66.おやつは…
「そういえばシュロはこの町にはいつまでいる予定なの?」
余りにも落ち込むシュロが不憫で話を逸らすことにした
理由が理由だけにあまり引きずらないでもらいたい…
「少なくとも1か月ぐらいはいようと思ってる。迷宮次第なんだけどな。この町の側は迷宮が多いからどうなるかは分かんねぇけど…」
「じゃぁここに泊まる?部屋はいっぱい空いてるけど」
「それは助かる。ここに来る前に宿を探したけどいっぱいでさ。もう野宿するしかないと思ってたから」
そう言えば騎士や職人が優先されていると聞いた気がする
野宿を覚悟しながら従兄弟を訪ねてるにも関わず、泊めてと言わないあたりシュロの人柄が伺えるわね
「マスタースイートとスイートと個室とあるけど希望はある?」
「…何だよその選択肢」
当然の反応かしら?
「そのままだ。もともとここはソンシティヴュの王が個人的に買った別荘だからな」
「あぁ、なるほど」
あっさり納得された
そういうものなのかしら?
「俺は寝れればいいから個室でいいよ。最近、部屋が広いと逆に落ち着かない」
とても王族の言葉とは思えないわ
「じゃぁ後で案内するね。ご飯とか食べれないものってある?」
「別にない」
「よかった。それと、ここは従業員やその家族、住人もみんな一緒に食事するけど一緒でいい?嫌なら部屋で食べてもらってもいいんだけど…」
「いや、一緒でいいよ。人と話すのは好きだから」
シュロがそう言った時エントランスの方が騒がしくなった
「オリビエおやつー」
リラの声だ
「ふふ…子供たちがお腹すかせて帰ってきたみたい。丁度いいから紹介しましょうか?」
「ああ。ついでに俺にもそのおやつを貰えると嬉しい」
「お前今まで散々食ってただろ?」
「それはランチ」
キッパリ言うシュロにロキがうんざりしたような目を向けた
ひょっとしてシュロの胃袋はダビア同様の底なしなのかしら?
「リラ、みんなとサロンにおいで」
「はーい」
声をかけるとパタパタと小さな足音がいくつか近づいてくる
「あれー?お客様?」
「初めて見る人だ」
「馬鹿。まず挨拶だろ?こんにちは」
「「こんにちは」」
コルザの言葉にロベリとリラが揃って頭を下げた
「初めまして。俺はシュロ。クロキュスの従兄弟だ」
「いとこ?いとこってなに?」
「友達と似たようなもんだよ」
「じゃぁ仲良し!」
リラはそう言いながらロキの膝によじ登る
「今日のおやつは何?」
「何がいい?」
「んとねぇ…」
「ホットケーキ!」
「「さんせー」」
「分かったわ。今日はここで作りましょう」
私は魔道具の過熱プレートを取り出すと準備を始めた
ホットケーキなら量も調整しやすいから丁度いいかもしれない
「いい匂いだな?」
「でしょう?さぁ、もうすぐできるからジョンやオリゴン達を呼んできて」
「その必要は無いぞ。みんな匂いにつられて戻って来とる」
その声に顔を上げるとみんなが部屋に勢ぞろいしていた
「こっちで自己紹介も済んでるぞ」
「そうだったのね。全然気づかなかったわ…」
これだけ賑やかな人たちが揃ってるのに気付かなかった私っていったい…?
そこまで集中してるつもりは無かったんだけどね
「カメリアこれ仕上げお願い」
「任せて」
焼けたものを皿に乗せてカメリアに渡すとバターや生クリーム、フルーツを乗せてデコレーションしてくれる
こういう作業も随分手慣れたなぁと思わず感心してしまう
暗黙の了解で小さい子たちから受け取り食べ始める
「次はウーね」
「俺より先にシュロだよ」
「お客さんだしね」
ウーに続きブラシュも言う
「あなた達いつの間にそんな気遣い覚えたの?」
カメリアが驚いている
「カフェの手伝いしてたら何となく」
「オリビエのマネして間違う事はないもんね」
「えーそれは何か責任重大でヤダなぁ」
思わず苦笑するとみんなにも笑われた
「何かいいなぁこういう感じ」
シュロがしみじみと言う
「何だよ突然」
「ん?あぁ、なんていうかお互いに言いたいこと言い合って笑いあえるのって貴重だなって思ってさ」
「お前さん分かってるじゃないか」
ナハマがニヤリと笑う
これは何かを企んでる時の顔だ
「オリビエ、今日はバーベキューで食って飲んで騒ぐぞ」
「「バーベキュー」」
「肉!」
子供達に続き叫ぶダビアに、みんなからの呆れた眼差しが突き刺さる
「い、いいだろ別に?ちゃんと俺が食う分以上に提供するし」
「やったー。僕も食べていい?」
「ああ、いいぞ。好きなだけ食え」
2つ返事のダビアに子供たちは飛びついていく
「なぁ、バーベキューって?」
「外で肉や野菜を焼いて食う」
「え…っと?」
「…それ、間違ってはないはずなのに何か違うものに聞こえるから不思議ね」
困惑気味のシュロを見てカメリアが笑いながら言う
確かに間違ってはいないのよね
でもそれでバーベキューをイメージできる人は多分いないと思う
「ロキの説明は簡潔すぎて言葉足らずなのかもね」
「そうか?」
「…わからない俺がおかしいわけではないんだよな?」
「そうね。今ので分からないのはシュロだけじゃないと思うわ」
「それは良かった。で、結局何なんだ?」
「まぁその時のお楽しみってことで」
「何だよそれ。めっちゃ気になるんだけど?」
シュロが苦笑しながら言った
「それよりシュロ、冒険者なんだよな?」
「ん?ああ」
「迷宮のことなんだけどさ…」
マロニエとダビアはシュロが冒険者だと知ると迷宮の話に夢中になった
3人の話を子供たちが目を輝かせて聞いている
その表情からはワクワクしてるのが見て取れた
「なぁクロキュス」
「あー?」
「俺しばらくここにいていいか?こいつらとフジェの迷宮全部攻略するわ」
シュロがそう言いだすまで時間はかからなかった
全部攻略するとなると1か月ではとうてい足りないだろうけどね
「好きにすれば?時々食材提供してくれりゃそれでいい」
どうやら住人が一人増えたようだ
相手してくれる人が増えたと子供達は大喜びだった