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46.フジェの決断

「どう思う?」

ロキと私、マロニエを集めた場でダビアが訊ねた


目の前には新聞が広げられている

『王族を謀り正妃の座に着いたソラセナ・オーティとの婚姻無効、悪質の為一族処刑へ』

トップページの見出しはそう綴られていた

そしてその内容として、教育が進まないことから学園を抱き込んでソラセナが相応しいと記させたこと

さらに”正妃になれば好きなだけお金を使える”と当主が言っていたことなどを取り上げ、王族に対する反逆だと判断されたことなどが書かれていた


「簡単に謀られる王族にも問題があると思うのは気のせい?」

私は首を傾げる

社交の場なんかもあるだろうに、学園の書類だけで判断するものなのだろうか?


「処刑に対して反対する者がいれば王家に追求するのは酷だけど、いなかったってことは誰もが知るってことだからな…それをあえて自ら公開したってことは、同時に王家が恥をさらしてるともとれる」

「だよな。国内ならこれで済むかもしれない。でも対外的なイメージは最悪だろうな…」

「王族をつぶしにかかってる気もする」

その言葉にみんながマロニエを見る


「根拠は?」

「俺はソラセナのクラスメイトだったって言ったでしょう?実はゴールド3家にも同時期に学園に通ってた息子か娘がいて、3人ともクラスメイトだったんですよ。なのに誰もオーティ家の行動を止めなかった」

その言葉に皆が考え込む


「本来であれば国の為に誰かが止めるはずの事態にも拘わらず、わざと止めなかったのだとしたら?」

「王族の失点を取りに行ったか…」

ロキが呟くように言った


「ここ数年他国との関係が悪化し続けているうえに瘴気の問題もある。その中で聖女や勇者の召喚が望まれた。でもオナグルは歌姫の召喚を望んだ。冗談だろうと笑い飛ばした者も多かった」

「その中で実際に召喚されたのは歌姫だった、か?」

ため息交じりに言ったのはダビアだ


「はい。もし召喚されたのが歌姫じゃなかったら、3家はオーティ家を止めようと動いたかもしれない。実際オリビエたちが召喚された時点では、ソラセナは候補の一人でしかなく王宮入りさえしてなかった」

「確か聖女が召喚されたら正妃にって話も出てたな」

自分も書類でしか確認していなかったと思い出しながらロキは言う

つまりそこまで具体的な話ではなかったのだろう


「王族至上主義を潰しにかかってるのかもしれないな」

「潰したところで次は権力至上主義だろ?称号なしにとったら大して変わらない」

「でも称号持ちにすれば大きく変わるはずだ」

これまで踏み込めなかった部分に踏み込めるようになるのだから当然だろう


「そのために公開処刑をあえて行わせたとしたら?」

「自ら恥をさらした姿を他国に見せることで、他国からの信用を失墜させたとも取れるな」

「ついでにゴールドに相応しくないオーティ家も片付けようとしたって辺りか」

「一体どこからが計画だったのか…」

「少なくとも聖女や勇者が召喚されていたなら、違う状況になってたんだろうってことだけは確かだな」

確かなことは分からない

でもそう思うとオナグルの行動はかなり大きな問題を生み出したことになる


「そのあたりの真相より、これからどうなるかの方が問題ですね」

マロニエの言葉に皆が顔を上げた


「この町は国境に近いわりに国からは軽視されてる。たとえ忘れられた町と言われていても、国同士のいさかいになれば、意志に関係なくソンシティヴュの国民として立たなければならないはず」

