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38.新領主からの依頼

「ダビアに依頼が行くだろうとは思ってたけど…」

数日後、そうつぶやく私はロキとダビア、マロニエと共にタマリの屋敷にいた


「マーシェリーの人脈と行動力を甘く見てわ」

「まぁそう言わずに」

ため息交じりに言う私にタマリは苦笑する


「で?俺たちに協力して欲しいこととは?」

「この町を復興させるために協力して欲しい」

「協力?」

「マーシェリーに聞いた先日の1日講習は素晴らしいものだ。オリビエの子供達への戦い方の講習という案も…」

タマリはそう言いながら大きく息を吐きだした


「この町には騎士団はない。冒険者は来るが迷宮が目当てで、長期に留まるものは少ない。迷宮品は流れるがこの町に影響を及ぼすことは少ない。先の果物のようなものは例外でしかないからな」

「まぁそうだろうな」

ロキは頷く


「私は何としてでもこの町の皆を豊かにしたい。と言っても、富豪にしたいというわけじゃなく、少しでもゆとりのある普通の生活をさせてやりたい」

「…」

私はタマリの言葉を一通り聞くことにした

それを理解したのかタマリはつづけた


「騎士団を作る元手はない。でもせめて少しでも身を守れる組織を作りたい。希望する男手に戦い方を教えて少しでも生存率を上げたいんだ」

それはスタンピードでの教訓を意味しているのだろう

無力のまま立ち向かうのは死にに行くのと変わらないのだから


「それに父親を亡くした家では子供たちが冒険者もどきの暮らしを強いられている。その子供達にも基本的な戦い方と身の守り方を覚える環境を与えてやりたい」

スタンピードで真っ先に守りの為に動き、その後も自ら動いていたと聞いていただけにその言葉は切実だった

魔物に勝つことが目的ではなく、生き残ることに軸を置いた考え方だと思った


「それに…スタンピードで動けなくなった者に生きる希望を持ってもらいたい。彼らがいなければ我々はもっとひどい状況を目にすることになったはずだ」

「…冒険者や腕に覚えのある者か」

「ああ。無力の者は即死だった。彼らは力があったおかげで生き延びた。そんな彼らが自分がお荷物だと思いながら暮らすなどあっていいはずがない」

その言葉には怒りがこもっていた


「領主がそういう扱いをしていたということか?」

ダビアのその言葉にタマリは頷いた

エメルの怒りの元がそこだったのだと初めて理解した


「怪我をした騎士に心無い言葉をかける称号持ちがいた…あいつはそれと同じだったってことか」

マロニエの言葉には怒りがこもっている

身を呈して戦って傷ついた者に対する言葉だけに当然だ


「今すぐでなくても税金も元に戻したい。でも何をするにも元手がないのが現状だ。だからと言って諦めるわけにはいかない」

そこには強い決意が見て取れる


「何をするにも金はかかるもんな。俺らもずっと無料奉仕ってわけにもいかないし」

マロニエの言葉にタマリは項垂れる

分かっているからこそ協力を願い出たのだろう


「…戦い方を覚えたい男手ってのは既にいるということか?」

「あ、あぁ。いざというときに町を守る助けになりたいという者がいる」

「なるほど。じゃぁ有志の自警団を作るぞ」

ダビアがそう言いながらニヤリと笑った


「有志の自警団?」

「騎士団のいない小さな町などで見かけるやつか?」

「ああ。強制ではなく自分の空いた時間や夜に見回りをしたりするあれだ」

「まとめ役は俺とマロニエでやってやる。入った奴には戦い方を教えてやる」

「なるほど。もともと有志の集まりだからそこに報酬も強制力も発生しないということね?」

「そういうことだ。義務でないなら俺らも自由に動けるしな」

ダビアはニヤリと笑う

町を守る手助けをしたいという者なら、普段から見回りすることも嫌がりはしないだろう

ましてそれは強制されるものではないので負担もないはずだ


「君達はそれでいいのか?」

「まぁやめたとはいえ、好んで騎士団に入ったくらいだ。空いた時間に協力するくらいなんともない」

「俺も。それで役に立てるなら俺としても嬉しいし」

2人は根っからの騎士だったのだろう

嫌がるどころかどこか誇らしそうにさえ見える


「王都の元騎士団長と精鋭に手ほどきしてもらえるなんて贅沢な自警団だな」

ロキは苦笑しながらそう言った


「見回りをする、しないにかかわらず、入れば手ほどきを受けれるなら入る人は多そうね」

「見回りくらいはして欲しいもんだが…」

「いいんじゃないか?どっちにしても身を守る手札が増えることには変わらないからな」

自分で自分の身を守れるものが増えるならそれに越したことは無い

そもそも、自分の身を守れない人間に他人を守れるわけもないだろうしね

「…感謝する。それには是非私も参加させて欲しい」

「ああ、期待してるぜ」

誰よりも歯がゆかったのはタマリ自身だったのだろう

ダビアの即答に破顔した


「あとは子供達だな」

「…ねぇ、その元冒険者や心得のある人たちって、子供たちの相手くらいできるわよね?」

「片手がないとか片足がないくらいなら大丈夫なんじゃないか?」

「だよね。タマリ、人を2~3人雇うことはできますか?」

