…!」

単純な男は簡単に挑発に乗った

怒りに任せて動きが荒くなる

大きく振り上げた瞬間、風魔法で剣を持つ腕を切断した


「ぐあぁぁぁぁっ!!」

目の前を落ちていく自らの腕を見送りオナグルは喚いた

右腕のあった部分を抱えるようにうずくまるオナグルをこちらの騎士が拘束した


「これを」

「ありがとうございます」

魔封じの枷を受け取った騎士はオナグルの足首にそれを嵌めた

ロキを見ると同様にナルシスの腕に魔封じの枷を嵌めていた

ダビア達もケリがついている

でも周りはまだ終わったわけではない

私とロキは一般の騎士に拘束を任せて加勢に回る事にした


「大丈夫かオリビエ」

「大丈夫」

頷いて再びソンシティヴュの騎士に向きあう


「王と王太子は拘束した!まだ続けるか?!」

ダビアのドスのきいた声が響く

その声だけで一部の騎士は剣を捨てた

勝敗は明らかだった

でも…


悪あがきをする騎士達に追い回される町の人たちを見て走り出すより先に頭の中で同じような光景が浮かんだ

「え…?」


思わず足を止めていた

いつなのか、どこなのかはわからない

でも確かにその光景が私の記憶の中にあったのだ

「何…これ…」


気味の悪い感覚にとらわれてた私の視界の端に騎士に襲われそうな子供が映った

「ダメ!逃げて!」


叫びながら咄嗟に魔法で騎士の刀を吹き飛ばす

でも子供は恐怖でその場でうずくまってしまった

騎士がサブの武器を取り出すのに気づいたものの、この位置から魔法を放てば子供も巻き込んでしまう

子供に駆け寄り騎士から隠すように抱きしめる

次の瞬間背中に強烈な痛みと熱を感じた


「オリビエ!」

ロキの声がかすかに聞こえた


「もう、だいじょ…ぶ…」

腕の中の子供に告げながら私は意識を手放した



***

ロキは倒れこむオリビエを抱き上げた

オリビエを傷つけた騎士はロキの放ったナイフが喉に刺さった状態で事切れていた

「くそっ…毒か…」

傷口の周りの皮膚が黒くなっているのを見てロキは解毒薬を2本取り出し1本は傷口にふりかけ、もう1本を口移しで飲ませた


「フロックス!」

「ここだ」

フロックスはすぐに側に来た


「オリビエを頼む。解毒薬は飲ませたし傷口にもかけた」

そう告げたロキの目は怒りに燃えていた


「引き受けた。お前は…?」

「ゴミ掃除だ。これ以上誰も傷つけさせない」

言葉と共にロキは走り出していた

普段見せる事の無い冷酷さで町の者を襲おうとする騎士や傭兵を切り捨てていく

さっきまで命を取らないようにと手加減していたロキはいない

それを目にしたソンシティヴュの騎士は剣を捨てた


「敵うわけない…」

誰かが呟く


「何をやってる!1人でも多く殺せ!」

捕らえられてもなお叫び続けるナルシスの言葉が空しく響く


「無理です…」

「たわごとはいい!さっさと行け!」

側にいる騎士を怒鳴りつけるも騎士は動かない


今、騎士達の頭に浮かんでいるのはロキの二つ名だった


『戦場の悪魔』


凶悪な魔物をものともしない、魔物と対峙してかすり傷一つ負った事の無い男

それがロキだった

ソンシティヴュの騎士は当然それを知っている

1人で魔物に敵わない騎士程度が敵う相手ではない


戦意を失った騎士は次々と拘束されていく

この町は牢を持たないため魔術師がその場で作り出した

その中に10人ずつ放り込まれていく

ナルシスとオナグルだけは一人ずつ入れられたが…

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