22.果実を求めて
カフェの準備が進む中、私とロキは2つ目となる初級迷宮に来ていた
きっかけは昨夜のダビアの言葉だった
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「そうだオリビエ、コレって使い道あるか?」
ダビアがそう言いながら取り出したのは丸い物体だ
「何だこれ?」
「俺にもさっぱりだ」
首を傾げるロキにダビアがどや顔で返す
分からないのに威張るのもどうかと思うけど…
「東にある初級迷宮の戦利品なんだけどな」
「何だ、また迷宮に行ってたのか?」
「ああ。ギルドで知り合ったやつと即席パーティー組んでな」
ダビアはよく色んなパーティーに混ぜてもらって迷宮に潜っているらしい
それは騎士団にいた頃から変わらず続けていることだという
「これ…」
受け取った物体は私にとっては見慣れた果物だった
「知ってんのか?」
「ロキたちは知らないの?」
逆にそっちの方が不思議だった
「少なくとも見たことは無いな」
「俺も。一緒に行った奴らも知らないらしい。いつもギルドで売るけど用途が分かんねぇから大した金にはならないらしい。それはまぁ、初級迷宮のしかも浅層で出てるから納得なんだけどな」
「用途が分かんねぇって鑑定はどうした?」
「迷宮品に関しては用途が判明した物しか鑑定内容が表示されないんだと。俺も今日初めて知った」
「へぇ…」
ある意味驚きだ
でも私の鑑定にはちゃんと表示されてるんだけどね
「たしかにこっちの店では見たことないのよね…」
私はそう言いながらまな板と包丁を用意する
「ちょっと待て。それが出て来るってことは食い物なのか?」
ダビアが思わず立ち上がっている
それ、とは勿論まな板と包丁の事だ
「少なくとも見た目は元の世界の果物なんだよね。私の鑑定でもその名前が出てるし…味は実際に食べてみないと何とも言えないけど…」
これまでにいくつか、元の世界と見た目も名前も同じなのに、味は全くの別物と言う食材があったのだ
あれは違和感しかなかった
「そういやお前の鑑定は特殊なんだっけ」
食いつくのはそこなのねと苦笑しながら頷いて返す
「クロキュス、問題はそこじゃない。オリビエ、その見るからに怪しいのが本当に食えるモノなのか?」
「怪しい…?」
改めて果実を見る
黒と緑の縞模様---すいか---確かに怪しいのかしら?
私には見慣れたもので怪しさのかけらもないけど…これ切ったら赤か黄色よね?
それとも全く違う色になるのかしら?
そこまで考えて、それを見た2人の反応が楽しみになった
「ま、とりあえず切ってみましょう」
私は勢いよく包丁を入れた
「…は?」
断面を見た2人は呆然としている
外からは想像できない色
予想通りの反応にちょっと嬉しくなったのは内緒
「種なしなのね。有り難いわー」
サクサクと一口サイズに切っていく
「ん。いい甘み。味も想像通りだけど、こっちの方が美味しいかも」
甘みが凝縮されていて糖度が高いのが分かる
30センチ程が一般的なサイズだったけど目の前にあるのは10センチほど
リンゴサイズでこの濃さはスイーツには丁度いいかもしれない
「2人も食べてみて」
一口サイズに切ったのを皿に入れてフォークを添えた
「あぁ」
ためらうダビアを横目にロキはあっさり口に入れる
「お、美味い。やっぱオリビエが勧めたものでまずいものは無いな」
「その絶対的な信頼はどこから来るんだか…」
本当にその通りだと思う
「いいから食ってみろよ」
ロキに促されダビアは恐る恐る口に運んだ
「ん。これは…美味い」
「だろ?」
「あの見た目でこれは予想外だな…」
ダビアは次から次へと口に入れていく
どうやらお気に召したようだ
「ねぇ、ダビア」
「何?」
「そのフロアってこれだけだった?」
迷宮の仕様からしてフロアで1種しか出ないとは考えにくい
きっと他にも出たと思うんだよね
「いや。他にも気持ち悪い見た目のはあったぞ。金になんねぇから持ってきてねぇけど」
まぁそうなるよね
用途不明で買取価格も低くて、荷物になるだけなら私も持ち帰らないと思うし
「どんなやつだった?」
「あ~ヒビみたいに網目が入ったヤツとか、毛が生えた赤いのとかは見たな。あとは鱗みたいのがある赤いヤツ?まさかあれも食い物とか…?」
ダビアが思い出しながら口にする
網目…は多分あれかな?
でも赤で毛や鱗があるって何だろう…?