「大量には無理だが2人くらいなら…」

「じゃぁそういう方を1人雇ってください。その方に子供たちに指導してもらえばいいと思うの。戦い方や冒険者をする上での基本的な知識も含めて」

「なるほどな…俺らが教えるより適任だな」

「どういうことだい?」

一人首を傾げたのはタマリだ


「魔物に負ける本当の怖さを知ってるのは彼らだ。その後の悔しい気持ちも含めてな」

「…あぁ、そうだな…」

「だからこそ説得力があるはず。軽い気持ちで挑んではいけないこと、自分がケガをした時の影響、魔物に挑む覚悟なんかも」

「そうかもしれないな…」

「これから登録するのはその人の合格がもらえてからって条件を付けるのもいいかもな。既に登録してても勿論指導を受けることはできるようにしてさ」

「タマリが雇用するなら子供たちや親に負担はないしな。その中で解体の方法も教えりゃ親も参加するかもな」

「それはいいわね。どんなことを教わってるか知ってれば親も多少安心できるだろうし、自分たちの知識も増えるものね」

「…君たちは凄いことを考えるな」

タマリはただただ驚いた表情を見せる


「単にこの町にいるよりも色んなものを見る機会があったってだけだ。それより、もう1人はどうする気だ?」

「そういや指導者は1人って言ったか?」

「そう。2人雇うなら1人は戦い方と守り方、もう一人は勉強を教えれる人」

「勉強?」

「ええ。以前は神父さんが教えてたと」

「ああ。でも高齢で…そうか知識があれば選択肢が増える…?」

言いながら気づいたようだ


「ええ。文字や計算を教えれる人をタマリが雇うの。そうすれば誰もが負担なく自由に学べる。余裕がなければとりあえず図書館でって言う方法もあるけどね」

「司書は公金で雇ってるんだっけ」

「先代の王が決めたはずだな。全ての町に図書館を置き司書は王都から派遣するって」

「となると司書が教えるのは期待できないな」

マロニエがキッパリ言い切った


「多分、規約外の仕事は引き受けない」

首を傾げているとロキがそう呟いた


「そういうもの?」

「そういう仕事に就けるのは称号持ちだけだ」

「図書館の本が偏ってるのはそのせい?」

前に見に行った時に感じた事を尋ねると頷かれた


一般の人の生活や情緒の形成とはかけ離れた本ばかりが並んでいて、それこそ称号持ち年鑑やその家の歴史などに関するものが大半を占めていた

定休日を設ける時にウーに図書館でって話をしたけど、とても役立ちそうにはなかったのだ


「でもギルドの図鑑が読めれば手札は増えるんじゃないか」

「それはあるな。魔物狩ったついでに薬草摘んでくることも出来るかもしれない。依頼は10本単位が多くても買取自体は1本から可能だしな」

「何にしても無駄になることは無いだろう。少なくとも自分の自信にはつながるだろうな」

「ってことでどうだ?」

ロキがタマリを見た


「そうさせてもらうよ。君達には感謝する」

「堅苦しいのはなしな。とりあえず自警団は今日からでも始めれるな。当分の間は俺かマロニエが必ずいるようにするよ」

「集まる場所は?」

「そうだなぁ…広場とかが一番無難だろうけど」

ダビアが考え込む


「なら広場の隅にある集会所を使おう」

「あぁ。何かあったな。あれ使っても大丈夫なのか?」

「催事の打ち合わせなんかに使うだけの町の持ち物だ。町を守るのが目的の自警団なら使う権利もあるだろう」

そういう意味なら確かに権利はありそうね


「何かが置いてあるわけじゃないからカギはかけてない。休憩くらいには使えるだろう」

「じゃあ遠慮なく使わせてもらうか。希望してるやつをいったん今夜集めてくれ。そこでどんなことをしていくのか決めよう」

「そうだな。分かってる者には声をかけておくよ」

タマリの言葉を聞いて私たちは屋敷に戻った



「一人雇うだけじゃ解決にはならないよな」

「それは多分大丈夫だと思うよ」

「え?」

3人が私の方を見た


「子ども達は純粋だもの。身近に同様の人がいれば同じように教えてもらえると思うんじゃない?」

「…確かに」

「でしょう?そこに報酬は発生しないと思うけど、彼らが自分にも出来ることがあると思うには充分だと思うのよね」

「出来ることがあれば生きようと思える…か」

「そういうこと。それにこの町は助け合うのが当たり前に感じるもの。きっと教わった子供たちは魔物のおすそ分けくらいすると思うよ」

教えてもらったお礼に、それくらい当たり前にするのがこの町の人たちだ


「おすそ分けって言うより褒めてもらいにって気もするな」

「たしかに。それに、子供達を通して奥さんたちが解体の仕方を教えてもらいに行くことだって十分あり得るでしょう?」

そうできる町は素敵だと思うと続けるとロキが優しい眼差しでこっちを見ていた


「領主がするのはきっかけで充分。あとは身近な人たちで助け合うでしょ。文字の勉強も数の勉強もきっと同じだよ」

時間を持て余した高齢者はどこにでもいるのだ

孫世代と関われるなら喜んで教えるだろう

なんにしてもタマリが領主になったことはこの町にとって幸運なことだと頷き合っていた

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