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69.やらかした(side:王宮)

1週間後、婚姻式は盛大に執り行われた

ソラセナの時とは違う上品なその式典は、様々な意味を国内外に知らしめた

「前回と違い我々も招待されるとは驚きですな。一体どういう心境の変化かな?」

そう言われたのは式の後のパーティーで3国の王が座るテーブルに挨拶をしに来た時だった

カクテュスの王モーヴ、ブロンシュの王ポンセ、マァグリの王レンヌが揃ってナルシスとオナグル、マチルダを探る様に見ている


「それは…」

「その節は大変失礼をいたしました」

口ごもるオナグルを遮り真っ先にそう言ったのはマチルダだった


「おや、正妃から謝罪が出るとは驚きですな。あなたはたった今王族に属したに過ぎない」

「それでも国としての謝罪は必要ですわ」

「国として…つまり当時ただの小娘だったあなたが突然それだけの権力を手にしたという事かな?」

「いえ、決してそのようなわけではございません」

「ではどういうことか教えてもらいたいものだな」

「そもそも、あなたは当時の事で何を知っているというのか」

その言葉には内容を知らぬものの謝罪など意味がないと言外に伝えていた

「勿論すべてでございます。だからこそ…」

「それはおかしなことをおっしゃる。知っていたのにあのようなことが起こったと?」

「!!」

マチルダは一瞬目を見開いたが何とか取り繕った


「そう言えばこの国は最近まで王族至上主義だったように記憶しているが、いつの間にか称号持ちが力を手に入れたようだね?」

「そのようなこと…ありえませんわ。だからこそ私の父も、私をオナグル様の正妃にと強く望んだのですから」

マチルダはにっこり笑ってそう返す

「なるほど。そう言えば先ほど正妃殿は国として謝罪すると申された。それには王族に対する企みの結果だった謝罪も含まれているのかな?」

そう言ったのはモーヴだった


「な…」

初めてマチルダの笑顔が崩れた

ソラセナの処刑が王家の信頼を失ったのはもちろん知っていた

でもその裏でゴールド3家が結託していたことが疑われるなど思いもしなかったのだ

紛れもない事実だけに真っ向から否定するのは悪手

かといって誤魔化せるだけの言い訳も浮かばない


「王族に対する企み?どういうことだマチルダ」

オナグルが声を荒げた


「そ、そのようなことあり得ません。いくら3国の王とは言え証拠もなくそのようなことをおっしゃるのはおやめください」

言い訳の代わりに出たのは反撃だった

それが真っ向から否定するよりも悪手だとマチルダは気づかない

強気に出たことで勝ち誇った笑みさえ浮かべて見せた


「証拠ね。我ら3国の王が何の確証もなく発言すると思われているとは心外だな」

「どういう意味でしょう?」

「あまり我らを見くびらないでもらいたい。忘れてる者も、知らない者も多いようだがクロキュス・トゥルネソルの産みの母親シティスは私の妹だ」

「「え…?」」

マチルダだけでなくオナグルも驚きの声を上げる

ナルシスだけは今になって思い出したように顔を青くする


「歌姫を召喚させたのは国としての行いだろう?止めることも出来たはずなのにあえてそれをしなかった者もたくさんいたようだ」

「あ…」

レンヌに真っすぐ見ながら言われたマチルダは言葉を失う


「国賓として大切に扱われているはずの歌姫が、このような場に参加していないとなると、どのような扱いを受けているのかも興味深い。体調が悪いというわりに、カクテュスに支援要請がないのも気にかかる」

「そうだな。召喚された者が苦しんでいるなら、何としても助けようとするのが本来の姿のはず。それを何の力も持たぬ自国だけで何とかしようとするなど愚かにもほどがあるからな」

「まぁ、フジェが我が国の領土になったおかげで、今後はクロキュスとも親交を深めることが出来そうだ。色々調べやすくなることだろう」

「それに…召喚の際にイレギュラーが起こったという興味深い噂の事もある。なぁナルシス殿?」

「それは…」

3人の王は代わる代わる口を開く

以前ナルシスが隠せたと思っていたことは、全て知られていると思わざるを得ない状況だった


マチルダは自ら国として謝罪するといったことを後悔した

彼らの言うように本来ならマチルダが謝罪するいわれは無かったのだ

でもソラセナが王妃になることをあえて止めず、処刑にまで追いやった現実はマチルダの中で大きなくさびになっていた

その罪悪感が謝罪させたのだ

それは同時に称号持ちが結託して企てたのだということを、自白しているのを臭わせるには充分すぎた


「まぁ、真実はそのうち明らかになるだろう」

「あぁ、そうだな。ただ…新たな正妃殿、言葉遊びをする相手はよく吟味することをお勧めするよ。相手を見くびっているようにも見えるからな」

「私はそのようなつもりでは…」

「見えるのではなくそのままだ。ただ我々も暇ではない。挨拶も済んだことだし席を立たせてもらうよ」

「そんな…もう少し…」

マチルダは咄嗟に引き留めようとしていた


「聞こえなかったかな?身の程をわきまえない小娘を相手にするほど暇ではないんだ」

「ひっ…」

威圧を含んだその言葉にマチルダの顔が青ざめていく


「今回の招待状は王家ではなくロクタビア家が用意したものだった。どのような言い訳や謝罪が出て来るか様子をみていたがそのことにも気付いていない。そのような国に留まる意味が見いだせないのだよ」

「マチルダそなた…?」

「いえ、私は王家の名で…」

ナルシスの言葉にマチルダは必死で言い訳しようとする


「確かに王家の名だった。しかしこの蝋封はロクタビア家のものだろう?」

ポンセが招待状をテーブルに置いた


「あ…」

マチルダがその場に崩れ落ちる

王族の婚姻パーティーの招待状で王家の物ではなく他家の蝋封をするなどありえない

マチルダが自ら嫁いだ王家を軽視していたと言われてもおかしくない状況だった

さらにそれは自らが軽視する王族の婚姻パーティーに招待すると言外に伝えていたともいえる


「ソンシティヴュが我ら3国をどう思っているのかよく理解した。正式に謝罪があればと思っていたが…今後の付き合いはじっくり考えさせていただこう」

モーヴはそう言うなり他の2人と共に転移し姿を消した

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