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72.根回し(side:王宮)

フロックスは明け方自室でロキからの手紙を受け取った

3国が亡命者を受け入れる決断を既に下していること、ただし称号持ちは除くことも含めて記されていた

「噂程度には耳にしてたが…まぁ、称号持ちを受け入れるほど甘くはないよな…」

少し絶望した気持ちを抱きながら呟き先を読み進める


そこには”新種の感染症“を作り出し、称号なしに王宮から出る選択肢を与えること

その功績を理由に称号持ちの中で、自身と騎士団長兄妹はフジェで特別に受け入れるよう取り計らうと書かれていた

その文面から自分に出来ないはずがないだろうという含みが見て取れる

「流石クロキュスだな…ありがたい」

フロックスにとって長年の悪友をこれほどありがたいと思ったことは無かっただろう

手紙を読み終えるとフロックスはすぐに計画を練った

その日は休みを取っていたため朝から1日がかりで準備を進める

夕方になるとフロックスの周りには大量の薬包紙に包まれた薬が積まれていた

それをいくつかの袋に詰めると手紙を書き称号なしのリストを同封して鷹を飛ばした


「まず下準備だな」

この計画を行う上での協力者が必要だ

最初に向かったのは王宮の医局

幸い今の医局長のジルコット・チャームは称号なしだ

情報をかいつまんで話し、薬を渡すことで仲間に引き込んだ


「一時的な症状は発熱、倦怠感、そして体のどこかに現れる白い斑点だ」

「それが表れていれば新種の感染症だと診断すればいいんだな?」

「そういうことだ。この後騎士団長のカトリックと精鋭に飲ませる。丁度今日魔物狩りから戻ってくる」

「なるほど。その出先で感染したと触れ回ればいいわけか?」

「ああ。そして彼らの診断をしながら俺を呼んで欲しい。その場で俺達も感染したことにする」

「では、我々はその後にこの薬を飲めばいいということですね?」

「そういうことだ。飲んで5時間もすれば熱も引く。そのタイミングで用意した人形を抗菌袋に詰める。俺達は自らも感染した姿をさらしながら最後を看取ったと告げるだけでいい」

「白い斑点が目印になり、勝手に死に至る感染症と広まる。診察に呼ばれた医師もその目印だけで判断できるというわけか。流石フロックス殿だな」

ジルコットは感心したように言う


「感染症を装えと言ってきたのはクロキュスだ。感謝はあいつにしてくれ」

「クロキュス殿が…ありがたいことだ」

「称号持ちはどうせ受け入れてもらえないから対象外だ。医局とメイド、料理人にはジルコット殿から広めてくれるか?」

「ああ、引き受けよう。カトリック殿が対象になるということは妹君も例外の扱いでいいのか?」

「ああ。その通りだ。薬は人数分用意してある。それを使うかどうかは本人に任せるが飲むのは騎士が死んだという情報が出回ってからにしてくれ」

「先に飲んだら筋が通らなくなるからな。そこは強く伝えよう」

ジルコットは頷いた


「身代わりの人形の用意も、埋葬場所に持ち込むのも変装した自分だということも伝えてくれ。あくまで全て自己責任だ」

「それは当然だ」

「王宮を出ることさえできればそれでいい。国を出る準備はその後でも間に合うからな」

「了解した。称号のないメイドは8人。医局は俺を入れて3人。料理人は確か2人か。今から伝えて回れば今日中に伝えられるだろう。早く伝えた方が人形の準備に時間を掛けれるからな」

