24.開店
とうとうオープンの日がやってきた
数日前から念の為にと、日持ちするスイーツを大量に用意してある
もっとも、インベントリの中にあるから日持ちも何もないんだけど
この日のランチメニューは、メインをオークの厚切りを使ったものにした
この町に伝わるしょうゆベースのタレを使った照り焼き、ハーブ入りのパン粉をまぶした香草焼き、そして迷宮で採れる岩塩を使った塩焼きの3種類
添えるのはサラダとトマト、別皿で野菜たっぷりのコンソメスープとトーストにした
トーストのバターはプレーンかガーリックの2種類から選べるように、テーブルの真ん中に適当な量を置いてある
選んでもらって、それに沿って提供するリソースを別のところに割きたいのよね
因みにこのバターも迷宮品だったりする
そのフロアで出た他のドロップはジャムだった
最初から全種類提供することも出来るけどあえてそうしなかった
毎日バターは固定、もう一種をガーリックバターと5種類あるジャムの中からランダムに提供する予定
順番を決めても良かったんだけど、決まった曜日にしか来れない人もいるだろうってことでやめたのだ
開店時間は11時
それまでに下準備とスイーツを用意する
「オリビエいっぱい並んでるよ」
ロベリが駆け込んできた
「どれくらいいた?」
「えーとねぇ…10が3回と4人」
ロベリはまだ10までしか数えられないのだ
「34人か…」
時計を見ると開店まであと5分
食事がメインなら待ち時間はかなりのものになる
「ロベリ、コルザを呼んできてくれる?2人にお手伝いをお願いしたいの」
「分かった!」
ロベリはまた走って行った
「どうする気だ?」
「予想以上に人が並んだ時の為に用意してたの」
そう言ってクッキーを2枚ラッピングしたものとチラシをテーブルに置いた
「チラシ?」
「うん。お店の紹介も兼ねてるの」
そこにはメニューが3種類、日替わりであること
スイーツはショーケースに入っているもののみで、メニューはないが400シア、500シア、600シアの3つの料金設定であること
3日前までに注文してもらえば希望のものを用意できること
スイーツとドリンクはテイクアウトも可能ということなどが書いてある
「これをあの子たちに配ってもらって、テイクアウト希望の人は別の列に並んでもらおうと思って」
「あぁ、なるほど…じゃぁダビア達に誘導頼んでくるよ。あいつら誘導や交通整理は慣れてるからな」
騎士団ではそういう仕事も多々あるらしい
「ありがと。助かる」
「オリビエお手伝いって?」
コルザとロベリが駆け込んできた
「今からこのチラシとクッキーを並んでる人に一つずつ配ってきて欲しいの」
「これを?わかった。行ってくる」
コルザがチラシを、ロベリがクッキーの入ったかごを持ってまた出て行った
先頭の人から順に渡していく姿はかなり可愛い
並んでいる人もどこか微笑ましそうに見ているのは気のせいじゃないと思う
ウーは落ち着くまで配膳を、カメリアはテイクアウトの対応を手伝ってくれる
ジョンは専用の機械でオークの厚切りを今朝から量産してくれている
ロキは有り難いことに全体を見てくれているようで大助かりだ
本来ならこれを一人でするべきなんだけどね
この屋敷にいる人は素晴らしい人たちばかりだと改めて思った
開店と同時に店内はすぐに埋まった
席が少ないためテーブル席は、間を繋いだうえで相席をお願いすることにしている
「本当においしいわ。香草焼きなんて初めてだけどクセになりそう」
カウンター席で食べていた女性がそう言ってくれる
「ありがとうございます。メニューは日替わりになってますので色々と試してみてくださいね」
「そうね。時々寄せてもらうわ」
彼女はスイーツまで堪能して帰っていった
「テイクアウト専用の列があってよかったわ。食事が終わるのを待つととんでもない時間になりそうだから」
「こいつの言うとおりだな。わしはコーヒーだけしか頼むつもりがないのに、どれだけ待つのかと冷や冷やしたわ」
老夫婦が笑いながらそう言っている
半分くらいがスイーツ狙いだったようで、コルザたちにチラシを配ってもらった後からランチ目当ての列は一気に減った
それでも店内で食べるのをテイクアウトに切り替えた人もいたようだ
ショーケースの中身は随時補充しているのにかなりのペースで減っていく
嬉しい悲鳴とはこういうことを言うのかしらね?
