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39.薬草

カフェはオープンして3か月目にはいる頃には軌道に乗っていた

あまりの順調さに驚きながらも、定休日にはみんなで出かけたりそれぞれで楽しんだりと充実した日々を送っている


今日はロキと一緒に中級迷宮の続きに挑んでいる

中級は50層あり5層ごとにボス部屋と転移の魔道具がある

「やっと半分超えたね―」

先週クリアした25層に転移する


「まぁ休みの日にしか来ないからな。それでも早い方なんじゃねぇの?」

低級に比べて1フロアの広さは倍以上になる

もちろん出てくる魔物のレベルも上がる

日帰りすることを考えると多くても1回で5層が限界なのだ


「お前がドロップに拘って片っ端から倒すのやめりゃもっと早いかもな?」

「それはやだ。これも情報収集の一環だもの」

得意げに言う私にロキは笑う


「そのうち迷宮の攻略本出せんじゃね?」

「そこまでじゃないでしょ」

「いや、充分だろ?どこの何層に何がいてどんなドロップを出すのか全部まとめてんだろ?」

「そうしとけば後々楽じゃない。自分の記憶力なんて信用できないしまとめとけば欲しいものだけ取りに行くときも使えるしね」

実際カフェの材料を集めるのに重宝している


「ねぇ、ここ薬草すごいんだけど」

「んー?」

ロキは地面に目を向ける


「本当だな。珍しい薬草が紛れてる」

そう言いながらいくつか採取している


「これ、根っこごと採取して屋敷で増やせるかな?」

「お前な…」

「薬草って料理に使えるものもあるし薬にもなるし…邪魔にはならないでしょ?」

「そうだけど誰が面倒見るんだよ?ジョンもウーも既に手いっぱいだぞ?」

2人とも野菜と花に夢中で敷地の空いている場所をかなり畑に変えている


「そっか…確かにそうだよね…」

そう呟きながらも諦めきれずにいるとうめき声が聞こえてきた


「誰かいる?」

「ああ。お前はこっち」

自分の背後に誘導するロキに素直に従う

少し警戒しながら進むと倒れこんで足を抱え込む年配の男と、そのそばでオロオロする若い男がいた


「何かあったのか?」

「あ・・・助けてくれ!突然蔓性の魔物が現れて足が…」

抱え込まれた足は赤黒くはれ上がっている


「こりゃ毒だな」

ロキが側に寄りそうつぶやいた


「私毒消し持ってるよ」

インベントリから小瓶を取り出しロキに向かって投げる

ロキはそれを倒れている男に飲ませた

そして傷口から魔道具を使って血を吸い取ると、同時に膿のようなものが出てきた

ビンに入れられたそれは何かの卵のようにも見える


「これだな。植物性の魔物で普段は動物に絡みついて痺れさす程度だけど、卵を植え付けることがある」

「卵?」

「ああ。一生で一度だけ産卵する。その卵の膜に強烈な毒性がある。あんたそれにあたったのはある意味貴重」

「はは…そんな貴重な体験できれば遠慮したかった」

男は苦笑する


「でもこの卵、売れば100万シアだぜ?」

「「100万?」」

男二人は顔を見合わせた


「たしかに何でしびれるだけの魔物が中級の26層にいるんだろうとは思ってたけど…」

うん。ボールと一緒だわ


「あまり知られてないから滅多に出回らない。痛い思いした元は取れるんじゃないか?」

「いや、でもこれを吸いだしたのはあんたの魔道具だ」

「気にすんな。それより何でここに?冒険者ではないよな?」

身なりからして違う

どうやってこの階層にたどり着けたのかさえ疑問を持ってしまう


「俺たちは薬師なんだ。ここは珍しい薬草が沢山あるから薬師にとっては最高の階層で…」

「だから一度だけ高ランクのパーティーにこの階まで同行してもらったんだ」

「この階層の魔物はしびれるだけの植物と眠くなるだけの植物しか出ないって聞いてたし、実際これまで何回も来たけど今回みたいのは初めてで…」

「なるほど…26階にしか用がないからそれで充分だったのね?」

25階のボスは攻略済み

そのフロアまで転移して26階層に来る

帰りは来た時と同じ25階層から転移するのだろう


「ああ。でもこんなことが起こるならもう来れそうにない。今度からはギルドに採取依頼を出すよ」

「何で最初からそうしなかったんだ?」

「冒険者に頼む時に採取方法まで指示出すことは出来ないし、珍しい薬草になると依頼料が払えない。でもこの卵を売れるなら当分は問題なさそうだ」

そうは言うものの諦めきれない顔である


「…お前らこれ、育てる気ある?」

ロキが突然そう尋ねた


「育てる?」

「こいつが苗ごと持って帰って増やしたがってる。でもその手の知識を持つ人間が周りにいない」

「…増やすことはできるが俺たちは宿を借りてるから畑は持ってないしそのための場所がない」

「それは問題ない。だろ?」

ロキはここにきて初めて私に話を振ってきた


「ええ。うちの敷地に畑を作ってもらえればそれでいいわ。住む場所も必要なら提供します。もちろん食事つきで」

「それは…」

「住み込みの従業員として来ていただいてもいいですよ?もしくは食事と部屋を提供する代わりに薬草を育ててもらうか、ですね」

「育てるのに失敗したら?」

「その時はその時で私たちでまたここに苗を取りに来ます。今日ここで採取された分は空いた場所でご自身の分として育ててもらってもいいですよ?もちろん採取しに来るときに同行してもらってもいいですし」

