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25.お駄賃の調達

開店して3日も経つと、慌ただしさにも体が慣れてきた

でも、予想以上のお客さんの数のおかげで、食材の調達が必要となってきた


ということで、カフェを閉めてから買い物に行くことにした

「ついでにお駄賃の調達しないとかな」

「あぁ、文字と数の練習帳だったか?」

「そうだよ。後はウーの本なんだけど…」

庭を見回すと小屋の側にいるウーを見つけた


「ウー!」

「何ー?」

「買い物行くけど一緒に行く?本、選びたいでしょう?」

「行く!」

ウーはジョンと少し言葉を交わしてからこっちに向かって走ってくる


「そんなに急がなくても大丈夫よ?」

「分かってるけど嬉しいからさ」

照れ臭そうに言うウーがかわいい


「ふふ…じゃぁ行こうか」

「相変わらずロキも一緒なんだ?」

「文句あるなら置いてくぞ」

「文句なんてないよ。相変わらず過保護だなって思っただけ」

ウーの言いたいこともよくわかる

でもロキが私の単独行動を良しとしないのはこの先も変わりそうにない


「オリビエ美人だし、カフェの事もあるからわからないでもないけどね」

「私が美人なら町は超美人で溢れ返ってるわよ。ねぇロキ」

「…」

同意を求めたはずなのに恨めしそうな顔をされた


「…苦労するねロキ」

「…ほっといてくれ」

ウーと2人ブツブツ言っているものの半分ほどしか聞こえてこない


「何か2人して酷くない?」

「そんなことないし。でもオリビエの自己評価がめちゃくちゃ低いことは分かった」

「え?」

「何でもない」

ウーは笑いながらそう言うと歩き出す


「何か私一人取り残された感じ?」

「んなことねぇよ。ほら行くぞ」

ロキに促され歩き出す


「そういえばオリビエって歌姫の事知ってるんだよね?」

「まぁ幼馴染だからね」

「歌姫ってどんな人?」

突然の問いかけにロキと顔を見合わせた


「どんなって?」

「ん~やっぱ歌上手いのかなって?」

「そうね。歌は上手いかな。子どもの頃からいろんな場所で歌ってたし、人から注目されるのを好んでたかな」

「注目?」

「そ。色んな人に見られるのも、話題の中心になるのも好きだったんじゃないかな。そういう時程生き生きしてたから」

ステージの上で満面の笑みを浮かべるイモーテルは、その辺の人とは何かが違っていた

性格的にはやや難ありな部分もあるものの、心底憎むとか嫌うなんてことはできなかったのも事実だ

何故か長い間、一方的に敵対心を持たれてはいたけれど


「僕も聞いてみたいなぁ」

「そうねぇ…いつか聞けるといいわね」

聞けると断言はできない

聞かせてあげると約束することも出来ない

ただその機会があればというだけの事


「オリビエは歌わないの?」

「私?」

「うん」

「そういや聞いたことないな。歌えんのか?」

「上手くはないけど多少は?」

カラオケくらいは行って点は出ていた

ちなみにカラオケは、地球という世界から召喚された人が広めた物らしい

私自身はカラオケに興味なかったし友達に誘われたときに行ったくらいで、イモーテルみたいに歌いたいと強く思うことも無かったんだけどね

「そのうち、機会があったらね」

「うん。それでもいいよ」

ウーは満足げに頷いた

はたしてその日が来るのかどうかは、私にもわからないけど…


先に食材の買い物を済ませてから本屋に向かうと、丁度店主が店の前を掃除しているところだった


「こんにちは」

「おや、今日は3人かい?」

店主は私達を見てそう尋ねて来た

何度か来てるものの、いつもならロキと2人なのを覚えていたらしい


「ええ。今日はこの子の本を探しに来ての。ウー、好きなの選んでおいで」

「本当に何でもいいの?」

「いいわよ」

「やった」

嬉々として本棚の間を抜けていくウーに苦笑する

ロキもめぼしいものを探しに店内をうろつき始めた


「そうだ、文字と数の練習帳なんて置いてたりする?」

「あぁ、あるよ。子供向けでいいのかい?」

「文字は7歳、数は5歳かな」

「それくらいの年なら…」

ブツブツ言いながら何冊かの冊子を並べてくれる


「こっちは10まで、これは100までで…こっちが1桁の計算に2桁の計算あたりかな」

「そうね。じゃぁこの100までのを1冊ね」

「はいよ。文字の方はこの辺りになるよ。絵本が読めるならこっち、読めないならこっちがおすすめだ」

「じゃぁこっちね。絵本は読めるみたいだから」

とりあえずコルザとロベリの分は決まった


「あとはあの子のが決るまで待ってね。その間私も物色してるわ」

「わかったよ。ゆっくり選んどくれ」

店主はそう言って笑う

店内に視線を巡らせるとロキの手には既に3冊の本があった


「せっかくだから料理の本でも見ようかしら」

それらしいものが集められている棚で物色を始めると果物の本が目についた


「果物か…ちょうどいいかも」

手に取ってみると図鑑と辞書が合わさったような本だった

写真と詳細、育て方、熟した時期の見極め方、食べ方などかなりの情報が載っている

これ、私の鑑定とどっちが詳しいのかしら?

