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42.婚姻の契約

1週間の公示期間はあっという間に過ぎた

司祭様曰くくだらないものも含め反論は1件もなかったらしい

「当然だろ。文句なんて言わせねぇ」

それを聞いたロキは吐き捨てるようにそう言った


この1週間の間に町の人たちの手で勝手に準備が整えられていたらしく、私は何もしていないのに伝統の婚姻衣装が昨日手元に届いた

これに関してはロキも知らないといい町の人に感謝しかないと笑いあった


朝から教会の控室でカメリアが手伝ってくれる中、婚姻衣装を身に纏い髪やメイクまで整えられていく

「ありがとうカメリア。手伝わせてごめんね」

「何言ってるの。私の手で送り出せるなんてこんな幸せなことはないのよ?」

カメリアの笑顔は優しさが溢れていた

この町に来てから沢山のことを教えてくれて、時には相談に乗り、叱ってくれることもあったカメリアは友人でもあり姉のようでもあった


「よし、完成。ロキー」

満足げに頷いたカメリアが大きな声で呼ぶとロキが入ってくる

「できたのか?」

尋ねながら入ってきたロキが私に目を止める


「…綺麗だ」

手を引き寄せ抱きしめてくれる


「ロキ、そんなことしてたらせっかくのメイクが崩れちゃうでしょ!」

「あぁ、そうだな」

珍しく素直なロキに笑い出す


「行こうか」

自らの腕に私の手を引き寄せ歩き出す

遠くで準備完了と叫んでいる声が聞こえた

2人で教会の通路を歩きながらとてつもない緊張感に襲われる


「オリビエ、大丈夫だ。何があっても支えるから」

「ロキ…」

囁くロキを見ると優しい笑みが返ってくる

「オリビエは一人じゃない」

「ん…」

不思議と心が落ち着いた


顔をあげると大きな扉が少しずつ開いていくところだった

扉の前には司祭様の元まで続く真っ青なカーペットが引かれた白い空間が広がっていた

両脇にもう見慣れた町の人たちが笑顔で並んでいる


沢山の拍手に包まれながら司祭様の前にたどり着くと急に静寂に包まれた

司祭様が何かを唱えると目の前に直径30センチほどの魔力を持った球体の物質が現れた

「共に手を触れ宣誓を」

「我、これより先この者を心より愛し、敬い、守り抜くことを誓う」

ロキが告げる


「我、これより先この者を心より愛し、敬い、生涯共にいることを誓う」

カメリアに教わった宣誓の言葉

何度も練習する私に間違ってもいいから心から言えばいいだけだと笑われたのを思い出す

私が告げたとたん球体の物質が光り、1枚の紙が現れた

その一番下にはロキと私の名前が記されていた


「2人の絆が本物だと神がお認めになりました」

司祭が言った途端歓声が沸いた


私はロキに抱き寄せられ口づけられていた

「幸せになろうな」

「はい」

驚くほど自然に答えていた

皆に囲まれ祝いの言葉を掛けられながら幸せだと感じる

突然呼びこまれた世界で先が全く見えなかったあの日が嘘のようだった


「ささやかですがこれまで助けていただいた皆様へのお礼です」

ロキと示し合わせて別室に案内する

そこには丸いテーブルが8つ、その上に所狭しとスイーツが並べてある

ロキと2人で1週間かけて作ったものだ


「あなた達いつの間に?」

カメリアが驚いていた

数十種類のスイーツは見ているだけでも楽しいようで、食べるのが苦手な人も目で楽しんでくれたらしい


「オリビエおめでとう!」

「ローズ!ありがとう」

「けしかけてから一瞬だったわね?」

からかうように言われて苦笑する


「あのおかげだね。本当にありがとう」

「ふふ…実を言うとあのおかげで私もマロニエと親しくなったのよ?屋台に来てくれたのは計画の協力者になってくれって言いに来たからだもの」

「そうだったの?」

もう驚きでしかない


「だから私も感謝してるの。オリビエがくすぶってなかったらマロニエとの今はなかったかもしれないから。ね?」

ローズは隣に立つマロニエに向かって言う


「はは…そうかもしれないな」

苦笑しながら言うマロニエに悪いとは思いながらも笑ってしまう


「おめでとうオリビエ!ロキも!」

「ありがとうカプシーヌ」

「…俺はついでか?」

ボソッというロキの言葉を聞かなかったことにする


「すっごい綺麗!元から美人さんだけど年下とは思えないほど大人っぽいじゃない…」

カプシーヌは何故か涙ぐむ


「ロキ」

「?」

「オリビエを悲しませたら許さないからね?」

「分かってるよ」

あまりの剣幕にロキは苦笑しながら答える


「ならよし!オリビエ、これからも色んなスイーツ作りましょうね」

「勿論」

それは私の希望でもあるのだから


親しい人も顔見知り程度の人も関係なく笑いあっている

この空間がすごく好きだと思った


「どうかしたのか?」

「この感じ、すごくいいなって」

「元々陽気なお国柄だけどこの町は王都と比べ物にならないくらい陽気で人が暖かい」

「そうなの?」

「ああ。ここが忘れられた町と言われるのが不思議なくらいだ」

そうだった

ここはスタンピードの時ですら支援がなかった町だ


「…そうだね」

でも私も今ではこの町が大好きになっていた

元の世界よりもここの方がしっくりくるくらいには…

その後も皆の笑顔に包まれながら楽しい時間が続いた




「…ん……ロキ…」

今日から一緒に住むロキの部屋だったマスタースイートに入るなり、ロキに口づけられていた

深く煽るようなキスにしがみ付くとそのまま抱き上げられベッドにおろされる


「…悪い」

「え?」

「止める自信がない。無理させると思う」

熱を孕んだ目でささやくように言う


「いいよ…どんなロキでも受け入れるから…ありのままのロキに愛されたい」

ロキの頬に触れてそう返す

自信がないと言いながらも初めての私の為に必死で時間をかけてくれたロキは、その反動もあってか私が意識を手放すまで求め続けてくれた

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