「…それは自分たちの分は好きに加工して売ってもいいということか?」

恐る恐る尋ねるその顔には不安と希望が入り混じっているように見える


「勿論です」

「だったら…食事と部屋を頼みたい。その分しっかり世話させてもらう」

「俺も…!」

「わかりました。お願いしますね。私はオリビエ・グラヨールと言います」

「俺はクロキュス・トゥルネソル」

「オリゴン・チュべルーズ。流れの薬師だ。こいつは息子のブラシュ、成人したての薬師見習だ」

「よろしくお願いします」

さっきまでオロオロしていたブラシュは大きな声でそう言った


「じゃあ後2時間ほどここで採取して屋敷に戻りましょう」

「あんたらは自分の分を採取すればいい。俺達にはインベントリがあるから荷物のことは気にするな」

「すごいや…苗で持って帰れるなら色んなことが試せるよ」

ブラシュが嬉しそうに言う


「オリゴン、どの苗でも大丈夫なの?」

「大抵は問題ない。でも…こんな風になってるのはやめた方がいい」

オリゴンは生え際が少し変色してるのを見せながら説明してくれる


「なるほど…」

私は自分の周辺にある苗の生え際を見ていく

変色していないのは意外と少ないようだ

その時小さな鮮やかな蝶がこちらに向かって飛んでくるのが見えた


「え?」

一瞬火花のような光が飛んで蝶が地面に落ちていく


「それ魔物」

ロキが言う

どうやら魔法で倒したらしい


「お前の右手の側に生えてる植物の花粉を体に着けてまき散らす」

「受粉の要領?」

「ああ。ただしそいつの腹の部分に神経毒の効果があるから、そこからまき散らされた花粉を吸ったらしばらく体が動かなくなる。それもけっこう珍しいから高く売れる」

「こんなにきれいな蝶が魔物…」

「魔物と思わず見過ごされる方が多いらしいけどな」

「俺も気付かなかった。遠くで飛んでるのは見たことあるけど…」

ブラシュが言う


「それはたぶんお前らが纏ってる虫よけのせいだな」

「え?ひょっとして蝶だから虫よけ苦手ってこと?」

魔物なのに?


「その虫よけ魔物除けの効果も多少あるだろ?」

「あぁ。流石に丸腰で来るのは怖いからな」

「何か不思議なフロアなのね」

私は風魔法で持ち上げしばらく眺めてからロキの方に運ぶ


「別にお前が持っててもいいのに」

律儀なものだと笑うロキに一応けじめは必要だと返す


「ひょっとしてこの動いてる草が眠らせるって言ってたやつ」

「ん?ああ。下手に攻撃すると威嚇するみたいに茎にある穴から霧状の睡眠成分を吹き出すんだ。眠るだけだからさほど問題ないけど物理も魔法もあんま効かないからある意味厄介…のはずなんだけど?」

ロキが説明している間に根元を焼いてしまうと動きが止まった


「根本焼いたら死んだ?みたいだけど…」

「マジか…根本切っても死なないのに焼いたら死ぬとか…電気も氷も効かなかったのに?上から火魔法ぶちまけた奴もいたはず…」

「…ドンマイ」

思わずその背をなでる


「それダビアに教えてやって」

「え?」

「あいつその草に大量に囲まれて一回泣き見てるから」

「そうなの?」

「最終的には大量の水で押し流したらしいけど何度も眠って大変だったらしい」

ロキは笑いながらそう言った



***


大量の薬草を仕入れて迷宮から戻ってくるとみんなに2人を紹介する

「庭師のジョンとその息子のウー、ウーは野菜畑がメインかな」

「どうも」

「はじめまして」

「彼女は掃除をお願いしてるカメリア」

「こんにちは」

「この子たちは私の子供達で上からコルザ、ロベリ、リラです」

「「「よろしくー」」」

3人は嬉しそうに声をそろえる


「で、元王宮騎士団の2人でダビアとマロニエ。交代で子供たちを見てもらってるの。彼らもオリゴン達と一緒でそれを対価にここに住んでるのよ」

「どうも」

「よろしく」

2人は会釈する


「部屋は空いてる部屋を自由に使ってくれていいから」

「自由にって…」

「2階にスイート、3階に個室があるから空いてる部屋ならどこでも。使う部屋にはこれに名前書いて扉の金具に下げといてくれる?」

「僕が案内するよ」

ウーがそう言って上に向かって行った


結果、3階の個室をそれぞれ選んだようである

ジョンとオリゴンはやたらと意気投合して薬草の畑をどうするか意見を出し合い、翌日の夕方には畑の形が整っていた

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