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40.気持ち

「おはようございまーす」

開店と共にローズがやってきた


「おはようローズ」

「今日はこれだけお願いします」

ローズはマドレーヌを10個ケースの上に置く


「今回少ない?」

「そうなの。何か昨日マロニエが薦めてくれたお客さんが5個も一気に買ってくれて」

「マロニエが?」

聞き返すとローズの頬が赤くなった


「あれ?2人ってひょっとして…」

「一昨日告白されたの」

「えー?」

ローズとは年が同じなので個人的な会話を良くしているもののコイバナ的なものはほとんどしたことがなかった


「前からよく屋台に顔出してくれてて混む時とかは手伝ってくれて…」

「そうだったんだぁ…」

マロニエがねぇ…とちょっと嬉しくなる


「おめでとうローズ」

「ありがと。ねぇ、オリビエの方はどうなってるの?」

「私って?」

「マロニエが言ってたわよ?クロキュスさんが何度も告白してるって」

「え…」

告白とはちょっと違うと気はするものの断言はできない


「クロキュスさんカッコいいし、オリビエだけに優しいし…オリビエだって当たり前のように甘えてるのに付き合ってないって聞いたときはびっくりしたわよ?」

「うぅ…」

何か居たたまれなくなってきた


「ねぇ、正直なところどうなの?」

「…惹かれてる自覚はある…かな」

皆の前で隠せてないなら何を言っても無駄だろうと諦める


「え?じゃぁなんで付き合わないのよ?」

「それが…なんていうかズルズル来ちゃって余計にどうしていいか分からなくて…」

それは正直な気持ちだ

最初の頃こそロキは告白に近い言葉を投げかけてくれていた

でも2か月目くらいからは、それをにおわせる言葉は使っても、はっきりした言葉にはしなくなった

告白してもスルーされれば言う方も怖くなるだろうから私の責任でもあるのだけど


「それはもうオリビエから告白するしかないんじゃない?」

「えぇ…?」

「だってクロキュスさん人気高いんだから」

「そうなの?」

「そりゃそうよ。あのルックスだよ?カフェのお客さんの中にもクロキュスさん見に来てる人結構いるしね」

「嘘…」

ローズの言葉に胸が軋む

既に私にとってロキは側にいて当たり前になってる

でも私が逃げ続けていればロキが誰かに心を奪われても仕方がないのかもしれない

ソル エ ユニークが恋愛とイコールじゃないのはもう理解してしまっているから余計にその未来は有り得ないことではないのだと初めて実感した


「誰かに取られたくなかったらちゃんと捕まえときなさいよね」

ローズは半分からかうようにそう言って帰っていった



その日はどこか落ち着かないまま過ぎていった

「お前大丈夫か?」

いつもと違うとロキが何度も心配そうに声をかけてくる

そのたびに切なくなる

ロキが誰かのものになればこうして側にいてくれることも声をかけてくれることもなくなるのかもしれない

そう思うと無性に怖かった


「いつ見てもかっこいいよね」

不意に聞こえたお客さんの言葉に固まってしまった

彼女たちが常連になりつつあるだけにローズの言葉が頭の中で繰り返される

胸がツキンと痛む

もうごまかすことなど出来ないほどに私はロキに惹かれているのだと思い知る

ロキはただのソル エ ユニークとしてではなく恋愛感情をまだ持っていてくれるだろうか…

店を閉めてからもずっとそんな事ばかり考えていた


「明日は定休日だし…砕けても1日泣けばいい…何もせずに終わるのだけは嫌だ」

さんざん悩んで夜中に一人そう決意した


翌朝朝食が済むとみんながハイキングに出かけて行った

屋敷にいるのはロキと私だけだ

言うなら今だと深呼吸する


「ロキ」

「んー?」

「話があるの」

改めて言うと鼓動が一気に早くなる

緊張と不安が入り混じって吐き気すら覚えた

ロキはこんな思いを何度もしていたのだろうか…


「どうした?」

いつもと違う何かを悟ったのかロキはサロンに促してくれる

ソファに座るよう促されて身を預けるとロキはソファテーブルに腰かけてまっすぐ私を見ていた


「何があった?」

暫く続いた沈黙を破って出るのは心配を含んだ言葉

真っすぐ向けられるこの言葉を失いたくないと心から思った


「…すき…なの」

「え…?」

戸惑った表情にもう遅すぎたのかと胸が痛くなる


「いつの間にか、ロキに惹かれてたの…ロキと一緒にいたい…」

言いながら涙が溢れてくる


「…本気…か?」

「ん」

念を押すような問いかけに頷くと突然抱き寄せられた

早い鼓動が伝わってくる

抱きしめるその手は少し震えていた


「大事にする」

震える声で短くささやかれた言葉に胸に顔を埋めるようにして頷いた


「オリビエ」

初めて聞く優しい声音だった

導かれるように顔をあげると唇に柔らかいものが触れる

それがキスされたのだと気づいたときには再びついばむようなキスが落とされていた


「ろ…ぅん…」

膝の上に乗せられ深くなるキスに思考が奪われる


「ふ…」

解放されたとたん笑われる


「何で笑う…」

拗ねたように言うと頭を引き寄せられた


「この顔はほかの奴には見せられないな」

「!」

耳元で囁くように言われて肩が震える


「一つ聞いていいか?」

「なに?」

「お前元の世界で経験済み?」

「…そんな暇なかったから…」

首を横に振りながらそう答えるとホッとしているのが分かった


「経験してたら何かあるの?」

「この国では女性の婚姻前の性的な交わりはタブーなんだよ。誤魔化しても契約の時にバレる」

