51.王族との食事
「……リ…エ……オリビエ」
遠くから呼ばれるような感覚に意識が浮上する
「…?」
「起きたか?」
ゆっくり目を開くとロキが覗き込んでいた
「ん…おはよ…?」
「ふっ…まだ夜だよ。もうすぐ飯だけどどうする?まだつらいならここに運んでもらうけど」
「大丈夫みたい。でもドレスみたいなの持ってないよ?」
「問題ない。王族もそんなの着てなかっただろ?」
「そういえば…」
皆少しお洒落な装備のようなものを身に着けていた
ソンシティヴュの王宮ではこんな服装をしてるのは私とイモーテルだけだったのに
「隙を見せないという意味で国として何かがある場合を除いて正装はしない。まぁ国民性の問題でもあるな」
「国民性…戦闘狂だっけ?」
「ああ。ドレスなんかに金をかけるくらいなら装備に回す方がいいらしい」
何となくわからなくもない
ドレス1着作ればそのドレスに合う装飾品や小物類も必要になる
その1着分のお金があれば相当いい装備が手に入るものね
「ソンシティヴュと随分違うのね?」
「あの国は成金みたいなもんだからな。他の2国はカクテュスに近いと思うぞ」
「ソンシティヴュだけ特殊ってこと?」
「そんな感じだな。歴史的な問題でもあるけど…その辺りを知りたければ今度ゆっくり教えてやる」
興味は惹かれるけど今は夕食の準備が先ね
「晩餐つっても身内だけだし俺もこのままいくつもりだ。まぁ流石にその服のままだと俺が外に出したくないけど」
「はは…お腹丸見えだもんね。そこら中破れてるし」
言いながら体を起こす
考えてみればそのまま迷宮に行ったので装備すら整えてはいなかったことを思い出す
「…そんなにじっと見られてると着替えづらいんだけど?」
「今さらだろ?お前の体のことは隅々まで知ってる」
「ばか…」
脱いだ服をロキの顔に向かって投げつけその間に着ることにした
「武器、どうしようかなぁ…」
「は?」
「今日みたいなことあると困るから武器を身に着けられないかなって…でも仰々しいのは普段は身に着けたくないんだよね」
カフェのオーナーが仰々しい武器を装備するとか流石にいただけない
「ショートソードなら足まわりに仕込めるだろ」
「それも有かな…」
「今度見に行くか?俺も身に着けといた方がよさそうだし」
「あ、行きたい」
カクテュスなら武器も豊富な気がする
「了解」
ロキは頷きながら準備を終えた私を引き寄せキスをする
「行こうか」
促され2人で部屋を出ると側で控えている人がいた
その側には騎士が2名
「ご案内いたします」
控えていた人がそう言って歩き出す
私達が彼について歩くと騎士達も後からついてきた
「流石王族の血を引いてるだけあるね」
笑いながら言うとロキは呆れた顔をした
少しずつ聞こえてくる声が大きくなる
「…なんかすごい人数?」
「クロキュス様の従兄妹に当たる方やそのお子様も揃っておいでですので」
「なるほど。本当に王族が文字通り勢ぞろいしてるってわけか」
呟くロキの目の前に広がった広い空間
パッと見50人を超えるだろう人が集まっていた
「クロキュスこっちだ」
モーヴが私たちに気付き手招きしている
「お前たち、改めて紹介しよう」
一旦言葉が切られると先ほどのにぎやかさが嘘のように静まり返る
「シティスの愛息子クロキュスとその妻オリビエだ」
私たちはモーヴの横で会釈する
「クロキュスはSランク冒険者、オリビエは先ほど試練の迷宮を30分程で攻略した」
どよめきが起こる
「聞きたいことは色々あるだろうが、まずは食事を楽しむといい」
それを合図に成人を迎えていない子供たちが我先にと料理を取りに行く
「王族が集まるときはバイキング制にしている。お前たちの席はここだ。好きなものを取ってくるといい」
その言葉に心が浮足立つ
「お前…」
「え?」
「何でもない。行くぞ」
促されて料理の並んだ場所に向かう
見たことのない料理が所狭しと並んでいた
それらを少しずつ皿に盛りつけていく
「まぁ、きれいに盛り付けるのね?」
ラミが驚きながら皿に見入っていた
「こいつカフェのオーナーだからな。そういうの自然とやってのける」
「そうなのね。私はそういうセンスがないから羨ましいわ」
ラミの皿を見るとゴチャっとしていた
「オリビエこれ美味しいよ」
小さい女の子がコロッケのようなものを指して教えてくれる
その手元の皿を見ると同じものが5つ程乗っている
よほど好きなようだ
「ありがとう。食べてみるわね」
私はお礼を言って1つを皿に乗せた
それを見て満足げに頷くと少女は戻っていった
食事が落ち着くと私たちの周りには入れ代わり立ち代わり色んな人が来てくれた
不思議なことに皆好意的だった
従兄妹に当たる青年達と話すのはロキも楽しそうで少しホッとする
特にラミの息子で同じ年だというシュロとは意気投合したようだ
「疲れてないか?」
「大丈夫。シュロと随分意気投合してたね?」
「ああ。冒険者してるらしい」
「王族が?」
「王位継承権は成人した時に放棄したらしい。俺の継承権も母さんが放棄してるから同じ立場だな」
「これだけいれば特に困らないか…」
同じように継承権を放棄してるものが含まれていたとしても、次代の王になれるだろう者が5人以上は見て取れる
「シュロの場合は帝王学を叩きこまれるよりも魔物の生態を調べる方が楽しいらしい。お前とも気が合うと思うぞ?」
「どの点でそれを納得すればいいのかしら?」
「この国の迷宮情報をお前と同じように集めてるみたいだ」
「え?」
その情報は是非欲しい
「フジェの迷宮情報と交換してもらえば?その内カフェに来るって言ってたから」
「流石ロキ。ありがとう」
喜ぶ私にロキも優しい笑みを返してくれた