53.3国間協議(side:3国の王)
モーヴは早々に準備をし、3国間協議の場を設けた
参加したのは3国の王のみ
モーヴとブロンシュ国のポンセ・ブロンシュ、マァグリ国のレンヌ・マァグリだ
「モーヴ、ソンシティヴュに関して重大な事案とは?」
「ソンシティヴュが召喚の儀を行い歌姫を召喚したのは知ってるな?」
「ああ。今は体調を壊しているとか」
ポンセが頷いた
「その歌姫だが…ソンシティヴュの王太子オナグルが3重の契約を行ったというのは知ってるか?」
「なに?」
「そのようなことが許されるわけがない!」
2人は声を荒げ、険しい顔でモーヴを見る
「モーヴ、それが真実でなかった場合お前の立場が…」
「確かな情報だ。さらに歌姫は離宮に閉じ込められていたが少し前に逃亡した。未だに見つかってはいないようだ」
「契約があるのに逃亡は可能なのか?」
「それについてだが…召喚された者についてどれほどのことを知っている?」
モーヴは答える前に別の質問を返した
「わが国では召喚したことが無いので噂程度しか知らん。確か…スキルレベルが50であるとか」
「わが国で過去に召喚した勇者は、元の世界で冒険者だったからかスキルレベルが50を超えていたという記録はある」
ポンセとレンヌの言葉にモーヴは頷く
元の国で冒険者
レベルが50を超えていた
モーヴはその言葉にオリビエの説明に信ぴょう性が出てきたと感じていた
「俺もその程度の事しか知らなかったんだが…召喚された者にはまだまだ解明されていないことがあるようだ。例えば元の世界で持っていたスキルが進化する…とかな」
「進化?」
「鑑定が詳細鑑定となり空間認識まで出来るようになったり、生活魔法とやらが威力を調整できるようになったり…」
「モーヴ、お前その情報はどこで仕入れた?」
過去に召喚された者の情報は基本的に共有することが決まっている
共有されていない情報があるとすれば協定を結ぶ前のものくらいだ
それにもかかわらず耳にしたこともない情報が出てくれば戸惑うのも無理はない
「ソンシティヴュが歌姫を召喚した際、巻き込まれて召喚された者がいた」
「何?それはただの噂ではなかったのか?」
「先日ナルシスに問い質した時奴はそう答えた。だが…」
「何だ?」
「俺の甥が結婚したのは伝えたな?」
「ああ。一般人でカフェのオーナーとか?それが何か関係あるのか?」
「そうだ。その女性がどうやらその召喚に巻き込まれた女性だったらしい」
「「…」」
ポンセとレンヌが顔を見合わせる
「わが国の試練の迷宮攻略はこれまで3時間が最短記録だった。彼女は30分でやってのけた。その理由を問い質した際にそう説明された」
「…その女性の言葉だけで信用できるのか?」
「ステータスを見た。称号に召喚されし者との記載もあった。何より甥が彼女と出会ったのはソンシティヴュが召喚の儀を行った場所だったらしい」
召喚の儀を行う場所に一般人の女性が立ち会うことはあり得ない
そう考えれば召喚された者であるという信ぴょう性は高くなる
「確かナルシスの側近だったか…?」
「そうだ。しかもナルシスは彼女を王宮に置いておけないと判断した」
「王宮に置いておけない?なぜ?」
「まさか追い出したのか?」
「追い出されると察した彼女から提案をしたらしい」
「提案?何を?」
ポンセもレンヌもやや興奮している
「彼女が望んだのはこの世界で3か月ほど生活できるだけの準備と、この世界や国の事が書かれた本。それに対して王は個人的に持っていたフジェの別荘を譲り1年分の生活費と6冊の本を渡した」
「異世界から勝手に呼び寄せてたったそれだけの保証だと?!」
「ありえん。ナルシスは何を考えておる?異世界に放り込まれてたった一人、1年で一体何ができるというのだ?」
ポンセとレンヌの怒りはカクテュスの王族たちと同様だった
「甥は彼女を守るために、これまで保留にしていた褒賞として彼女と同行することを提示した。その後、互いに愛し合い婚姻したようだが、このことは先日甥と彼女に初めて対面した時に知ったばかりだ」
モーヴはそこまで言って2人を見た
「今回集まってもらったのは今説明したことを踏まえて次の3点について話し合うためだ。1つは歌姫、イモーテル・オンシュザの今後の事、2つ目は甥の嫁、オリビエ・トゥルソネルの今後の事、3つ目はソンシティヴュの事だ」
「オリビエは何か希望を?」
「オリビエは既にフジェの町でカフェを開き、そのカフェも軌道に乗っている。このまま甥と共にフジェの町で暮らしたいと言っている。お主らがそれに同意してくれるなら、不自由無きようカクテュスで後ろ盾になるつもりだ」
召喚された者は未知の者と言ってもいい
カクテュスの王族が持つ試練の迷宮が相当難易度が高いことは有名で、その迷宮を過去最速で攻略するほどの実力者であるオリビエを1国が囲い込むのはどうか
