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36.インベントリの整理

ナハマが来た翌日、店を閉めてから私はインベントリの整理の続きに取り掛かった

流石にこのまま放置するわけにいかないだろう、とロキに言われてその通りだと思ったからだ

夕食の準備をカメリアに任せてロキと共に応接室に籠る


「それにしても本当にすごい量だな」

次々と取り出されるものを見ながらロキが言う


「普通本棚ごと入れるか?」

本がぎっしり詰まった大きな本棚を5つ取り出した瞬間ロキは言う

この本棚だけで壁を一面覆うことが出来る

呆れながらも興味があるのかすぐに何冊か手に取っている


「部屋がそんなに広くなかったから、いっぱいになったらここにしまってたんだよね」

自分でもどんな本が入っているか正確には覚えていない

子供の頃から蓄積されているからそれなりの数はあるはずだけどね


「…流石に読めないな」

「そっか。私には召喚された時の世界言語のスキルがあるからどんな言葉でも問題ないけど、普通は違うもんね」

とても素晴らしいスキルだわ

おかげでこの世界の言葉に困ったこともないのだから


「文字、覚える?」

「…覚えたら読めるな」

覚える苦労より大量の本が読めるという楽しみの方が強そうだ

ロキなら特に苦労することもないかもしれないけどね


「母音と子音の数が同じだから変換表作るだけで行けると思うよ。覚える気になればすぐ覚えれるんじゃない?」

「そうなのか?」

「うん。この整理が終わったら作るね」

きっとロキは記憶力もいいからすぐに覚えてしまうだろう


「絵本くらいならこっちの文字を書いてあげればあの子たちも読めるかな。小説と違って絵本は文字数が限られてるし…」

「はは…そのうち元の言葉も覚えてるかもな」

「確かに…こっちでは何の役にもたたないけど」

本が大好きな子ども達だ

沢山の本が読めるなら、楽しんでるうちに覚えるのは有り得ない話ではない


「確かこの辺に絵本や図鑑が…」

一番古い本棚の下の方の段に目をやると懐かしい本が詰まっていた

子供の頃に親しんだ、私を本の世界に引き込んだ本たちだ


「俺もここから始めるかな」

ロキが引っ張り出したのは背表紙からも図鑑と分かる1冊だ


「ロキならこっちの方がいいんじゃない?」

私が引っ張り出したのは比較的新しい本が詰まった本棚の中の1冊だ


「お」

表紙を見て食いついた

そこに映っているのはお酒だ

文字を覚えるなら興味のあるものの方が楽しめる


「これ、お前持ってたよな?」

ラベルに見覚えがあったのだろう

ページをめくりながら手を止めるとお酒の並んだテーブルに向かって行った

実物と写真を見比べながら楽しんでいるようで何よりだ

早く変換表を作ろうと思いつつ作業を続けた



一通り取り出した結果、かなりの量の使えないものや置いておく必要のないものが出てきた

それを除いて整理しながら仕舞っていく

本棚はロキの希望でこの部屋に置いておくことにした

お酒は勝手に飲みそうな人間が沢山いるので、取りあえずインベントリに片付けておくことにした


「それにしても玩具まで…」

「あはは…何か捨てれないものは全部放り込んでたから」

目の前にあるのは大量の玩具

ボールなどの外で使うものから積み木などの中で使うものまで、それこそ対象年齢も様々だ


「ガーデニンググッズはジョン達が使ってくれるかなぁ…でも庭って言うよりベランダ用なんだよね」

あくまで少量を小さなスペースで楽しむためのもので、広大な場所用の道具ではないのだ


「とりあえず渡しといてやれば?小屋もあることだし」

「そうだね。ということで…」

私は応接室のドアを開けた


「皆きてー」

声を張り上げるとサロンやキッチンから集まってくる


「どうしたの?」

「なになにー?」

普段ないことだけに子供たちはワクワクしてるように見える


「ちょっと荷物の整理をしてたら色々出てきてね」

「色々?」

「そう。色々。だからこの中にいるものがあったら持って行ってもらおうと思って」

所狭しと並べたものを見て皆が目を輝かせた


「この辺が玩具、この辺からガーデニンググッズ、こっちは日曜大工の道具、この辺が家具やラック類かな。一応こっちでも使えるものだけにはしたんだけど」

「おもちゃいっぱいあるよ?」

「初めて見るのもいっぱい」

「でも遊び方わかんないのもある」

手に取りながら口々に言葉が飛んだ


「遊び方を考えるのも楽しいんじゃないか?」

「!」

ロキの言葉に子供たちが顔を見合わせる


「オリビエ、これ全部置いといてもいい?」

「いいわよ。ただし、置いときたいものはあなた達で遊び部屋に運んでね」

そう言うと手分けしながら我先にと運び始めた


「家具なんかは私たちが手伝うから声かけてね」

「ウー、こっちの窓際に荷台をもってこい」

「分かった」

ジョンが何をしたいのか理解したウーは飛び出して行った


「ジョン、その辺は使えそう?」

「初めて見たものもあるが…間引いた苗を捨てずに済むのは確かだな」