一つ言えるのは鑑定は現物が存在しないと使えないけど、図鑑は現物を必要としないという違いがあるということ


「これはいいかも」

元の世界には無かった果物もあるから役立ちそうだ

気になった物を探すのも楽しめそうだしと、その本は棚に戻さず手に持ったままになる

他にもドリンクの本があったのでそれも買うことにした


「オリビエ決めたよ!」

ウーは1冊の本を抱えて寄ってきた


「冒険もの?」

「うん。こういうのワクワクする」

自分が実際に冒険するのは難しいけど本の中でなら楽しめるという


「じゃぁお会計してくるわ」

ウーから本を受け取り、自分が選んだ2冊と練習帳2冊を購入する

払い終えた頃合いでロキも自分の分を購入していた


「またどうぞ」

そう言う店主に見送られて店を出た

「はいウー、お店を手伝ってくれてありがとう」

「へへ…」

本を渡すと照れ臭そうに笑いながら大事そうに抱きしめる

これだけ喜んでくれたら私の方まで嬉しくなってくるから不思議だ


本は高級品ではないものの娯楽品の扱いである以上、子供のお小遣いでとなると少し厳しい価格帯になっている

必需品は大半の人が容易に手に取れる価格帯なので、商店街でもそこら中で見かけることが出来る

でも、いわゆる娯楽品、嗜好品と呼ばれる商品は特別なときに買うものという位置づけになっているため、各町に1店舗あるかないかというのが現状だ

だからウーにとって”自分の本”と言うのはかなり貴重なものなのかもしれない


「あれだけ喜ぶと与えがいがあるな」

ロキがボソッと呟いた


「冒険ものが好きみたいよ?」

「…覚えとくよ」

ロキは皆から少し距離を置いているように見えても、実際には驚くほど気にかけている

特に子供達のことは放っておけないらしい

きっとそのうち食堂の本棚に冒険ものの本が増えると思う


「さて、じゃぁ帰りましょうか」

「うん。僕先行くね」

ウーは早く読みたいからと走って行った


「ロキは何を買ったの?」

「俺?」

「5冊くらい持ってたでしょう?」

「ああ、迷宮品の図鑑とかだな」

「そんなのあるの?」

「結構古いからこないだ取ってきた果物とかは載ってないけどな。ただ…あのボールみたいなのがどれだけあるか分かんねぇし」

うん。それはちゃんと覚えといたほうがいいかもしれない


「適正価格は載ってないけど、レア度は書いてあるから多少参考にはなると思うぞ」

そう言いながら1冊取り出して渡してくれる

パラパラと中を見るとレア度が10段階で記されていた


「どの迷宮の何階でまでかは分かんないか」

「どんな魔物から出たかも含めて細かい情報は少ない。でもレア度高いのは情報料狙いのおかげか他よりは情報が載ってるだろ」

「本当だ。こないだのボールと牙は迷宮名まで載ってるね」

こういう本は見てると楽しい


「本棚に置いとけばダビア達も見るだろ」

「確かに。ダビアもマロニエも迷宮を気に入ってるみたいだもんね」

「あいつらは異常だからな」

「でもおかげで色んな肉や魚食べれるよね」

2人は迷宮や依頼を受けに行くと、必ず手に入れた肉や魚の一部を提供してくれるのだ

時々その日の夕食にとリクエストまでついて来るんだけどね

おかげでインベントリにはかなり豊富な種類の肉や魚が入っている


「最近食材に関する他の物も貰ってるだろ?」

「そうなの。すごく重宝してるよ」

調味料に類するものは期待に満ちた目で提供してくれる

その時には、どの迷宮の何階で入手したという情報ごと提供してくれる、というサービス付きだ

見返りはそれらを使用した料理という私にとっては有り難いものだったりする

どれだけダビア達が大食いと言っても、1回で消費できる量ではないんだけどね


「俺もそのおかげで楽しませてもらってるけどな」

「確かにそうだよね。2人が屋敷に住んでくれて本当に良かったわ」

子供達を安心して任せられるし、店で買えない食材も豊富に手に入る

カフェのメニューにも事欠かないので本当に大助かりだ


「こっち特有の食材で持て余してるのもいくつかあるんだけどね」

「カフェの客に聞いてみれば?」

「え?」

「元々こっちの物なら知ってる人もいるんじゃないか?別に知らなくても何かがあるわけじゃないし、聞くだけならタダだ」

