表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/140

30.本音(side:王宮 騎士団)

ソンシティヴュのあるこのフーシアという世界では、ここ数年魔物の被害が激増している

その中でも冒険者のレベルが芳しくないこのソンシティヴュでは、他国と比べて騎士団にかかる負担が大きいと言われていた

「あー俺もうやめていい?」

20歳過ぎの騎士がぼやく


この日はいつもより狂暴な魔物が多かった

何とか殲滅するも騎士団側には負傷者が多数出ていた

幸い死人は出なかったものの魔物から受けた傷は普通の怪我より治りが遅い

何より、狂暴な魔物には魔力のあるものも多く、その影響は様々である

酷い場合は1か月以上昏睡状態になることもあると言われているのだ

そのことで特に若い騎士たちは不安や不満を押さえ切れなくなってきていた


「ただでさえ休みが取れなかったのに、ダビアとマロニエの抜けた穴なんて簡単に埋められねぇって…」

近くにいた騎士からも愚痴が零される


「泣きごと言ってる暇があったら体のケアをしておけ」

「やってますよ…でも特攻2人がぬけて、王族の専属に3人取られたのに補充無しとかありえないですよ?」

おそらく大半の騎士が内に秘めているだろうことだった

元々精鋭の騎士は15人しかいなかった

その中から正妃ソラセナの護衛に3人が引き抜かれている

通常の騎士の倍以上の動きをする精鋭だけに騎士団としての痛手は大きい

王族としては称号持ち以上が守られるならそれで構わないというのが建前だ


「まぁ、お前の言いたいことも理解できるがな」

「そうでしょう、団長?」

だからこそ若い騎士は、ため息交じりに零された団長の言葉に食いついた


「だとしても、だ。俺たちに出来るのは、力の限り守りに徹することだけだ」

「それは分かってますけど…」

でもやり切れない思いがあるのだとその目が語っていた


「どうせなら勇者か聖女を召喚してくれりゃ良かったのに」

「だよな。何度か歌を聞いたけど歌姫なんて何の役にも立たない」

「その歌姫もオナグル様が囲ってるんだろ?他国に知れたら大問題だよな?」

「問題どころの騒ぎじゃないだろ」

ボソッと零された言葉に静まり返る

歌姫の事に関しては口外しないことを魔道具で誓約させられている

話せるのはせいぜいこの場にいる騎士同士くらいだろう


「歌姫もだけど、正妃もあれだしなぁ…」

「入城してから1か月ちょっとか?」

「もっと長い気がするな。城から脱走しようとしたり離宮に突入しようとしたり…」

「専属になった3人は八つ当たりも酷いって言ってたな」

たまに顔を合わせる出世したはずの3人が、成人したはずなのに幼子の相手をしているようだとうんざりした顔で話すのを何度も聞いた

直接関わらない騎士団ですらうんざりするのだから専属護衛の負担は相当なものだろう


「ダビアとマロニエが断わったとき、なんて勿体ないことを、って思ったけど…あの時の自分を殴りたい」

そう零したのはダビア達と共に最初に指名されたハンソンだった

既に引き受けてしまった以上、専属を外れることができたとしても、王宮内での飼い殺しになることは分かり切っている

専属である以上、本来は知りえない多くの情報を入手する

そんな情報を持った者を外に放つわけがないのだから

そういう意味ではクロキュスは異例の扱いだったのだ


「マロニエは正妃と同じ年、学園でも同じクラスだっただけに、きっとこうなることを予想してたんだろう」

「ダビアに続いて即答したって言ってましたからね」

騎士団の中にも正妃と同世代は何人もいる

その中にも正妃がその器でないと知っている者もいたが、あえて口にはしなかった

その話の出所が自分だと突き止められれば、自分だけでなく家族がどうなるかわからないからだ


「相手はゴールドの称号を持つだけに知ってても明かすことはできない、か…」

「でしょうね。マロニエにしたら選択肢は無かったも同然だろう」

「あいつ、騎士団に入ること反対されて勘当されたんでしたっけ?」

「勘当と言っても当主が反対してただけで、他の家族とは今でも良好な関係を保ってる。それが余計に選択肢を奪ったんだろうな」

「新兵降格か認めることの出来ない者に仕えるか…」

「その結果、ここを去ったと?」

「あの年で精鋭だぞ?」

「それが新兵扱い…確かにありえないですね」

その言葉はため息交じりに吐き出された


「ダビアだってそうだ。あいつは元々王族よりも民を守りたいから騎士団に入った。団長まで上り詰めたのは、自分が最前線に立つことが出来るからだ」

「そんな男がクソみたいな王族の守りなんて受けるはずがない」

「…ほんと、何考えてるんですかね。上は」

精鋭の中でもトップクラスの2人を辞職に追い込んだ王族

そのうちの一人はこのご時世で歌姫を召喚した

さらには他国から責められても仕方がない扱いをしているのだ


この場にいる騎士たちがそれでも騎士団にいるのは、民を守るという使命を捨てられないからというだけの事だった

その民には当然、自分の家族も含まれる

騎士団にいれば高ランクの冒険者しか手に出来ないような武具を使うことも出来る

共に訓練をしている仲間と協力することも出来る

何より、万が一自分の身に何かあったとしても、多くはないとは言え遺族の生活が保障されるのだ

ハイリスクハイリターンの冒険者になるか

ローリスクローリターンで、家族の保証というオプション付きの騎士団を取るか

その2択から選択しただけに過ぎないのだ


団長はそれを理解しているからこそ頭を抱える

ここに王家に忠誠を誓う者は1割もいないだろう

王至上主義の国の王宮の騎士団でありながら、である


今のタイミングで王族の専属になるか新兵降格かを問われれば、7割以上の騎士が辞めることを選ぶだろう

それが騎士たちの本音だということを誰よりも理解していた

なぜならその騎士たちの中には団長自身も含まれているのだから


団長は懐から手紙を取り出した


“もう無理だと思ったらフジェに来い。騎士団の精鋭ならここでもやっていける”


たったそれだけが書かれた手紙はダビアから2週間ほど前に送られてきたものだ

妹が王付きのメイドになっている為簡単には動けない

でも最悪の事態に頼る場所があるのは有り難いものだと口元を緩ませた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