「でも商人たちの往来を考えれば隣国とのかかわりの方が強いのに…」

スタンピードの際にも助けてくれた隣国に刃を向ける等、この町の優しい人たちにとったら酷なことだろう

助けてくれない国の為に、助けてくれた国に刃を向ける

子供でもそれがおかしなことだとわかる


「町として隣国に付いた方がリスクが少ないかもしれないな」

「この町の人間はソンシティヴュの言葉と同様に、隣国の言葉を話すこともできるし旅行で隣国に行くものも多い。検問ですらこの町の人間だとわかった途端歓迎される」

住民にとってソンシティヴュよりも隣国の方がなじみが深い者も多い

それ以前にこの町が成り立ってるのは隣国のおかげともいえる


「…仮にそうだとして、それは可能なの?」

「強力な伝手があればあるいは…でもそんな都合よくは…」

「…この町の総意としてなら交渉出来るぞ」

その場の不安を遮る様にロキが言った


「は?」

「どういうこと?」

「俺の母親は隣国の第5王女だった」

「あ…」

ダビアが言われて初めて思い出す


「え?でも血縁はいないって…」

「この国では嫁に入ったら縁が切れたとみなされる」

「なるほど…」

「でも隣国は違ったような…?」

「ああ。何度も国に来いと打診されてる」

「国に来いって…クロキュスが王族に戻る…ってことか?」

マロニエがギョッとしたように言う


「そうなるな。まぁ今は王に5人の子供がいるから、俺がどうこうってことはないけどな」

「でもだからと言って交渉なんて出来るものなのか?」

「言ったろ?何度も国に来いと打診されてる。俺はそれをずっと拒否してるってことだ」

「つまり…国に行く条件としてこの町をってこと?」

「ああ。ちょうど国境付近で地形も隣国に食い込んだ場所にある。そのおかげで迂回するより楽だからとこの町で取引をする商人が多い。領主も国の支援が少ないと嘆いてる」

「総意も得やすい?」

「多分な」

皆で顔を見合わせる

もう言葉がなくてもどう動くかはお互いが分かっていた


「処刑されたのが昨日、おそらく総意を得るタイムリミットは1週間」

「了解」

ダビアとマロニエが飛び出して行った


私はカメリアとナハマに、ロキはジョンとオリゴンに今の話を伝える

ブラシュとウーに3人の面倒を見てもらうように頼むとみんなで町に向かいそれぞれの方向に散っていく


「行こう」

私はロキに促されて領主であるタマリの家に向かった


「やぁお二人さん」

領主のタマリ・ジフロレは笑顔で迎えてくれる


「新婚生活はどうだい?」

「その話はまた今度ゆっくり…ちょっと急ぎの相談だ」

ロキの表情に何かを悟ったのかタマリは表情を変えた

応接室のソファに座るなりロキを見る


「王都で処刑が実行されたのは知ってるな?」

「ああ。王族を謀ったとか…」

「どうもきな臭い。残ってるゴールド3家が陰謀を企んでるかもしれない」

「…この町が一番低いリスクで立ち回る方法はあるのか?」

タマリの言葉にロキはニヤリと笑う

どのような方法を取ってもリスクがあることを承知していることに加え、町として立ち回ろうとする意志はなかなか持てるものではない


「一つだけある」

「教えてくれ」

「隣国に付く」

ロキの言葉に沈黙が流れた


「…確かにこの町は隣国カクテュスとのつながりの方が強い。実際に娘が隣国に嫁いだ者も、隣国から嫁に来た者も多い。その血縁であれば簡単に受け入れてもらえるかもしれないが、そうでない者も半数以上いるのが現実だ」

「分かってる。でもこの町の総意として隣国に付く、という形なら俺がカクテュスの国王と交渉する」

「…そんなことが可能なのか?」

「俺の亡くなった母親は今の王の妹だ」

「な…?」

「母亡き後国に来いと何度も打診されてるが俺はそれを全て拒否してきた」

「…戻る条件にするということか?これまで拒否してきたのにか?」

「会ったこともない王族を親戚と思えないだけで、拒否してきた理由は特にないんだ。しいて言えば王宮に勤めていた手前、こっちの王族が反対するのを振り切ってまで行くつもりがなかったくらいか」

サラッと告げる言葉はきっと本心なのだろう


「…本当に可能なのか?」

「王家からの誘いの中に…こいつにも会わせろというのもある。その条件としても使えるはずだ」

「私も?!」

驚きの声をあげると苦笑で返される


「俺達にはもれなくこの町が付いてくるとするのか、戻るにはこの町をとするかは向こうの出方を見て決める。でもそれは、この町が総意としてカクテュスの国民となる覚悟を持ってる場合に限る」

「今、屋敷の者に情報を広めてもらっています。みんなゆっくり考えたいでしょうけど猶予ありません」

「許される時間は?」

「1週間」

「分かった。すぐに皆を集めよう」

領主はそう言うと領地放送を流す

領地放送とは領地のいたるところに取り付けられた魔道具を通してどこにいてもその放送を聞けるようにしたもので緊急時などによく使用されるものだ


流されたのは13時に全住民が中央広場に集合すること、今後の行く末を左右する重大案件であることだった

ダビア達たちから様々なルートで情報が回っているため大半の者が心構えを持ったうえで集まってくる


一度屋敷に戻った私たちも今度は子供達もつれて広場に向かうことにした

最初こそ緊迫していたものの、気付いてみたら満場一致で隣国に付くとその日のうちに結論を出していた

どうやら前領主までの行いが酷すぎたらしく、隣国の商人に助けられていたことが大きな決め手となったらしい

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