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62.薬草

ここにきて私は薬草の本を片っ端から読んでいた

それ以外にも、オリゴンとブラシュと共に意見を出し合う時間が増えている

元の世界と同じ部分もあれば全く違う部分もあるのでかなり楽しい


「何か面白い事書いてたか?」

本を閉じたとたん尋ねられる

顔を上げるとロキが自分の読んでいる本を開いたままこっちを見ていた


「そうだね…ちょっと試してみたいことは出てきたかな」

「試してみたいこと?」

「薬草を使ったお茶やお酒を造ってみようと思って」

「薬草を?」

「そう。元の世界では飲んでたのよね。同じ薬草もあるし、今育ててもらってるのでも使えそうなのがあるから」

「へぇ…酒は面白そうだな」

どうやら興味を持ったらしい

まぁロキはお酒大好きだからね


「言うと思った。でもお酒はすぐには飲めないよ。しばらく漬け込むから」

「どれくらい?」

「3か月~6か月かな」

「そんなにかかるのか?」

すぐに飲めるものだと思っていたロキはかなり驚いているようだ


「エイジングが上手い事使えればひょっとしたらその期間は短くなるかもしれないけど、煮込むのには使ったことがあっても熟成させるのには使ったことないんだよね…」

「…無理に短くする必要はないな。早く飲みたいとは思うがうまい方がいい」

「だよね」

2人笑いあう


「あ、でも薬草を乾燥させるときは魔法使うけどね」

「乾燥させてどうすんだ?」

「乾燥させたのを砕いてお茶にするの。何種類かブレンドしてもいいし、そのままではちみつとか混ぜるのも有かなぁ?」

「へぇ…あんまイメージ出来ねぇな」

想像してみたものの無理だったらしい

しきりに首を傾げている


「あとはちょっとした薬も作れるかなーって」

「薬って…薬師が泣くぞ?」

「そんな大層なものじゃなくて…虫刺されのかゆみ止めとか軟膏とかそういうのね」

「あぁ、薬師に頼むほどじゃないけど地味にありがたい系か」

何とも上手い事言うもんだ


「そういうの、携帯用の商品として売り出せるんじゃないか?」

「まぁ…できなくはないと思うけど?」

「オリゴンに言ってやれば?冒険者に喜ばれるしあいつらの小遣い稼ぎにもなんじゃねぇの?」

オリゴンとブラシュはギルドとも連携して薬師として活動はしているものの安定した収入とは程遠い


屋敷の畑で自分たちの薬草を増やしてはいるもののそれが直接収入になるかというと難しく、結局薬師としての仕事でしか稼げないのが現状だ

「入れ物とかは考えなきゃだけどいいかもしれないね」

「香辛料がドロップされるときのケースなんて丁度いいんじゃねぇの?お前大量にあるだろ」

「そういえば…あれ蓋つきだし軽いか。何かに使えるかもって全部置いてあるんだよね。あとでオリゴンに言ってみよう。私はお茶とお酒の方がメインだしそういう意味でも丁度いいかもね」

「俺は酒だけでいいけどな」

ボソッと言うロキに苦笑する

お酒好きなのは知ってるけどね

とりあえずお茶よりも先にお酒の準備をしようと心の中で決めた


その日の夕食後、食堂でオリゴンとブラシュと共に薬づくりを試すことになった

「とりあえずかゆみ止めと軟膏を試してみようと思って」

「薬草はこれでいいんだよね?」

ブラシュが摘み立ての薬草を盛った籠をテーブルに置く

どれも洗ってあるあたり流石だわ


「ドクダミとツユクサはかゆみ止めね。オオバコは切り傷用の軟膏、ヨモギはかぶれや火傷用の軟膏かな」

「しかしそんな簡単に作れるもんか?」

「ん~少なくとも元の世界では作れてたよ。こっちではやってみないと何とも」

「上手く行ったらもうけもんってことでいいんじゃねぇの?」

困惑気味のオリゴンにロキが言う


「まぁ確かにこの薬草もこれ以上置いといたら枯れるだけだしなぁ」

「そうだよ親父。何事もやってみないと」

ブラシュはそう言いながらサクサクと薬草を分けていく


「ドクダミとツユクサはそれぞれこの瓶に詰めてね。長期保存できるように度数の高いアルコールで漬けちゃいます」

「…酒がもったいねぇな」

「ロキ、心配しなくてもこれ、ロキの嫌いな45度のお酒だから」

「あぁ、飲むより燃料に使われるやつか?」

「そういうこと。用途が元々燃料だから入手するのも安いしね」

この世界では酒は飲料と燃料に用途が分かれている

燃料用の酒は度数が高いだけで飲めなくはないものの、美味しいと思う者はほぼいないという代物だ。その分値段は非常に安い。代わりに飲料用は嗜好品になるのでそれなりに値が張ってしまう


