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60.なぜかある

「…窯ならあるぞ?」

少し考え込んでいたジョンが言う

今の、空耳じゃないわよね?


「ジョン本当?」

「ああ。庭の小屋の裏側くらいに古い窯がある。長い事使われてないから今も使えるかはわからんが…」

それは初耳なんだけど?


「それが誰のモノかは分かる?」

「一応ここの敷地の中だからオリビエのもんじゃないか?」

マジか?

驚きの事実が発覚したようだ


「ミュゲ、一度使えるか見てみて…もし使えそうなら自由にしてくれて構わないけど」

「本当か?でも申し訳ないな…窯自体が結構な費用のかかるものだし場所代も…」

「カフェで使う食器を作ってくれたらチャラって言うのでどう?」

「お前はまた…」

ロキが呆れたように言う


「え?ダメ?窯の存在すら知らなかったくらいだし、活用されるならその方がいいと思ったんだけど」

「いや、俺としてはそんなことで?って言いたくなるほどありがたい申し出なんだが…」

そう言って口ごもるミュゲに何が問題なのかと首を傾げる


「ただ、同じものを大量にはちょっと…」

「あぁ、それは問題ないわ。さっき見てもらったショーケースの辺りはメニューがない商品なのよ。つまり日毎に中身が変わるのよね」

「メニューがない…確かチラシにタグで値段が分かれてるって?」

「ええ。商品自体が毎日変わる上に数も決まってないのよ。試しに1つ2つってこともあるしケーキ1ホール分あることもあるって感じで」

「なるほど…だから別に揃ってる必要は無いってことか」

「ええ。むしろ違う方が色んな商品に合わせやすいかも。まぁ窯が使えたらの話なんだけど」

「そういうことならそれ食い終わったら見に行くか」

「ありがたい」

ミュゲは安堵した表情を見せた


「せっかくだからカフェを少し広げて雑貨を置くスペースでも作ろっか?」

「何置くんだよ?」

「ん?これから色々おけそうでしょう?出来すぎた野菜とか、花も切り花で売るのもいいかもしれないし…オリゴン達もギルドに置いてもらうのにはマージン取られるんでしょう?」

