41.お祝い
家に戻ってからロキと2人でコーヒーを飲みながらくつろいでいた
サロンのソファで2人並んで座るのは普段からよくある事なのに何かが違う
「なんか変な感じ」
「?」
「朝は不安でいっぱいだったから」
「昨日から様子が変だとは思ってたけど、まさかの理由だったな」
ロキは苦笑しながら言う
「でも結果的には良かったかな」
「こうやって堂々とキスできるしな」
「ロキ―?」
「イヤならしないけど?」
「…キスは嫌じゃないけど人前ではあんまり…」
「了解。今みたいに2人だけの時にする」
そう言って再び口を塞がれる
「ロキってキスが好きなの?」
もう何度目かわからなくなったキスに思わず尋ねてしまった
「…多分反動」
「反動?」
「これまでずっと、できるだけ触れないようにしてたからな」
言われてみればその通りなのかもしれない
「お前が俺のもんだって実感わけばそのうち落ち着くんじゃねぇの?」
他人事みたいに言われて呆れてしまう
その時エントランスの方が騒がしくなった
「「ただいまー」」
コルザとロベリの声がする
「オリビエどこー?」
「サロンにいるよ」
そう答えるとみんなの足音がこっちに向かってくるのが分かる
「お帰り。楽しかった?」
「「「うん」」」
リラも一緒に頷いている
「で、おめでとう、でいいのかしら?」
カメリアが言う
「町で噂が持ちきりだったぞ?とうとうお前らがくっついたって」
「お前らが根回ししたんだろうが」
ダビアの言葉にロキが言い返す
「でも、結果オーライだろ?」
「まあな」
苦笑しながらも怒ってはいない
「何がおめでとう?」
「ロキとオリビエがもうすぐ結婚することになりそうなの」
「「結婚!」」
2人の顔がこっちを向いた
「オリビエお嫁さん?」
「お嫁さんになれると思う?」
「うん」
「2人ともよかったな」
「おめでとう」
皆が口々に言ってくれる
「ありがとう。みんな」
「ロキのことだから許可が下り次第か?」
「そのつもりだ」
「良かったわね。オリビエ、マスタースイートも少しは寂しくなくなるんじゃない?」
「カメリア?!」
「だって一人じゃ広すぎるって文句言ってたものね。婚姻が認められたら一緒の部屋にするんでしょう?」
その言葉にロキを見る
「俺はそのつもりだったけど?」
「…うん」
「マロニエも言ってる間よね?そしたらマスタースイート?それともスイートかしら?」
「ちょっカメリア?」
マロニエがタジタジになっている
カメリアはこういうキャラだったのだろうか…
「諦めろ。カメリアは人の恋愛話に目がない」
ジョンが諭すように言う
「俺も大分やられたからな」
ロキがぼそっと言った
「そうだったの?」
「ああ。結構強烈だぞ?マロニエ覚悟しとけ」
「え…」
マロニエがうなだれる
何か知らないところで色々あったことにもカメリアのキャラにも驚きながらも皆ワイワイ騒いでいた
翌日開店準備をしていると表がざわついていた
「何だ?」
ロキも不思議そうに外を見る
「開店時並みの人がいるんだけど…」
とりあえず開店時間になったのでドアを開けると…
『おめでとー!!』
大勢の声と共に拍手が聞こえてくる
「え…っと?」
「結婚の前祝よ」
そう言ったのはカプシーヌだ
「おめでとう。これからもカフェを続けてね」
「ありがとう…」
思わず涙ぐむとロキが頭を引き寄せる
「こんなとこで泣くな馬鹿」
「だって…」
「ったく…あ、おい!ロベリ」
「なにー?」
ロキは走り回っていたロベリに声をかける
「カメリア呼んで来い」
「はーい」
「ダビア!コルザと誘導頼む」
「は?なんだこの人…」
「祝いらしい」
驚くダビアにロキは淡々と答える
「クロキュス、私達が手伝うからオリビエ落ち着かせてきてよ」
カプシーヌとイリスが中に入ってスイーツとドリンクだけはと捌きはじめた
「ごめ…」
「いいから。みんなありがとな。ゆっくりしてってくれ」
ロキが皆にそう言いながら私を屋敷の方に促した
「そんな泣かなくてもいいだろ」
「ごめ…泣くつもりなんてなかったんだけど…」
何とか涙を止めようとしても次々と溢れてくる
涙が落ち着くまでの5分ほど、ロキはずっとそんな私の背を優しくなでてくれていた
「落ち着いたか?」
ようやく体を離した私の顔をのぞき込むロキは少し心配そうだった
「ありがと…あんな風に祝ってもらえると思ってなかったから…」
「こっちじゃあーいうのは普通に見かけるけど向こうは違ったのか?」
「うん。よっぽど親しい人を除けば他人とはあんまり関わらないかな…」
「なるほどな。とりあえず落ち着いたならカフェの方に戻るか?」
「うん。カメリアたちに迷惑かけちゃった」
「こういうのは迷惑とは言わねぇよ」
笑いながら言うロキに促されてカフェに戻る
「おかえり!」
カプシーヌが真っ先に声をかけてくれう
「ただいま。皆さん驚かせてすみません…それと、ありがとうございます」
まだ残っている沢山のお客さんに向けて頭を下げるとあちこちから拍手が聞こえた
「カメリアたちもありがとう」
ダビアと子供達にもお礼を言うとお祝いだからいいよと返ってきた
「カプシーヌとイリスには一つサービスするから好きなの選んでね」
「本当?得しちゃったかも」
イリスが大喜びでスイーツを選んでいた
「そういうつもりで手伝ったわけじゃないけど…ここは貰っておいた方がよさそうね」
カプシーヌは苦笑しながら選んで持って行った
大半のお客さんがお祝いの為に集まってくれていたらしく少しすると店先も落ち着き静かになった
「ロキも何か食べる?」
「いや、コーヒーだけでいい」
すっかり指定席となったカウンターの内側にある席でロキはいつも本を読んだり書類を作ったりしている
すっかりなじんだその光景がこれからも続いていくのだと思うとついニヤケてしまう
「オリビエちゃんおめでとう!とうとうお嫁さんになるんだって?」
そう言いながら入ってきたのは本屋の奥さんだ
「ありがとう。でもとうとうって何?」
「ここにきて半年かい?その間ずっと上手くかわしてたんだろう?とうとう逃げ疲れてつかまったって旦那が言ってたからさ」
「…あのくそ親父…」
ロキが呟く
「あはは!まぁそれは冗談だけど、ちゃんと幸せにしてもらいなよ。ロキのことだから心配はいらないだろうけどさ」
豪快に笑いながらも目線はショウケースの中のスイーツに注がれている
その後もカフェのお客さんにお祝いの言葉を貰う日が続いた