大量にストックしといてよかったわ
昼時が過ぎ、外の列がなくなると裏で食事を取ることにした
そのタイミングで色んな情報が出てきた
「意外とスイーツ目的も多いのね?」
「そりゃそうですよ。町にスイーツのお店なんてないんですから。あっても屋台で1軒だけ出てるだけです」
カメリアが言う
スイーツの店がないことに驚きである
しかも屋台の1軒のみとは…カフェを開いて正解だったのかもしれない
「スイーツがテイクアウトですぐに買えるならって、飯は今度にする人もいたな」
「逆もいたよ?テイクアウトするつもりだったけど、出てきた人が話してるのを聞いて食事の方に並び替える人もいたから」
「あら、コルザもしっかり見ててくれたのね?」
「へへ」
照れ臭そうに笑う姿がものすごく可愛い
「そうだ。コルザとロベリはお駄賃何がいい?」
「お駄賃?」
2人は何それと首を傾げる
「お手伝いしてくれてるお礼に好きなものを買ってあげるわ」
「オリビエそれは悪いわ…」
カメリアがすかさず止めに入る
「ダメよカメリア。これは私のお店の問題だからね。本当なら私一人でするところを手伝ってもらってるんだから、その報酬はちゃんと払わないと」
「…そういうことなら…」
私の性格が分かってきているのか、それ以上止めることはしなかった
だから好きなものを選んでいいのよと改めて言うと…
「…じゃぁ僕は文字の練習帳がいい」
「僕は数の練習帳!」
2人の言葉にカメリアと顔を見合わせた
まさかの学習道具に驚くしかない
「2人とも勉強がしたいの?」
「ん-とね、ウーが本読んでるでしょ?それ見てたら僕も自分で読みたいなって」
「兄ちゃんが100まで数えれたら、母さんが褒めてくれるって言ったから」
とても可愛らしい理由だった
「分かったわ。今日頑張ってくれたから練習帳買っておくわね」
「「うん」」
「オリビエ本当にいいの?」
「もちろん。さっきも言ったけど、この子たちがしたのはお店のお手伝いだし、その対価としても問題ないものだと思うしね」
それほど高額なものでもなく、この子たちの人生に役立つものでもある
「じゃぁ俺達にも何かあるのか?」
ダビアがからかうように尋ねて来た
「もちろん考えてるわよ。大人の皆さまには、元の世界のお酒を提供するっていうのでどうかしら?」
大人たちは皆酒が好きなのでこれで文句はないはず
だって元の世界のお酒なんてこっちでは絶対に入手できないから
「…そんなもんどうやって?」
「何かインベントリに入ってたものは、そのままになってるみたいなのよね。大半の荷物をインベントリに入れてたから結構な量が揃ってるわよ」
ロキの言葉にそう返すと乾いた笑いが返ってきた
「ウーはまだお酒飲めないから何がいいか希望を聞くわよ?」
「本当?じゃぁまた野菜の種が欲しい」
「野菜の種は迷宮で入手したら全部ウーに渡すつもりだしね…それ以外の希望はない?」
「ん…なら小説かな?」
「小説ね?じゃぁ今度一緒に買いに行こうか。その時に好きなのを選ぶっていうのはどう?」
「最高!」
ウーは嬉しそうに笑った
多分私やロキと同じくらいウーは本が好きなんだと思う
でも娯楽品は高いからウーくらいの年では、簡単に手が出せる物じゃないんだよね
「看板娘をしてくれたリラは何がいいかな~?」
「ぷりん!」
リラはそう言ってにっこり笑う
「リラ、プリンはいつでも食べれるわよ?」
「や、ぷりん!!」
今にも泣きそうなリラに、カメリアを見ると苦笑していた
この様子じゃ他のものは出てこないだろうなぁ…
「わかった。じゃぁリラのお駄賃はプリンね」
「うん!」
「…この子いつの間にこんなにプリンが好きになったのかしら?」
カメリアまでもが首を傾げる中、本人が満足しているならいいかと結論付ける
「すみませーん」
「はい、ただいま」
客席からの声に立ち上がる
「お待たせしました」
席に行くと食事を終えたところのようだ
「600シアのスイーツセットを3つお願いします」
「ドリンクは何になさいますか?」
「ホットコーヒー2つとレモンティー1つ」
「承知しました。スイーツはショーケースの青いタグのものからお選びください」
そう伝えると3人の女性が嬉しそうにショーケースに向かう
400シア、500シア、600シアの3つの料金設定をしたスイーツは3色のタグで値段を表している
ドリンクは単品なら350シア、食事かスイーツとセットなら200シアに割引になる
彼女たちの選んだスイーツとドリンクを準備しテーブルに運ぶと、少しずつシェアしながら食べていた
機会があればケーキバイキングみたいな事をするのもいいかもしれない
開店初日、14時ごろまでドタバタだったものの、閉店間際の16時にはテイクアウトが多かった
これが数日続いてその後は落ち着いていくだろう
まずまずの滑り出しに胸をなでおろした