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3.提案

「率直にお答えいただき感謝します」

あくまで答えてもらったことに対するお礼だけどね

流石に召喚に巻き込まれたことも、そもそもの召喚の対象やそれを求めた理由も、”はい、そうですか”なんて簡単に飲み込めるものじゃない

でも、ここはとりあえず敵意だけは向けないようにしようと軽く頭を下げる


「他に聞きたいことはおありかな?」

「そうですね。この世界に冒険者という仕組みはありますか?」

冒険者やギルドがあれば当面の生活は何とかなるはず

ただ問題はこの世界が一律で低ランクからスタートするのか、元の世界のように実力総統からスタートするのかってあたりかな

できれば後者であって欲しい

ま、そうでなくても素材を売るのは自由だろうしお金の面では多分大丈夫


「ああ。依頼を受けたり迷宮の攻略で生活をしている者はいる。冒険者ギルドで登録するだけでなれるから冒険者人口はかなり多いはずだ」

「そうですか…それは私のような者でも登録は可能でしょうか?」

「問題ないはずだが…登録する気かね?」

「一応、元の世界ではそれで生活してた時期もありますので」

もちろんそれ以上のことを伝える気はないけど…


「あと、聞きたいことと言うより2つほどお願いがあるのですが」

「願い?」

「はい。自分のこの先について、です」

私はそう言ってにっこりと微笑んで見せる


「…一つの案として聞いてみようか」

側近たちと少し言葉を交わしてから王はそう言った


「ではまず、この世界で3か月ほど生活できるだけの準備をしていただけますか?」

「3か月?たったそれだけか?」

「ええ。その間に自分で仕事を見つけます。衣食住が確保できれば何とかなるでしょうから」

私にはそう出来る自信もある


「あと、この世界や国の事が書かれた本などがあればお借りしたいのですが」

何をするにも最低限の知識は必要だ

ここに置いてもらえない以上、この人たちから教えてもらうのはきっと無理だろう

尤も、置いてもらえると言われても出来れば遠慮したい

そうなると知り合いがいない私は書物からでも知識を得る必要がある


王は側近たちと相談を始めた

5分ほどしてこちらに向き直る

「承知した。その願いはいずれも聞き入れよう」

「ありがとうございます」

意外とあっさり受け入れられた


「王都から少し離れた場所になるが辺境の町に私が個人的に持つ別荘がある。その別荘をあなたに譲ろう」

「流石にそれは…」

「手に入れてから一度も使っていないものだから構わん。書籍は…生活に困らない知識が得られるものをいくつか見繕ってお渡しを」

「承知しました」

側近の1人が頷き部屋を出て行った


「あとは1年、生活できるだけの資金を」

「承知しました」

もう一人の側近もすぐに出て行った


「随分優遇していただけるのですね?」

提示したのは3か月

意図的に少なめに提示したものの伸びても半年だろうと思っていた

それから考えれば1年は破格と言える

そこに裏の意図が無いと信じるのはかなりリスキーだけど…


「召還など簡単にしていい事ではない。その上あなたは巻き込まれただけの被害者だ」

「…」

巻き込まれた()()という表現は不快だわ

人の人生を何だと思ってるのかしら?

まぁ、召喚(こんなこと)するだけあって召喚された人間も道具でしかないんだろうけど…

この人は口ではもっともらしいことを言ってても内心は保身しか考えてないってことかな?


「召喚した者に対してのこの世界での取り決めのこともある。本来であれば1年でも短すぎるのだが…かといって巻き込まれた者を歌姫と同等に扱うほど、我が国に余裕があるわけでもない」

この世界としての取り決めがどんなものかは分からないけど、3か月の保証だけで放り出すと他の国からどう思われるかわからないということなのだろう

結局そっちが本音ってことね


まぁこの国はイモーテルだけで相当な気力と労力がそがれることだろう

おそらく経済的な面でも

元の世界でのイモーテルを知っているだけに、それが元の世界のデフォルトと思われるのは心外だけど…


「歌姫は責任をもって王宮で保護することが出来るがあなたはそうではない。だからせめて出来る限りの事はさせてもらう」

ナルシスの言葉はおそらく彼なりの本心だろうと思う

尤も自分の保身を行う上での出来る限りのことではあるんだろうけど

かといって不満を表に出すのは悪手よね


「ではお言葉に甘えます。ありがとうございます」

私がそう言って頭を下げた時2人の側近が戻ってきた


「この世界の歴史が書かれたもの、法律に関するもの、学院…一定の権力を持つ家の、13歳以上の者が5年間通う学校で学ぶべき一般常識や礼儀作法をまとめたもの、食物に関するもの、薬草に関するものをこちらにご用意させていただきました」