そう思われれば話は簡単にはまとまらない
「召喚された者の情報をこちらも知りたい。協力してもらうことは可能か?」
「その件についてはオリビエからの了承を得ている。ただ、できればオリビエの存在を広く知らせずに済ませてやって欲しい」
「それが彼女の希望か?」
「そうだ。今の生活が気に入っているらしくてな。シャドウの報告でもフジェの街に溶け込んでいるようだ」
「お前が突然フジェの町を領地に加えたのはそのせいか?」
「それはちょっと違うな」
「違う?」
「甥がオリビエと共に我々に会う条件が、『フジェの町をカクテュスの領土にすること』だったからだ」
「彼はなぜそんな条件を?」
当然の疑問だろう
特産物があるわけでもないどこにでもある様な町だ
そんな町を取り込むことを、王族である親族と会うための条件にするなど普通は考えない
「ソンシティヴュの騎士や称号を持つ家の者たちは、今の世情や瘴気の増加から召喚するなら勇者か聖女を望んでいた。だが実際に召喚されたのは歌姫でオナグルが我がものとして取り込んだ。どうやらあの正妃の騒動が王家を潰すための一端の可能性が高いという」
「王家を潰す?」
「国民に対して王家の失態を知らしめるためにな。仮に召喚されたのが聖女や勇者であったなら、おそらく正妃の問題はゴールド3家が止めていたはずだと言う者もいる」
「その根拠は?」
「3家には正妃と同時期に学園にいた者がいるらしい」
それはある意味強力な根拠だ
あの出来損ないを正妃に等正常な考えを持っていればありえない
「無能の正妃、だったか。王家を謀ったとされたが、俺に言わせればそれに気づかない王家が無能だったともいえる」
レンヌが言う
「確かに。それにしても今回の事…召喚された者に対する仕打ちは我らにとっても許せることではないし、それ以前なぜ歌姫だったのか…」
「そうだな。理由もわからずある日突然異世界に呼び寄せられるのだ。親しい者達とも突然切り離されてな。だからこそ、この世界を揺るがす事態でもない限り召還などするべきことではない」
だからこその協定でもあったのだ
「オリビエについてはモーヴに任せてもいいと思うが?」
「ああ。俺もそれで異論はない」
「ありがたい。ようやく会えた甥に嫌われずに済みそうだ」
モーヴの反応に2人が笑う
「歌姫に関してオリビエから希望を聞いている」
「まず聞こうか」
レンヌの言葉にポンセも頷く
「歌姫は既にオナグルの手つきになっている」
「「!」」
「それ以前、元の世界でも性には奔放で注目されることを望んでいたらしい。できればこの世界で女性の婚前行為に寛大な場所か一妻多夫の場所にと」
「普通の町では騒動の方が多くなりそうだな」
「確かマアグリにあったか?」
「山間部ではあるが一妻多夫の町がある。女児の出生率が極めて低くそうせざるを得なかったのだが…女性優位で婚前行為も当然のように行われているはずだ」
「では保護出来次第説明して受け入れてもらった方がよさそうだな?」
「ああ。性欲旺盛な女性が増えるなら喜んで受け入れてくれるだろう。俺から先に話は通しておく」
「これで2つの件は見通しが立った。最後のソンシティヴュの件だが…」
モーヴの言葉に沈黙が広がる
国の問題は多くの人の人生も含んでいるのだから当然だ
「しばらく様子を見るか?放っておいても自爆しそうな気がするんだが…」
レンヌが呟くように言った
「王家に反感を持つ騎士をフジェに呼ぼうと思っているのだが」
「あぁ、それはいいんじゃないか?騎士なら家族も同行するだろうが行先がフジェなら元は同じ国だ」
「その手で行くか」
「その手?」
2人はポンセを見る
「我らの国で有用な人材を引き抜いていく。その周りで希望する者があれば同時に受け入れる」
「なるほど?平民にも噂を流してやれば個々に判断して流れて来るかもしれんな」
「どの様な者がどれだけ流れて来たか、あるいは引き抜いたかは検問で記録して3国で共有すればいい」
「そうだな。称号持ちは拒否させてもらうがな。甘い蜜を吸い尽くして逃げてくるような者は必要ないからな」
「ははは…称号持ちが要請して来たら名前をさらしてやればいい。恥さらしだとな」
「称号持ちの一族のリストなどはあったか?」
「用意させてある。明日には送っておこう」
「それは助かるな。検問に配布して身分証を照合すればいい。もし後から偽装が判明してもそれを理由に取り締まることが出来るからな」
「とりあえず様子を見ながら進めよう。定期的に集まれるか?」
「勿論だ。この件の協議は最優先事項にしておこう」
「俺も大丈夫だ」
3人で意思疎通が図れたと判断し今回のところは解散となった
翌日よりソンシティヴュから職人達を中心に引き抜きが開始された