「なるほど…その手があるか」

妙に納得してしまった

明日にでも常連さんに聞いてみようかと企みながら、気づいたら屋敷に着いていた


「ただいまー」

「「おかえり!!」」

コルザとロベリが飛びついてくる


「おっと…」

流石に2人の助走付きの勢いはきつかった

でもふらついた私をロキがしっかり支えてくれていた


「ありがとロキ」

「あぁ」

態勢を立て直したのを確認してからロキは先にサロンに向かった


「オリビエ見つかった?」

「あったわよ。文字の練習帳も数の練習帳も」

そう答えると2人は嬉しそうに飛び跳ねる


「サロンで出そうね」

「分かった!」

頷きながら2人は私の手を引っ張りながらサロンに向かう


「おかえりオリビエ」

「ウーが先に戻ってきて既にあの状態だ」

ジョンが呆れたように部屋の隅を見る

そこには床に寝転がって本を読むウーがいた


「早速読んでるのね?」

「今は話しかけても気付かないわよ」

「そんなに集中してるの?」

「そうなのよ。だからこの子たちが余計に落ち着かないみたいで…」

カメリアはコルザとロベリを見て苦笑しながらそう言った


「じゃあ2人にも早く渡さないとね」

そう言いながら練習帳を2冊取り出した


「はい2人ともお店のお手伝いしてくれてありがとう」

「「うん!!」」

2人に渡すと早速中を確認し出した


「オリビエありがとう!」

「ありがと!」

「ふふ…どういたしまして」

キラキラした笑顔で言われるとこっちも嬉しくなる

2人は早速、練習帳に夢中になっていた


「そういえばこっちで小さい子たちの学校って聞かないね?」

「こいつらくらいのってことか?」

ロキだけでなくカメリアも、ジョンもマロニエも首を傾げる

ダビエはまだ帰ってきていないものの、この場にいたら同じ反応をしそうだ


「学園は称号持ちしか通えない。それ以外は家庭教師を雇うくらいか」

「王都の方はそうなのね?この辺は教会で教えてもらえることもあるけど、今の神父さんはお年を召してるから大変みたいで…だから今は自分の家で親に教えてもらうくらいかしら?」

「そうなるだろうな。でも教えるほどわしらも学んできたわけじゃないからな」

ジョンが笑いながら言う


「じゃぁウーが文字を読めるのは?」

「嫁に学があったから小さい頃に教えてたんだよ」

「そうだったの…じゃぁウーにとって本は、お母さんとつながるものでもあるのかしら?」

「そうかもしれんな。尤もあの頃はまだ絵本や、それより少し文字の多い本くらいだったがな」

ウーの母親はウーが7歳の頃に亡くなったという

その後はジョンの手伝いをしながら暮らしてきたと言っていたから、自分で勉強していたのだろうか


「ウーの場合は商人に教えてもらってることもあるわよね?」

「ああ、隣国の商人にはこっちの言葉がわかる気さくな者が多いからな。ウーはよく可愛がってもらってる」

「隣国ってカクテュスのこと?」

「ああ。地形の関係でこの町で取引されることが多いんだ」

そう言われて地図を思い出す

確かこの町は険しい山越しに3方をカクテュスに囲まれていた


「山を迂回するにもかなりの距離と険しい道が続いてる。自然とこの町を経由するようになったらしいが、いつからか経由するくらいならとここで取引するようになった」

「気付いてみれば、この町はソンシティヴュの国に属していながら、カクテュスの方が身近な国になっちゃったのよね」

「どういうこと?」

「ソンシティヴュからは忘れられた町って言われてるのよ。スタンピードの時も援助どころか復興のための支援すらなし。この町が立ち直れたのはカクテュスのおかげなの」

カメリアの言葉にロキを見るとただ静かに頷いた

それは肯定を意味しているのだとわかる


「生活雑貨や日用品もカクテュスの物の方が多い。そう言う意味でもここはソンシティヴュなのかカクテュスなのかわからんな」

豪快に笑うジョンに唖然とする

でも、この町の人たちがたくましい理由が少しわかったような気がした


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