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48.王族との対面

昼過ぎに馬で出発した私たちは、途中で何度か休憩しながら15時過ぎにカクテュスの王宮の前にいた

別々の馬に乗っているとはいえ、かかる時間をみればソンシティヴュの王宮より近い

シャドウが知らせていたのだろう、城門に到着するなりすんなり出迎えられていた


「思ったより質素?」

王宮の中はソンシティヴュとは比べられないくらい落ち着いた雰囲気が漂っていた


「あいつらが馬鹿なだけだ」

「ソンシティヴュはこれでもかって言う程贅を尽くした感じで、置かれた家具も一目で高級品と分かる様な…どちらかと言えば悪趣味な感じだったけど、ここは凛とした感じがするのにすごく落ち着く」

初めて見る家具に興味をひかれ、つい見入ってしまう


「嬉しいことを言ってくれる」

「!!」

待たされていた部屋でロキと話していたところに突然感じた強い魔力

同時に割り込んできた言葉にロキが私を庇う様に立ち上がる


「殺気を鎮めてくれ。私はお前の叔父だ」

その言葉に息を飲む

ロキが側近になってから他国の王がソンシティヴュを訪れたことは無く、王が外交で他国を訪問した際、ロキは王宮を預かる立場だったため他国の王と面識はないらしい


「つまり…王?」

「そうとも言うな。2人とも歓迎する。楽にしてくれ」

おだやかな笑みを浮かべる男性に隙は全くない

ナルシスには感じなかった威厳のようなものが確かにそこにあった


「…随分砕けた物言いだな?」

「当然だろう?親族を前に何をかしこまる必要がある?」

王はそう言って笑いながら向かいのソファに腰かけた

がっしりとした体格は冒険者と言われても信じてしまいそうだ

ナルシスのずんぐりむっくりから考えると明らかに強者に見える


「ようやくこの目で見ることがかなった…」

その目は喜びと愛しさを伴いロキを見る

「そなたに会いたかった者たちを通してもよいか?」

あくまで下手に出る王にロキは頷いた

「感謝する」

王はそう言って先ほど共に入ってきた側近に何かを告げた


「そのうち揃うだろう。そなたの条件であったフジェは昨日付でカクテュスの領土となった。元々親交の多い町だ。多少の混乱はあるだろうがすぐに落ち着くだろう」

「ああ」

ロキは頷く


「先に聞いておきたい」

「何だ?」

「俺とこいつのことをどれだけ知っている?」

ロキの言葉に鼓動が早くなる


「シャドウとて全てを把握しているわけではない。まして王宮など侵入できたとしても、阻害魔法のせいで不鮮明な視界で雑音だらけと来ている」

「…で?」

「そなたが王の側近として何かを陰で探っていたこと、彼女がそなたのソル エ ユニークであることは知っている。あとは何故フジェの町に来たのかは知らんが結婚したこと、彼女がカフェのオーナーで、フジェの町の陰の領主だと言われていることくらいか」

「影の領主?!」

初めて聞いた恐れ多い言葉に思わず声が出た

どういうこと?

意味が分からないんだけど…


「今さら驚くこともなかろう?ソル エ ユニークであったとしても、これが付き従うなど簡単なことじゃない。そなたと関わった者は大半がそなたに従うだろう、とシャドウも言っていた」

私はいたたまれなくなりロキを見るも苦笑しながらこっちを見ただけだった


「王の側近を続けていたのは、母親の死の真相と家族を奪った事故の真相を探る為、か?」

王の言葉は私が何度も想像したことだった

「ああ。真相は見つけた。復讐も…それはあんたにも報告がいったはずだ」

ロキの言葉に王は静かに頷いた


「その話は別の機会にしておこう。どちらにしても今は材料がそろうのを待ってる段階だからな」

「…ああ」

王からもロキからもわずかに殺気が溢れ出ていた

でもそれは少しの間の事で霧散するように消えていった


「それにしてもなぜフジェの町を助けようとした?思いのほか居心地がよかったか?」

「確かに居心地はいいけどちょっと違うな。こいつが気に入った街だから助けたかった。そのために一番手っ取り早い方法を考えただけだ」

「なるほど。今回の条件がなくてもそのうちこちらに戻ってくるつもりだったということか」

まさかの言葉に私は唖然とするしかできなかった


「大切なもん守るためには手段を選ばない主義なんで」

「なるほど。その辺は母親の血をしっかり引いたらしいな」

王の声は少し弾んでいた


その時ドアがノックされ沢山の人が入ってきた

「順に紹介しようジャスマン前王とカモミ前王妃、お前にとっては祖父母に当たる」

「ようやく会えたな。そのまなざしはシティスにそっくりだ」

シティスはロキの母の名前だ

嬉しそうに笑うジャスマンの横でカモミは涙を浮かべている


「俺がモーヴ、今の王で、妻のヴィオレット、俺同様お前の叔父にあたるヴォルビリスとアネモン、叔母に当たるラミ、こいつらの配偶者や子供達も会いたがってるが…それは今日の晩餐の時でいいだろう」