そう言って6冊の本をテーブルに置いた


「ほかにもご希望のものがあればご用意いたしますが…」

「いえ。これだけたくさんありがとうございます。読み終えた際はどのようにお返しすればよろしいですか?」

「返却は必要ありませんのでそのままお持ちください。もし邪魔になれば商人に売っていただければ多少の金銭の足しにはなるでしょう」


「こちらが1年分の生活費です。通貨単位はこちらに一覧にさせていただきました」

そう言って小さなバッグと用紙を一枚渡してくれる

元の世界と通貨単位は違うものの価値は変わらないようだ

ご丁寧に一般的な生活に関する平均価格まで記載されていた


「このバッグはマジックバッグになっております。手を入れれば中に入っているものが頭の中に表示されるのですが…」

言われるまま手を入れる


「お金だけじゃないみたいですけど…?」

表示されたのはお金、結構な量の日持ちのしそうな食料、鍋らしきもの、コンロのような魔道具、調味料だろうもの、水、2種類のポーションが5本ずつ、着替えや下着などまで入っている


「衣類は王宮の侍女に用意させました。サイズが合わないかもしれませんが、間に合わせ程度にはお役に立つと思います」

「何から何までご丁寧に…」

この人たちは根は良心的な人なのだろう


わたしは貰った本もマジックバッグにしまうと顔をあげた


「こちらも一緒にお持ちください。この王宮の連絡先を記載しています。何かお困りになりましたらご連絡を」

「ありがとうございます」

カードのような紙を受け取りマジックバッグにしまう


ここまで準備してもらえたんだから良しとしよう

少なくとも生き永らえることは出来るもの

願いとそれた召喚者が無下に扱われる話は珍しいものじゃない

無かったことにするためにその場で捕えて牢行きなんて世界もある

そんな世界じゃなかった事にはある意味感謝よね


でも、どこでこの人たちの気が変わるかわからないだけに、早くこの場を立ち去りたいというのが正直な気持ちだ


その時ドアがノックされた

オナグルが待ちぼうけだという連絡だった

待ちぼうけって…30分も経ってないはずだけど?


「申し訳ない」

「とんでもありません。こんなに色んなものをいただきましたし…」

「足りないくらいだ。これは別荘の権利書だ。何かあった時の為に譲渡の旨を記した書類も入れてある」

ナルシスはそう言って書類の入った封筒を渡してくれる

念のため中を確認すると言われた通りのものが入っていた


「別荘までは騎士団に送らせよう」

「よろしいのですか?」

「かまわん。町までの道中でこの世界や国のことも説明させよう」

王がそう言うと側近の一人が外に控えている者に指示を出そうとした


「王、一つよろしいですか?」

それまで何も言わずこちらの様子を伺っていた側近の一人が跪く

それを見て指示を出そうとした側近も動きを止めた


「どうした?」

「これまで保留にしていた望みを今申し上げても?」

「…ふむ。何年も考え続けた結果が出たか」

「はい」

「申してみよ」

ナルシスは少し考えてからそう言った


「オリビエ様をお守りしとうございます」

その言葉に誰よりも驚いたのは私だろう

王の側近だろう一人がどこの誰かも分からない、おまけで召喚された私を守りたいなどありえないことだ


「その目…そなたの()() ()() ()()()()()か」

「はい」

王は少し考えるそぶりを見せた


「それなら仕方あるまい。オリビエ殿、この者が付き添うのは迷惑だろうか?」

「いえ、こちらに知り合いがいるわけではないので誰かがいてくれるならありがたいです。でも王の側近の方…ですよね?」

「あぁ、それは構わん。この世界でソル エ ユニークに勝るものはないからな」

ナルシスはそう言って笑う

王にそう言わしめる()() ()() ()()()()()が何なのかが分からないだけに反応しづらい

でもそれを聞くのも何かが違う気がした


「クロキュス・トゥルネソル」

「はい」

「今この時を以てそなたとの契約を解除する」

「…今までありがとうございました」

クロキュスは深々と頭を下げた

王の側近なんて機密情報を知り得る立場の人間がこんなにあっさり解放されるものなのかしら?

普通に考えたら飼い殺しにされそうなんだけど…


「一緒に旅立つか?そなたの事だ、荷物などは全て身に着けておるのだろう?」

「はい。私室に残っているものは処分していただければと」

「わかった。これからのそなたを楽しみにしていよう」

ナルシスは意味ありげに笑いながら私へのあいさつを済ませて出て行った

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