「オリビエ入れたよ」

「ありがと。じゃぁふたを閉めて、1週間ほど放置でできあがりね」

「「「は?」」」

3人がこっちを見た


「言ったでしょ。簡単だって」

「いや、簡単ってレベルの話じゃないだろ?」

「難しいよりいいでしょ?」

言い返すと黙り込んでしまった


「じゃぁ次は軟膏ね。こっちはさっきよりは手がかかるから」

「さっきよりは、ね…」

オリゴンが苦笑しながら言う


「私はオオバコを使うから、ブラシュはヨモギを使ってね」

「了解」

「この容器にオイルと薬草を入れてね」

そう言いながら容器を渡す


「入れたよ」

「次はこれを湯煎する」

大きめの容器に熱湯を入れて自分のつめた容器を中に浮かべた

ブラシュも真似して中に浮かべる


「15分くらいこのまま置いて成分を出してる間に濾す準備をするよ」

「濾す?」

「そう。この後オイルだけを使うからね」

「薬草は使わない?」

「軟膏には使わない。でも乾燥させて置いておけば消臭剤として使えるよ」

「消臭剤だと?」

オリゴンが食いついた


「ど…うかした?」

興奮気味のオリゴンに困惑してロキを見る

この食いつきはどう考えても異常だわ…


「あー消臭剤は高い」

「え?」

「簡単には手が出ないんじゃないか?」

「その通りだ」

激しい同意にちょっと後ずさる


「消臭剤って言っても食料庫とかに使える程度の物なんだけど…」

「それでも普通の家庭では使わないな」

「え…と…何かやらかした感じ?」

「大丈夫だ。原料は誰でも手に入れれるものだし問題ない。オリゴンとブラシュが儲ける道を手に入れたってだけだ」

「そ?ならよかった」

ロキがそう言うなら問題ないだろうとホッとしたんだけど…


「何でそうなる?」

「そうだよ。オリビエのアイデアで俺らが儲けるとかあり得ないし」

「別にいいと思うんだけど…」

「「よくない」」

声をそろえて言われるとどうしようもない


「…どうしようかロキ」

「そうだなぁ…ならレシピを売るか、もしくは売値からマージンを貰うかくらいか」

「レシピってもう聞いちゃったし。何なら一緒に作ってるし…」

「だよね」

ブラシュの即答に苦笑する


「いくらで売ることになるかは分からんがその5割をオリビエに渡す。勿論こっちの畑で作った分だけだがな。預かってる畑の分は容器を分けて管理する。そっちは全額オリビエのものだ」

「5割は多すぎだって」

「多くない」

「多い。2割」

「少なすぎだ。話にならん」

「…じゃぁ3割。それ以上は受け取らない」

言い切るとオリゴンは諦めたように大きく息を吐きだした


「分かった。それで手を打とう」

「…マージン上げろってごねる奴はよく見るけど、下げろってごねんのお前くらいだろうな」

ロキが呆れたように言う


「いいでしょ。別にお金には困ってないし、そんなの貰わなくてもオリゴン達が張り切ってくれればそれだけで売上上がるんだから」

「まぁそれは間違いないな。それよりそろそろ15分経つぞ」

「あ、ほんとだ。ブラシュ」

「うん。次は?」

「ざるを使ってオイルと分離」

「了解」

目の細かめのざるを渡すと別の入れ物の上で容器をひっくり返す


「できたよ」

「じゃぁもう一度熱湯を用意して、このオイルの中にミツロウを入れて湯煎する。ミツロウの量はオイルの15~20%くらいかな。好みの固さになる様にミツロウの量を調節すればOKよ」