「あ…そういえば歌姫は側妃も無理だろうって言ってたっけ…」

「ああ。それ以外にも王族としての色んなことが吸収できるかって問題もあるけど」

ため息交じりの言葉にその辺りも全てダメなのだろうことは分かる


「オリビエ、出来るだけ早く婚姻の契約をしよう」

「…ロキ?」

「早くオリビエの全てを俺のものにしたい。出来ることなら今すぐにでも…」

再び抱きしめられて涙が溢れてくる

心が喜んでるのが分かる


「私も…早くロキのものになりたい」

そうつぶやいてしまった瞬間息を飲む音がした

そして自分の発した言葉に自分が一番驚いた


「必死で抑えてんのに煽んな…」

「ごめ…」

ため息交じりの言葉に謝るしかできない

経験は無くても多少の知識はある


「教会で魔力を用いた契約…だよね?」

「ああ。教会に申請して受理されたら1週間公示される。その間にその教区の2/3以上が納得する反論が出なければ許可が下りる。その後司祭の前で契約が完了すれば婚姻が認められる」

「…教会、いく?」

「俺はいつでも受け入れる覚悟はしてきたけどお前は違うだろ?今さら焦らなくてもいいよ」

「違うの…私がロキを他の人に取られたくない」

「は?」

ロキが何言ってんだとでも言うように体を離す


「結構前からロキへの気持ちは自覚してたの…」

「え?」

「でもロキもはっきりした言葉は言わなくなったから、そう言う気持ちはもうなくなっちゃったのかなって…そう思ったら今の関係壊すことになるかもしれない言葉は怖くて」

「じゃぁなんで?」

今は伝えようと思ったのか

少し困惑したような顔を向けてきた


「昨日の朝ローズに言われたの。ロキはモテるしロキ目当てのお客さんだって多いのに取られてもいいのかって」

「…」

「ローズの言葉でロキが他の人に寄り添うこと考えたら苦しくなった。嫌だって思ったの」

ロキが私の頬に手を添える


「元の世界からいきなり召喚されていっぱい後悔した。人生いつ何が起こるか分からないのに何もしないまま失うなんて嫌だって思ったの。気持ちを伝えないまま失いたくないってだからちゃんと伝えようって…」

「…俺がお前以外に惹かれるわけないのに…でもありがとな」

零れ落ちる涙を拭いながらロキはそう言った


「教会行くか?」

「行く」

即答するとロキが照れ臭そうに笑った

私を膝から降ろして立ち上がると肩を抱き寄せ歩き出す


「ロキ?」

「何だよ?」

「えと…肩…」

「お前の気持ちも聞いたから気持ちを抑えるつもりはない」

「!」

そう言いながら後頭部にキスを落とされる

甘すぎるロキの行動にどうしていいかわからずただされるがままになっていた


「お、ロキやっと堕とせたのか?」

町中で親しくなった人にそんなからかいを受けるのがくすぐったい


「ようやく落ち着いたか?見てるこっちもスッキリするわ」

「本当だな。まったくじれったい以外の何物でもなかったからな」

「うるせぇよ」

軽口で返しながらもどこか嬉しそうなロキに苦笑する


「みんな驚いたりはしないんだねー?」

「俺の気持ちがあからさまだったからな。随分けしかけられた」

「そうなの?」

「そうなんだよ」

少し不貞腐れたように言うロキに思わず笑ってしまった


「あ、店長さんやっとOKしたの?」

「え?」

かけられた声に振り向くと見覚えのある女性たちが立っていた


「あ…」

そこにいたのは先日カフェでロキをカッコいいと言っていた女性たちだ


「これって作戦成功ってこと?」

「作戦?」

「店長さんを焦らそう作戦。ロキを押しても進展しないからってダビアとマロニエが考えたのよ」

「「え…?」」

私たちは顔を見合わせる


「ローズが不安をあおったところに私たちも追い打ちを…ってね」

彼女たちの一人が茶目っ気たっぷりに言う


「ねって…」

「今そうやって寄り添ってるってことは、成功!ってことよね?」

「~~~~~!」

声にならない何かが漏れる


「まさかあいつらが今朝早くから出かけたのも…?」

「あたりー!もう町のみんながじれったいって思ってたのよねー」

「そうそう。どう見てもお互いしか目に入ってないのに付き合ってないとかありえないって」

口々に明かされる言葉に穴があったら入りたい心境になってきた


「ロキをカッコいいって…」

「ん~確かに顔はいいんだけどね、明らかに店長さんしか眼中にないから狙う以前の問題よね。目の保養にはなるけど」

「目の保養…」

「店長さんの側にいるロキを見てロキに恋する子なんていないと思うわよ?はなから叶わないの分かってるからね」

「…」

どうやら私は完全にしかけられた罠に堕ちたらしい

でも不思議と悪い気はしない

そう思うともう笑いしか出てこなかった


「て、店長さん?」

「どうした?」

「あはは…なんかもう笑うしかないじゃない…でもみんなに感謝だね」

「…まぁそうだな」

ロキもため息交じりに言いながら頷いた


「お前らついでに広めといてくれよ」

「何を?」

「今から俺らが行くの、教会だから」

「「「!」」」

彼女たちが一瞬固まり歓喜の悲鳴をあげた


「すぐ広める!任せといて」

「二人ともおめでとう!」

「お幸せに!」

3人は口々に言いながら走って行った


「あんなこと言ってよかったの?」

「変に広まるよりいいだろ。どうせ帰ってあいつらに言ったら勝手に広まるだろうけど」

「確かに」

その後も町の人に冷やかされながらも教会で申請書を提出した

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