34.ナハマの勧誘
屋敷に戻り猫の事を子供たちに任せると、ナハマとロキと共にサロンに入る
「そちらにどうぞ」
向かいのソファにナハマを促すとロキは私の隣に座った
「早速だけど本題に入るわね」
「あ、あぁ」
ナハマは緊張した面持ちで頷いた
「私の希望はナハマにこの状態の荒節を大量生産してもらうことなの」
そう言いながらインベントリから取り出した石のような荒節を渡す
「まるで石みたいじゃないか…こんな状態にして一体どうしようって言うんだ?」
「私はこれを料理に使ってたの。手持ちがもうこれしかなくて使うのをためらってたんだけど…でもナハマが作ってくれるならふんだんに使えるでしょう?」
「これを…料理に?」
そのことばにはナハマだけでなくロキまで驚いていた
「これ、回数を追うごとに固くなるでしょう?多分これまでの作業にプラス3回くらいでこうなるはずなのよね」
「…」
「で、ここからが本題ね。ナハマには2つの選択肢があるわ」
「2つ?」
「ええ。1つは職人として私が雇う形でこれを大量生産してもらう方法。この場合、材料や必要な道具はこちらで全て用意させてもらうし、月々固定の報酬をお支払いするわ」
これはジョンやカメリアと同じ形だ
「もう一つはナハマの作った商品を購入させてもらう方法ね。その場合1本の単価を決めて取引させてもらう形になると思うわ」
「…なるほどな。これに専念して固定報酬を得るか、これまで通り飼料と並行して取引するかってことか」
「そういうことね」
ナハマは腕を組み考えるそぶりを見せる
「報酬はどうなる?」
「そうね…とりあえず今と同等は保証するわ。それ以上はその後の働き次第で随時交渉かしら?」
「ちなみにジョンとカメリアもその条件だな」
ロキがサラっと告げる
丁度その時お茶を持ったカメリアが入ってきた
「話をするなら必要でしょう?」
「ええ。ありがとう」
頷くと微笑みながらみんなの前にお茶を置いてくれた
「カメリア」
「え?」
「お前さんはここで…」
「働かせてもらってます。オリビエは元の報酬を提示してくれたんだけど申し訳なさ過ぎて…長屋の家賃分を引いた額でお願いしました」
カメリアは苦笑しながらそう言った
「おまえさん元々それほどもらってなかっただろう?」
「ええ。でも…オリビエは私たち親子をここに住まわせてくれてますし、4人分の食事やおやつも付けてくれますから」
「おやつなどぜいたく品だろ」
「それを惜しみなく与えてくれるんですよ?今までコルザのお下がりしか着せてやれなかったロベリにも新しい服も買ってやれるようになったわ。それにこれからは蓄えることが出来そうなんです」
「な…?」
「びっくりでしょう?」
「びっくりなんてもんじゃ…」
ナハマは驚愕の表情を浮かべた
「勿論ナハマのお部屋も用意しますよ。食事も。ただ子供達もいますから静かな場所がいいと言われると難しいですけど」
「いや、それは問題ない。でもそれでお前さんに利があるのか?」
「そうですね。新鮮で上質な荒節の安定供給ですね。使いきれない分は売ることも出来ますから」
いくら今はこの世界で飼料だとしても、食べ方さえ知ってしまえば広まるという確信がある
「今すぐ結論を出さなくても少し考えてもらってもいいですよ?」
「いや、可能なら雇ってもらいたい」
「本当?」
「ああ。それでお前さんがいいのなら」
「こちらから提案して断るなんてありえないわ。じゃあ報酬も決めないとね」
そう言うとカメリアは気を利かせて部屋を出て行った
「今の収入はどれくらいなんだ?」
「平均すれば6万シア弱だ。それより多い時も少ない時もある」
「じゃぁとりあえず6万で契約しましょうか?」
「…ほんとにいいのか?住む場所に食事も…」
「かまいませんよ。でも欲を言えば…」
「?」
ナハマと共にロキまでこっちを見た
2人とも何を言いだされるのかと少し構えた感じの表情になっている
「子ども達を気にかけてやってくれると嬉しいです。ご存知の通りやんちゃ盛りなので。さっきみたいに迷子騒動になることもありますしね」
「あぁ…それならお安い御用だ。むしろありがたい。元々孫のように癒してもらってたからな」
ホッとしたように顔をほころばせるナハマに微笑んで返す
それを聞いてロキがいったん外に出て行った
きっとみんなを呼んできてくれるのだろう
「歓迎します」
「こっちこそありがたい。これからよろしく頼む」
ナハマは座ったままだが頭を深く下げてくる
「こちらこそお願いしますね。ちなみにお部屋は3階になりますけど大丈夫ですか?」
「ああ。問題ない。日ごろから運動不足だから丁度いい」
ならいいか?
そう思っていると扉が開いた
「久しぶりだな、ナハマ。ここに住むんだって?」
「ジョンか。お前さんもここに?」
「ああ。持ち主が変わった時に出て行こうとしたら引き留めてくれた」
「僕も報酬貰えるんだよ」
「ウーも?そりゃ凄い」
ナハマは驚きながらも嬉しそうだ
ジョンとは10年以上前からの知り合いで、ジョンの奥さんやウーが小さい頃も知っているという
「荷物を運ぶなら手伝うぞ。荷台もあるしな」
「僕も手伝うよ。今から行く?」
「いや、そんなすぐには迷惑だろ?」
「大丈夫よ~?カメリアが部屋はどこでもちゃんと使えるようにしてくれてるから」
「それが私の仕事ですもの」
カメリアが得意げに言うと皆が笑う
「本当にいいのか?正直有り難いが…」
「そうよね。長屋はゆっくり眠れないもの」
カメリアが以前を思い出し苦笑する
そういえば喧嘩もよくおこると言っていた気がする
「じゃあ決まりね。ナハマの荷物を運んでいる間に私達は夕飯の準備でもしましょうか」
「そうね。あなたたちはここで猫と遊んでなさいね」
「「「はーい」」」
3人は嬉しそうに返事した