あぁ、なるほど

プランターに植え直すということか


「間引いた花の苗をプランターで育てればカフェにも置けるぞ」

「それは素敵ね。カフェが明るくなるわ」

ジョンはガーデニンググッズだけでなく工具も庭造りに使えそうだとごっそり小屋に運んでいった


「オリビエ、このラックもらってもいい?3段だし子供たちに1段ずつ使わせたら丁度いいと思って」

「もちろんいいわよ」

「ありがとう。あの子たちお駄賃でもらった学習帳や絵本の置き場に困ってるみたいだったの」

「自分だけのものは大切にしたくなるもんだからな」

ナハマが笑いながら言う

私だけでなくジョンとロキも子供たちのお手伝いにはお駄賃を渡していて、その時に望むのはたいてい学習帳や絵本になるようだ


「その日の暮らしをどうしようって悩んでたのを考えたら、本当にぜいたくな悩みよね」

「それは私の方よ?」

「オリビエの言うとおりだ。俺だけじゃオリビエを抑えきれないからな」

「…ロキ?私を一体何だと思ってるのかしら?」

「じゃじゃ馬」

サラッと告げられた言葉に唖然とした私に皆が笑う

皆もそう思ってるということかしら?

まぁいいんだけど…


並べられていたものはほぼ引き取られていき、残ったものの中でも家具やラックだけは倉庫代わりの部屋に入れておき、好きに持ち出していいということにした

話し合った結果、暮らしている中で物の量も変わるから、皆で使いまわすのもありだろうということになったのだ


「ところであの本棚は?」

マロニエが気になっていたのだと尋ねて来た


「あれは元の世界の本なのよね。別に読んでくれてもいいんだけど文字がね…」

「あぁ、読めないってことか」

納得いったように頷いた


「ロキが読みたいって言うから、文字の変換表は作るんだけどね」

「それ僕も欲しい」

ウーが言う


「…ここの本読む以外に使い道ないわよ?」

「うん。でもこんなに沢山あるんだよ?」

文字が分かれば読めるならその方がいいという


「俺も欲しいな。知らない世界の事を知るのは面白そうだ」

「そうだな。俺は図鑑系だけでも読んでみたい」

マロニエとダビアが続く


「私も料理の本を読んでみたいわ。オリビエの料理は初めて見るものばかりだもの」

「ぼくもー」

「えほんがいっぱいあるもん」

コルザとロベリまで乗ってくる


「絵本にはこっちの言葉を書き込んでいこうと思ってるの。コルザたちは先にこっちの文字をちゃんと読み書きできるようになった方がいいんじゃない?」

「んーじゃぁその絵本で両方勉強する」

あら、絵本で2つの言語を同時に習得する気かしら?


「なら俺も絵本に書き込んでいくかな。使ってるうちに覚えれそうだ」

「それいいな。俺もやってみよ」

ロキとマロニエはかなり乗り気だ


「と、とりあえず変換表は皆の分用意した方がよさそうね」

「時間がある時でいいから本棚の中を区分けしてもらえないか?」

「区分け?」

「絵本と図鑑がこの辺に固まってるのは分かったが他はさっぱりだ」

「小説とか料理の本とか…そういう区分け?」

「あぁ。すぐでなくてもいいんだが」

ナハマは申し訳なさそうに言う


「それくらいならお安い御用よ。ついでに子供用は下の方に固めた方がよさそうだし早めにやっておくわね」

「みんなが見るならこの本棚はサロンに置いた方がいいんじゃないか?」

「それもそうね。それはすぐに出来るからやっちゃおうか」

全てを一旦インベントリにしまうと皆でサロンに移動した


「こんな感じ?」

壁際に壁面収納のごとく本棚を並べた

その前にカーペットを敷き、大きなクッションを3つ程適当に並べる


「こいつは贅沢だ」

クッションに身を預けながらそう言ったジョンの顔はにやけている

子供達は寝転がって絵本に手を伸ばしていた

気に入ってくれたなら何よりだ


「このカーペットとクッションも向こうの?」

「そういやこんな模様は見たことが無いな…模様というより織物か?」

「そう。織物の裏にクッション素材をあしらったカーペット。クッションは向こうで一時期かなり流行ったものなのよね。人間をダメにするクッション」

「人間をダメにする?」

ロキが首を傾げる


「ロキ、使って見りゃその意味が分かる」

ジョンが私の代わりに答えた


「?ああ」

ロキは首を傾げながらクッションに身を預けた


「…これは…」

「確かにダメになるな」

残っていた1つに身を預けたダビアが続けた


「でしょう?人気が出すぎて犯罪が多発したせいで生産がストップされたの。だから私が入手できたのはその3つだけ。オークションでは今でもすっごい高額で取引されてるみたいだけどね」

「犯罪?」

「店だけじゃなく工場が襲撃されたみたい」

その言葉に皆が顔を見合わせた


「とにかく、変換表を作るのは最優先事項にするとして…先に夕飯にしましょうか」

「そうだな。腹減ったし」

「本は逃げないからな」

ナハマの言葉に皆が笑いながら食堂に向かった

夕食後すぐに変換表を作ったのは言うまでもない

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