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76.夢のような町(side:イモーテル)

「着いたよ姉ちゃん」

まだ成人したての若い商人は荷馬車を止めてそう言った

後ろで寝ていた私は眠いと思いながら、もぞもぞと毛布の中から顔を出す


「…こっちに来て」

そう言いながら商人を手招いた


「起こして」

それは目が覚めるまで抱けという合言葉だと商人は心得ていた

前の町で声を掛けてから1週間、それが毎日の恒例行事となっていたからだ

商人が二度ほど私の中で果てた頃ようやく目がさえてきた

もういいわと声をかけて体を起こすと周りを見回した


「本当にここなの?」

うっそうとした木が防風林のように茂っているのしか見えない

この奥に町があるようにはとても見えなかったのだ


「変わった街だからね。その門をくぐれば町だよ。よそ者の男は入れないから付き添えないけどさ」

「…わかったわ。ここまでありがと」

私は身支度を整えると荷物を持って馬車から降りた

最初は何も持っていなかったけど今は大きなバッグを2つ持っている

気前のいい商人が何人かいたおかげで懐も潤っていた


「自らここに来たいって人には初めて会ったけど姉ちゃんなら歓迎されると思うよ」

商人はそう言って馬車を走らせて去って行った

それを見送ってから改めて門を見る

そしてこれまでの事に思いを馳せた

オリビエと一緒に召喚されたその日からオナグルに囲われ、気づいたら専属娼婦のような立場になっていた


「さすがにここにオリビエがいるなんてことはないわよね。あの子潔癖だし」

元の世界でよく不特定多数と寝れるものだと言われたのを思い出す


「別に一人くらいオリビエに取られても構わないけど上玉だったのは誤算よね」

あくまで見た目にしか価値がない

捕まえた商人もそれなりに見目の良い者ばかりだ

もし子供が出来ていてもそれなりに見た目のいい子が生まれるだろうと思う


「それにしてもあれはいったい何だったのかしらね?」

頭にもやがかかったような状態がしばらく続き、自ら吐き出す言葉と心の不一致に気分が悪かった日々を思い出し顔を顰める

オナグルの言葉通りなら、あれは契約で操られていたということなのだろう


「最低ね」

そう言いながらも、そうすることでしか自分の元に引き留めておけない小物だと切り捨てる


「まあいいわ。あんな男よりもっといい男はいっぱいいることだしね」

ここに着くまでに約3か月数十回馬車を乗り換えた

つまり数十人の商人と楽しんできたのだ


「商人の中にもオナグル以上の男の方が多かったから楽しみね」

むしろオナグル以下を探す方が難しいかもしれないと笑みを浮かべながら門に向かって歩き出す


「この町に客か?」

門番は驚いた顔をする


「一妻多夫の町だと聞いたので」

「たしかにそうだが…」

「私をここに住まわせて欲しいの」

私はそう言いながら微笑んで見せる


「…身分証を」

「そんなものないわよ。あ、でもステータス表示すればわかる?」

「え?」

門番が答える前にイモーテルはステータスを開示した


「う…歌姫?」

「ええ。私の事よ」

「…本当に来た…」

ポカンとした顔で門番は言った


「どういうこと?」

「歌姫がここに向かってると…着いたら丁重にもてなせと…ハッ!」

もてなさなければと思い至り目を見開いた


「少しお待ちください」

門番はそう言って走って行った

その少し後、年配の女性を連れて戻ってきた


「歌姫が来られたと…?」

「ええ。私がそうです」

私はその女性にステータスを開示した


「おぉ…本当に歌姫が…本当にこの町に望んでこられたと?」

「ええ。勿論」

「失礼ですが…この町がどのような町か本当にご存知で?」

「そうね。一妻多夫の町。沢山の夫を持つのが義務なんでしょう?」

「あなたは本当にそれを望むと?」

「そうよ。だから来たんだもの」

即答する私に2人は顔を見合わせた

一体なんだって言うの?


「…わかりました。歌姫、あなたを歓迎します」

「ありがとう」

開けられた門を通り抜けて私は町を見渡した

門の外の鬱蒼とした雰囲気は全くない

広大な敷地の中にかなり距離を空けて家が建っているのが見て取れた

敷地の境と思われる場所に植えられた木は柵の役割を果たしているかしらね


「思ってたより素敵な町ね」

「そう言っていただけると嬉しいわ。あなたの住まいは…」

「東の角に空いてる家が」

「そうだったわね。どうぞこちらへ」

女性に案内されたのは青いドアの付いた大きな1軒家だった


「ここに住んでいいの?」

「ええ。ここの主人はあなたです。婚姻はこの書面を提出すれば成立します」

中に踏み入れてすぐ、ドアの側に置かれた台に同じ内容の書面が数十枚とペンらしきものが置かれている

「随分簡単なのね」

「はい。ここの規則は多くは有りません。男性側の重婚の禁止、女性は基本的に家から出ない、家に入れる男性はその家の主と婚姻した者のみ。それくらいです」

「家から出ずにどうやって知り合うの?」

「窓から声を掛ければ十分です。玄関口で互いにこの書面にサインし、男性が提出してくれば自由に出入りできます」

女性は淡々と説明を続ける


「婚姻が成立した男性にはそれぞれのドアの色と同じブレスレットを配られます」

そう言うと門番の男が自分の手首に着けたブレスレットを見せてくる


「ブレスレットをしている男性は婚姻済みです。あなたが婚姻することも、誘うこともできません」

「了解。ブレスレットしてない男を家の中から誘えばいいってことね?」

「その通りです。家事などは全て男性が担います。この町の女性の唯一の役割は男性と…」

「男と寝るのだけが仕事って最高だわ」

あけすけなく言い放たれた言葉に女性はあっけにとられた


「歌姫が本当にこの町での生活を望んでいるのは分かりました。私はこの町の領主でリシリア。何かあれば男性に呼びに来させてくれれば駆けつけるわ」

「分かったわ。ありがとう」

「それじゃぁ、この町をどうか楽しんで」

リシリアは暫く私のこれまでの事を確認してから帰って行った

家の外で待っていた門番も深く頭を下げてから門の方に戻っていく

私はその日のうちに5人の夫を迎え町での生活を楽しみ始めた

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