そう言いながらジルコットは医局を出て行く

それを見送るとフロックスは騎士団に向かった


「カトリック、ちょっといいか」

「フロックス?珍しいなこんなところに」

カトリックは驚きながらも団長室に迎え入れた


「精鋭をここに集めてくれ。称号持ちは除いて」

「今称号があるのは俺だけだよ。尤も俺も妹も妾の子供だし家から勘当されてるがな」

カトリックは苦笑しながら精鋭を呼んだ

入ってきたのは10人、比較的若いものが揃っている


「今から話すことは一部の人間しか知らないことだ。特に称号持ちには漏らさないと誓ってくれ」

フロックスがそう言うと精鋭たちは姿勢を正し頷いた


「みんな知ってる通り今この国は非常に危うい。町では既に3国から職人の引き抜きが始まっている」

「知ってます。俺も出て行こうと思ったんですけど…」

一人が言葉を濁す


「通常なら退職願を書けば出ていける。でも上層部が緊急事態と判断した今それは叶わないだろう。特に精鋭ならなおさらだ」

「…」

「特攻が既に抜けてしまっている今、少しでも手駒を置いておきたいということですよね?」

「その通りだ」

フロックスが断言すると皆の顔が険しくなる


「だが、君達精鋭をクロキュスがフジェに招きたいと言っている。カトリックと君の妹に関しては称号持ちだがクロキュスが手を回してくれるそうだ。勿論俺もな」

「クロキュスが?」

「カトリックはダビアから少しは聞いているんだろう?」

「あ、ああ。どうにもならなくなったら精鋭なら受け入れてもらえると…」

でもまさかクロキュスの名前まで出て来るとは思わなかったのだろう


「ありがたいけど…そんなことが可能なんでしょうか?」

「その辺はクロキュスと俺がいるからな」

ニヤリと笑い薬を渡していく


「これは?」

「感染病を作る元だ」

「感染症を作る?」

「この薬を飲めば新種の感染症の症状を引き出すことが出来る。と言っても5時間ほどで効果は無くなるがな」

「…わかるように説明して欲しいんだが?」

カトリックが困惑した顔をフロックスに向ける


「体のどこかに白い斑点が現れるという感染症を作り出す。その最初の感染者として魔物狩りから帰って来たばかりの君たちは適任だろう?」

「…そんなことが?」

「医局長のジルコット殿も抱き込み済みだ」

フロックスはそう言いながら人数分の等身大の人形を出現させた


「な…?」

「これは?!」

「それは君たちの身代わりだ。今から君達にはそれを持って自室に戻ってもらう。身の回りの物だけすぐにまとめてその薬を飲むんだ」

そう言われて手元の薬包紙を見る


「飲んで少しすれば発熱や倦怠感が現れる。そして白い斑点が出てしばらくしてからジルコット殿を呼べ」

「それで上手くいくのか?」

「言っただろう?ジルコット殿も仲間だ。ジルコット殿は診断中に俺を呼び寄せる。一旦未知の症状だと判断し、俺たちは医局に戻る」

みんなフロックスの話を黙って聞いていた


「効果が切れるタイミングで急変したと再び呼び出してもらい、ジルコット殿が死亡を告げる。その頃には俺達にも白い斑点が出ているはずだから、そこで新種の感染症だと広める。」

スラスラと告げられる計画に皆が聞き入っていた


「その後はすぐに死に至る感染症だと王に報告する。君たちは変装し、配られる抗菌袋にその人形を入れて自らの住民票と共に埋葬場所に持って行けば完了だ」

「俺達は死んだことになるのか?」

「心配しなくてもフジェで新たに住民票を発行してもらえる。君たちは王宮を出さえすれば身動きが取れるはずだ。同行者がいるならその手配をする時間くらいは持てる」

その言葉にホッとした顔をする者が数名


「あとは各自フジェに向かい、向こうの検閲でクロキュスの作戦でここに来たと告げればいいそうだ。その後の事は向こうで全て手配してくれる」

「そこまで…」

「ありがたい」

「あと、フジェに着いたらカフェに顔出せとも書いてたな。カフェは1軒しかないから誰かに聞けばわかるらしい」

そこまで言うと精鋭のすべきことを繰り返して伝えた


「薬を飲むかどうかは個人に任せる。勿論その後の行動に対してもだ。ただ、この情報を外に漏らすことだけはするな」

その答えを聞くまでもなく皆薬を飲むのだろうことは分かった


「精鋭でない騎士に称号なしは少なかったな?」

「ああ、大抵地方の町に所属するからここには10名しかいない」

「ならこれを渡しておく。どうせ同室だろ?」

騎士は2名で1部屋を使っている

称号持ちは基本的に称号なしと同室になることを好まない


「今の話をして人形作りだけ手伝ってやれ。精鋭でない者でも3国は受け入れる。王宮にいる称号なしのリストは、3国に渡されるから住民票の事は気にしなくていいと伝えてやるといい」

「…感謝します」

誰かが言うと皆が頭を下げた


「カトリックの妹にはジルコット殿が伝えてくれる。待ち合わせる場所があるならついでに伝えてもらうが?」

「ありがたい。では湖でと」

「湖ね。それで伝わるんだな?」

「はい」

カトリックは頷いた


「ほかに質問がある者は?」

誰も口を開かなかった


「なら準備できたものから始めてくれ。少々時間にずれがあった方が信ぴょう性もあるだろう」

フロックスはそれだけ言うと騎士団を後にした


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