「ああ、まぁそれでも確実に需要のある場所だからなぁ」

その辺の店に置くよりギルドに置くのは確かに確実な手段だ

需要があるのもわかり切ってるものね


「そういう意味で言えばこのカフェも騎士さん達も結構足を運んでくれるじゃない?ついでに買ってもらえたら儲けものでしょう」

「あぁ、それは確かに有り難いな」

「畑で間引いた分を苗として売ってもいいの?」

「それも有よね」

「店番どうすんだよ?」

ロキは賛成とも反対とも言わずに現実的な問題点を突っ込んで来た


「置いてるもんが交代で立てば問題ないんじゃないか?」

「そうね。カフェがすいてる時間なら私が一緒に見ることも出来るしね。窯が使えたらミュゲのお皿も一緒に並べておくのもいいんじゃない?」

「有り難いが俺は中々店に立てないぞ?」

「代わりに私が立ちます。それでも許されるかしら?」

「ええ、もちろんよ」

結局その方向でどんどん話が進んでいく


「オリビエ」

「何?コルザ」

話に割って入ってきたコルザは遠慮気味に私の手を引っ張っていた


「まだ遊んでてもいい?」

「ええ。いいわよ。マロニエお願い」

「了解。でもちょっと人数増えたからダビアも来てくれよ」

「確かに一人じゃ大変な数だな」

ダビアは笑いながらマロニエと共に子供たちの後を追って行った


「カメリア、お店ちょっと間お願いしてもいい?ミュゲと一緒に窯を見て来るわ」

「いいわよ。行ってらっしゃい」

笑顔で送り出されて私とロキ、ミュゲとジョンで窯に向かう


「こんな方入ったことないな」

ロキが驚きながら言う


「わしらでもめったに行かん場所だからな。ほれ、その小屋の横だ」

「小屋の裏にまだ小屋があったのね?」

今まで全く気付かなかった


「立派な窯だ…見たところヒビもないし多分問題ないだろう」

ミュゲは念入りに確認しながらそう答えた


「良かったわ。こっちの小屋は?カギは…かかってないわね」

押してみたらドアが開いた


「おお…ろくろまであるのか…」

ミュゲが感動したようにろくろに近づいていく

そして慣れた手つきで魔石を起動させた


「こっちも問題なさそうだ。これは…誰かが陶芸してたってことなんだろうけど…薪も積んであったし土も数種類そのまま残ってるからいつからでも始められる」

「まぁ今はだれも使ってないからミュゲが使ってくれていいわよ。勿論この小屋も含めてね」

「ありがたい…本当に感謝する」

「気にしないで。その代わり、食器はお願いしますね」

「ああ。任せてくれ」

ミュゲが力強く頷いた

窯の確認も出来たためカフェに戻る


「あ、窯はどうだった?」

カメリアと話していたラミアが尋ねる

「大丈夫そうだ。実際火を入れてみないと何とも言えないが…」

「まぁ、何かあっても修理で事足りるなら大丈夫だろ」

ロキが言う


「この先の仕事の目処も立ったからとりあえず今日は帰るよ。家の方の荷物も揃えないといけないからな」

「じゃぁマロニエたち呼んでくるよ」

「ロキ、私が行ってくるわ」

カメリアが出て行こうとしたロキを引き留め庭の方に走って行った


「今からだったら住民登録の時間にも間に合うでしょうから先にそちらへ」

「ん?ああ」

「そこに寄せ集められた物資が置いてあるので必要なものがあればお持ちください」

「え…と?」

「住人の急増で店の商品が足りてないから、町のみんなが家に眠ってるものを持ち寄ってるんです」

「そこにあるのはただで持ち帰れるから当面のつなぎにはなると思う」

「それは助かるな」

「そうね。荷物を減らすために全部向こうで売り払ってしまったから…しばらく不便なのは覚悟してたんだけどね」

「先に来てた3家も同じことおっしゃってましたよ。台車お貸ししますから使ってください。次に窯に来るときにでも持ってきてもらえればそれでいいですから」

「あぁ、ありがたいな」

「ありがとうオリビエ。感謝するわ」

「困った時はお互い様ですから。またいつでもここに来てください。水の日は定休日ですけど屋敷の方には誰かがいると思うので」

「分かったわ」

ラミアが微笑んでそう言った


「ママ!」

そう呼びながら駈け込んで来たのは2人の少女


「ミーア、ルチアも楽しかった?」

「「うん!」」

2人とも満足そうに頷いた

飛びついてきた2人の後から皆も走ってきたらしい


「みんなありがとう。これからもこの子たちをよろしくね?」

「こちらこそ。僕たちも楽しかったからいつでも来て?」

コルザが得意げに言う

今までは主に兄弟で遊んでたけどこれからは違う

人数が増えればこれまでとは違った遊びもできるだろう

子供達はやっぱり元気で遊んでる姿が一番いいなと思う


「俺はラピスを送り届けるよ」

マロニエがそう言いながらラピスに”帰ろうか”と声をかけていた


「あぁ、ついでにギルド案内してやってくれ」

「住民登録か?丁度通り道だから構わないけど…台車は?」

「台車なら持って来たぞ」

ジョンが背後からそう言った


「流石ジョン。ありがとう」

「4回目になりゃなれたもんだろ?」

ジョンは得意げに言いながらミュゲに台車を渡す


「ミュゲ、陶器の器が造れるなら花瓶なんかも作れるのか?」

「今まで皿しか作ったことないな…でも大きさや形によるけど大丈夫だと思うぞ?」

「よし、じゃぁおいおい頼む。勿論金は払う」

「なら俺は鉢植えがいいな。部屋で薬草を育てたいんだ」

ブラシュも便乗した


「部屋でか…なら水の受け皿も必要になるのか?そうなると…」

ブツブツ言い始めたミュゲに皆が苦笑する

完成するのはそう遠くない未来になりそうだわ


「面白そうではあるが、俺は花瓶も鉢植えも作ったことはないんだが…」

「いいじゃないあなた。お仕事の幅が広がるのはいい事よ」

ラミアが一通り考えてから少ししり込みするミュゲの背を押した


「確かにそうかもしれないな…とりあえずやってみるよ」

「やりぃ」

ブラシュは嬉しそうに言いオリゴンを見る

オリゴンも満足げに頷いていた




「まさか仕事の斡旋までするとはな」

部屋に戻るとロキが呆れたように言った


「たまたまだよ?そんなつもりなかったし」

「分かってるけどな」

ソファに座るなりロキに抱き寄せられる

もう慣れた行為だとそのまま体を預けてしまう


「ほんとに、お前といると退屈しないな」

「そうかなぁ?」

「そうだよ。そのうち空き部屋も埋まるんじゃねぇ?」

「流石にそれは無いと思うんだけど…3階に28部屋あってまだ5部屋だよ?子供たちが大きくなった時に1人部屋がいいとか言っても9部屋だし…」

「そうなんだけどな?」

ロキは話しながら服の中に手を入れてきた


「どうしたの?」

ベッド以外で手を出されるのは珍しい

「イヤか?」

少し心配そうに聞くロキに苦笑する


「イヤなわけじゃないけどちょっと恥ずかしい」

そう答えるとそのまま押し倒された


「ロキ?」

「…」

無言のまま敏感な場所ばかり責めてくる

たまにこうして縋るように求められることがある

前に、”何の前触れもなく突然暗闇に引き込まれるような感覚に陥る”と聞いたことがある

大切な人たちを失ってきたロキの孤独が関係しているのだろうかとそのままのロキを受け入れる

こういう時は例外なく抱きつぶされるのだけど…

そのままロキに翻弄されたまま夜が更けていった

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