「…クロキュス・トゥルネソルです。彼女は妻のオリビエ、俺のソル エ ユニークでもあります」

「初めまして!」

私は反射的に頭を下げていた


「なんて素敵な女性なの。シティスも喜んでるでしょうね…」

ラミが言う

「カフェをしていると聞いたわ。今度お邪魔してもいいかしら?」

「勿論歓迎します」

そんな会話から始まり、暫く他愛のない話が続いた

皆がロキに会いたかったというのが心からの気持ちなのだと、その表情が雄弁に語っていた


区切りがついたタイミングで、カモミが態度を改めてから訊ねた

「オリビエ、あなたはカクテュスの王族と結婚する際の条件を知っているかしら?」

「条件…」

突然の穏やかでない言葉にうまく言葉が出ない


「仮に条件があっても俺達には関係のない話だ。この国のしきたりを押し付けるなら、俺はオリビエと共にこの国とのかかわりを切る」

「そんなこと許されないわ」

カモミの顔は強張っていた

ようやく会えた孫だから当然だろう


「俺は既に継承権を放棄してる。あんたたちの協力がなくても生きていける」

「ロキ…」

そう言ってくれるのは嬉しいけどそんなことさせていいはずがない

家族を失ったロキにこれ以上、ロキを想う血族を失わせるなんて私がイヤだった


「あの…その条件を教えていただけませんか?」

「やめろオリビエ」

「ロキお願い」

ロキの手を握って懇願する


「あら。中々見込みのあるお嬢さんだ事。ヴィオレット、教えて差し上げなさいな」

カモミの言葉にヴィオレットは頷いた

ロキが何かを言い返そうとしたのを握る手に力を加えて止める


「条件は3つ。知略があること、力があること、魔力があること。それを図るために王族の持つ迷宮を一人でクリアする必要があります」

「さぁオリビエ、あなたはどうしますか?クロキュスはこの国を捨てる覚悟を持っているようだけど…」

「母さん流石にそれは酷だろう?冒険者の経験があっても今はカフェの経営者だ。そんな彼女に突然あの迷宮なんて無理だって」

止めに入ったのはアネモンだ


「迷宮がクリアできるとされるのは冒険者のレベルにしてSランク、これは王族としてわが身を守れるという証明でもあるの。もっとも迷宮と言っても3階層。広さはさほどなく早い人で3時間ほどで出てくることが出来るわ」

「…その迷宮をクリアすれば私をロキの妻だと認めていただけますか?」

「オリビエやめとけ。お前には…」

「大丈夫」

私は止めようとするロキに微笑んで返す


「母さんも意地が悪い…そんなことを強要すればクロキュスに嫌われますよ?」

「たとえそうなっても王族としての務めと理解しています。それに王族になった以上身を守るすべは必要ですからね」

言い切るカモミに私は覚悟を決めた

カモミには言葉以上の意味がある様に思える

言葉に出来ないのか、あえてしないのか、そこまでは分からない

でも悪意で言っているのでないことだけは確かだ


「分かりました。挑戦させてください」

「オリビエ!」

ロキは心配そうに私を見ている


「必要なものがあれば用意しますよ?」

「大丈夫です。ロキ、私を信じて」

「オリビエ…」

「ロキにもまだ話してない秘密があるの。戻ってきたら必ず話すわ」

抱きしめてくれるロキの耳元でロキにだけ聞こえるようにそっと囁いた

驚いた顔をしたロキを置いて私はカモミの後をついて部屋を出た


「…イヤな祖母だと思ったでしょう?」

「いいえ」

キッパリ言ったからか驚いた顔が返ってきた


「それは…どうしてかしら?」

「あなたにとってはずっと見守り続けてきたお孫さんですもの。側にいる私のせいで命を落とすなんてことがあってはならない」

私の答えにカモミは自嘲気味な笑みを浮かべた

この人はとてもやさしい人なのだろう


「それに…私にもシャドウをつけられていますよね?あの3人はロキのシャドウより上位の者でしょう?」

「あなた一体…」

驚くカモミに微笑みだけを返す


「…ここよ」

大きな扉の前で立ち止まる


「3層目にいるボスを倒せば先ほどの部屋に転移します。どうしても無理だと思った時はこのリングにリタイアと唱えなさい。一度リタイアしてもまた挑みなおすことは出来ます」

「ありがとうございます。行ってきますね」

私はそう言ってリングを受け取ると扉を開いた

身を滑り込ませると扉はすぐに閉じてしまった

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