スイカと同様、こっちで見ていない果物を思い浮かべるものの、記憶の中の情報とヒットするものがない
「それって何階にあった?」
「3階だったと思うけど…お前まさか…」
ダビアが最後まで言う前に私は口にした
「ロキ、明日迷宮行こう」
私の中ではもう決定事項になっていた
ロキは当然のように頷き、ダビアは呆れたように笑っていた
*****
ということで、私たちは目的の3階に足を踏み入れていた
1階と2階も勿論大量のドロップをゲットしたけど、めぼしいものは特になかった
初級だから仕方ないけどね
「木型のモンスターか」
まぁ予想できなくは無かったけど、様々な巨木がうごめいている状況は異様という一言に尽きる
自分の背丈の倍くらいはある巨木
倒した時に1個と言わず複数落としてほしいくらいだわ
実際、迷宮の外にこの木が存在してれば大量にGet出来るはずだもの
もっとも、迷宮の外に存在してるかは分かんないけど
「ざっと見て5種類ってことは、ドロップも5種類はあると見ていいのかな?」
「だろうな。ダビアが言ってたのは持ち帰ったの含めて4種類だったけど」
普通、上級に位置する冒険者が浅層で大量の敵を倒して回るとは考えにくい
進むうえで邪魔なものを倒しただけと考えるのが妥当だろう
「とりあえず片っ端からいっちゃおう。ドロップ見ればわかることだしね」
私はそう言うなり魔法を放つ
勿論ロキも同様に片っ端から倒していく
必ず目的の物をドロップしてくれるわけじゃないからそれなりの数を倒して、それなりの量を確保した
「ロキ!」
「もういいのか?」
「うん。階段で確認しよ」
「了解」
私もロキも目先に迫っていたのを倒してドロップを確保すると階段に向かった
「とりあえず5種類」
階段に並んで座り、インベントリから取り出して並べてみる
全て直径10センチほどの大きさだった
「スイカにメロン、ランブータンにドラゴンフルーツ、それにキウイ。ダビアが言ってた赤いのが、ランブータンとドラゴンフルーツとは思わなかったわ」
「珍しいのか?」
「そうだねーそんなに一般的に食べてはいなかったと思うよ。メロンは網目って言ってたから何となく予想は出来てたのよね。それにこのサイズのキウイはびっくりだ」
「どっちの意味で?」
「大きいって方。1/8くらいの大きさだったから」
「なるほど」
ロキはただ頷いた
「で、これは全部美味いのか?」
「私は好きだよ。尤も同じ味ならだけど」
「あぁ…その問題があったか」
「世界の違いプラス迷宮マジックがあるからね~」
迷宮マジックというのは迷宮ならではの特異性を指している
前にゲットした花や野菜の種で言えば、成長が異常に早かったり、一般的な品種なのに花の色がやたらと豊富だったり、通常より大きな花や野菜が出来たりその逆だったり、味そのものが違ったりと驚く現象が頻繁に起こる
「そういえば調味料やスパイスでは迷宮マジック働かないんだよね。加工されてるからかな?」
「それはあるかもな。で、どうする?この先にも進むのか?」
「せっかくだし10階層まで行っちゃおっか。転移も使えるようになるし」
「…それが妥当か?」
低級は10階層ごとにボスがいる
そこをクリアすれば転移装置がある為次回そこから始めることが出来る
ロキと再び足を進めどんどん階を進めていくと…
「やーん素敵!」
7階層で出たのは巨大なカラフルな蜘蛛型の魔物
身体はグロテスクだけど、身体と同じ色の毛糸をドロップした
しかもかなり上質な毛糸だと思う
なんだろ、蜘蛛の出す糸から出来てるとかかな?
「お前こんなのどうする気だよ?」
大量の毛糸玉をホクホク顔で格納する私に驚いているらしい
「毛糸と言えばマフラーとかセーターを編むに決まってるじゃない」
「編む?あれって魔道具で作るもんじゃないのか?」
ロキが首を傾げている
「普通に編んで作るけど?」
時間がそれほどなかったためにマフラー一つ作るにもかなり日数がかかってたけど、今ならそれほどかからないだろう
「オリビエ、俺のも」
「ん?作る?」
「いいのか?」
「もちろん。マフラーでもセーターでも。でも上等なものは無理だよ?」
「…お前が作ってくれるならそれでいい」
うん。殺し文句が直球で飛んできたかも
「じゃ、じゃぁ毛糸一杯取って帰らないとね」
「…だな」
頷いたロキがさっきまでより気合を入れて倒してるように感じるのは気のせいだろうか?
結局大量の果物と毛糸をゲットして屋敷に戻った
その日のスイーツがその果物を使った試作品になり、カフェで提供することになったのは言うまでもない
そして3階で取れたのが果物だという情報に、それなりの値段が付いたことを私は後日知ることとなる