「なるほど。軟膏の固さが色々あるのはそのせいなんだ?」

「そういうこと。湯煎してミツロウが解けたら容器に入れて固まるのを待つだけよ。今回はこれを使ってみましょう」

「これは?」

「迷宮の香辛料や顆粒出汁が入ってた容器よ。大きな容器に移しちゃうから大量に余るのよね。おかげで容器代はタダよ」

「平べったいのが軟膏かな?」

「そうね。使いやすさから考えたらその方がいいかな」

2人でせっせと容器に入れていく


「あとは中身が分かる様に蓋にラインを引くとかして区別するくらいかしらね」

「オリビエ、この薬もスイーツみたいにタグ管理していい?」

「別にいいけどそんなに種類は無いでしょう?」

「そうなんだけど、きれいに並べたりすると不公平な気がするんだよね」

「不公平?」

「うん。オリビエの事だから俺達のも一緒に並べるだろ?」

ブラシュの言葉に何となく言いたいことは理解した


「お客様向けにはラインの色で種類を区別して、俺と親父とオリビエの分の区別はタグでって思って。並べるんじゃなくて籠に入れておけばお客さんが好きに選べるし」

「私は別に構わないわよ。でもどうしてそんな風に思ったのかは興味があるわ」

成人したての子がここまで考えてしまう理由の方に興味がわいた

でもその答えはブラシュじゃなくオリゴンがもたらしてくれた


「ギルドで薬を置いてもらってるだろ」

「ええ」

「受付にいる者によって贔屓にする薬師がいるようでな」

「ギルドは受付の人が選んで渡すから…」

ブラシュは少しすねたように言う


「そういやこの町には女性の薬師がいたか」

ロキの言葉に納得してしまった


ギルドの受付は男性が9割

人間のサガと言えばそれまでだけど生活がかかっている以上、そんな言葉では済ませられないものがあるのも事実だろう


「わかった。売り方や並べ方は2人に任せるから納得いくようにやってみて」

「…いいのか?」

「勿論。私は2人を信用してるもの」

オリゴンが気にしていることを察した上で先に告げる

そもそもマージンを高く設定しようとする2人が自分たちの利益だけを考える等かけらも思っていない

それ以前に一緒に暮らしてきた時間で2人の人柄を見るには充分だから


「感謝する」

オリゴンの言葉にただ頷きだけを返す


「親父、収穫時の薬草が沢山あるから明日から忙しくなるよ」

「あぁ、そうだな」

「じゃぁ今使ってた道具とこれは2人に渡しておくわね。こっちの材料も先に預けておくけど減ってきたら教えて」

「わかった」

「そういえば3段のラックがまだ残ってたよな?材料を分けておいとくのにあれを使いたい」

「作る場所と保管する場所も必要になりそうね」

「庭に空いてる小屋があったろ」

ロキが思い出したように言う


窯に気付かなかったことで一度庭も隅々まで確認してみたのだ

その際に4畳ほどの小屋を3つと木材加工用の工場のような場所を見つけていた

因みに小屋は後から設置したもののようで移動することが出来る作りになっている


「そう言えばあったね。あの小屋1つ動かそっか。ジョン達の道具をしまってる隣くらいでいいかな?」

「ああ。そこにラックをいくつかと作業台になりそうなもん運べばいけるだろ」

ロキと話していると2人がポカンとしていた


「俺ら自分の部屋で充分だけど…」

「空いてるから遠慮しなくていいよ。畑からの導線も考えれば庭にあった方が便利でしょう?それにこれから色々増やしてもらわないといけないしね」

薬草は2人と出会った迷宮にしかないわけじゃない

いろんな場所で入手できるのだから、この先もっと色んな種類が増やせるはずだもの


「オリビエには敵わないな」

「決まりだな。明日小屋を移動して家具を運ぼう。雑貨コーナーの為の改築も明日だったよな?」

「そうだよ」

「なら2人も立ち会って希望出した方がいいな」

「え?」

「ジョン達も立ち会うのよ。これから作りたい物が並べられるようにしとかないと勿体ないでしょう?」

「そういうもの?」

「ああ。例えばだな…お前がさっき籠に入れてって言ってた案でも、その籠を置くスペースがなかったら叶わないわけだ」

「…なるほど」

「そういう意見や希望を皆で出し合って、わがままな注文を上手く形にまとめてもらうための場よ」

「…その言い方は何か違う気もするけどな」

ロキが呆れたように言う

でも2人は納得したようで色々考えてみると意気込みながら部屋に引き上げていった


「楽しくなりそうだね」

「今でも十分楽しいけどな」

「それは否定しない」

そう返すと背後から覆いかぶさるように抱きしめられる

その温もりが心地いい

側にいて、当たり前のように味方でいてくれる

ただの気まぐれのような思い付きを驚くような形にしてくれる

そんな頼りになるロキがいて楽しくないはずがないのだから

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