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21.開店準備

カフェを開くと決めてから準備は着々と進んだ

ジョンの知り合いのおかげで、通りからカフェを開くスペース付近まで散歩道のような空間が造られ、そのサイドには花畑が作られた

迷宮産の種は何故か成長が早いようで、咲くのも時間の問題らしい

咲いたら心地いい空間になるだろうことは明らかだった

今からその時が楽しみで仕方ない


食堂の一部を区切り、外から出入りできるように改装すると、一気に店らしさが出てきた

「いい感じだよね?」

「まぁ…いいんじゃねぇの?」

ロキはよくわからんと言う顔をするものの不満は無さそうだ


店内はカウンターを4席

4人用のテーブル席と2人用のテーブル席が1つずつとなっている

テーブル席は間を繋いで8人まで対応できるように作ってみた

壁は腰の高さより上をガラスにしたおかげで、店内がとても明るくなっていた


「外のは?」

「テイクアウトする人の待つ場所兼、テイクアウトしたのを食べる場所にしようと思って。店内で待たれると落ち着かないし、犬の散歩ついでに寄ってもらうことも出来るでしょう?」

日や雨がしのげる大きなパラソルを備えた、4人掛けのテーブル席を6つ用意したのはちょっとした気まぐれだったりする

その外側に花畑が広がっているから時期によっては外の方が気持ちいいかもしれない


「子どもが走り回っても大丈夫そうだな」

「でしょう?これはカメリアが教えてくれたのよ。子どもが騒ぐから店内には居づらいって」

「なるほどな…飽きるのも早いしテイクアウトにしてればすぐに持ち帰ることも出来る…か」

「そういうこと。外はこっちのサービスも必要ないから、席数はあっても手はかからないしね。後の問題はメニューだけかな」

いくつか案は出している

ここ数日はこの屋敷の住人みんなが試食係だ


「最初はそんなに種類がなくてもいいだろ」

「そうだよね。多くなると一人じゃきつくなるし…」

種類が多くなればそれだけ手がかかる


「毎日変えるのは?」

そう言ったのはマロニエだった


「毎日?」

「はい。騎士団の食堂はメニューは2種類しかないけど毎日変わってたので」

「日替わりメニュー!」

その手があったかと嬉しくなる


「ありがとうマロニエ。その手で行くわ」

「その手ってお前…即決過ぎだろ…」

ロキが呆れたようにため息をつくのにも気付かず私は考えをまとめていく


「メニューは3種類。この町独自のものと迷宮産の何かを使ったもの、そして私の元の世界のもの…なんてどう?メインだけ選べるようにして後は3種類とも同じにすれば作る方も楽だし」

「それは面白そうだな」

「俺もいいと思います。それなら客を選ばないし」

「スイーツはショーケースに並べているもののみにしようかなって思ってるの。気分次第でいつ何があるかは私にも分からないって感じ」

「それなら大量に作る必要もないってことか」

「バレた?」

「分かりやすすぎだろ」

ロキが呆れたように言う


「どういうことですか?」

マロニエは首を傾げながらそう尋ねて来た


「メニューに載せるとそれなりに数を用意する必要があるだろ?」

「まぁそうですね。メニューに載ってるのに品切れですって言われれば、正直いい気はしません」

よっぽど人気があるものならともかく、そうでなければそれが普通の反応だよね


「だろ?でもショーケースに並べてるものが全てってことになれば、たとえその商品が1つでも問題ないってことだ。極端に言えば俺らの夕食で出したのが残ればそれを回すことも出来るってこと」

「なるほど…俺らがいて夕食で残るとは思えませんけど、それなら作る方も気分的に楽ですね」

「ロキのたとえは極端すぎるけどね…」

流石に残り物とか提供しないし

どちらかと言えばカフェ用も含めて多めに作ると思う


「私としては在庫っていう点よりも、材料やデコレーションに制限がなくなるって意味合いの方が大きいかな」

「というと?」

「沢山材料を入手したけどメニューに載せるほどはない…とか?」

「あぁ、それは有り得るか。1日限定分しかないとか普通に出てきそうだし」

迷宮で材料調達するとそれは大いにあり得ることだ


「あとはメニューに載せるといつも同じデコレーションが必要だけど、ちょっとずつ変えることも出来るとかかな」

「ケーキの上にイチゴを乗せるかサクランボを乗せるかみたいな感じか?」

「そんな感じ。単に私が同じの沢山作るよりも、色んなのを作りたいってだけなんだけどね」

「そのおかげで俺らは色々食えるってことだな」

ロキがニヤリと笑う


「でも気に入ったのはまた食べたいって思いますよね?俺は気に入ったらひたすら同じの注文するタイプなんで」

「あぁ…それは…そうよね」

そういう人もかなりの割合でいる

3人しばらく黙ったまま考え込んでしまう


「何だ3人して黙り込んでどうした?」

「ジョン!お疲れ様」

私はジョンに席を用意する


「で、どうした?」

アイスコーヒーで喉を潤したジョンに再び尋ねられ、今までの経緯を説明する


「メインを3種類から選択するとはなかなか面白いことを考えるな。スイーツをメニューに載せないのも俺は賛成だ」

「問題は最後の部分。気に入ったのがあった場合…なのよね」

「そんなの簡単だろ?」

「「「え?」」」

3人そろってジョンを見る


「注文として受け付けりゃいい。2日前までにとか条件つけりゃ材料の問題もなかろう?希望の数が少なくても残りはショーケースに入れりゃいいだけの事だしな」

「そっか。それならお客さんの好みのスイーツも確実に用意できるってことね。ありがとうジョン!」

「ははは…庭師の仕事は基本的には注文ありきだからな。役に立てたならよかった」

ジョンは嬉しそうに笑った


「どうした?」

「え?」

「複雑そうな顔してる」

笑うジョンと対照的に、ロキが心配そうに見ていた


複雑そうな顔をしてるつもりは無かったのだけど…


「なんか嬉しくて。元の世界では全部自分でしなきゃって思ってたから…でもここではそうじゃないんだなって。みんなに助けて貰えることって幸せなことなんだなって…」

その感覚に慣れてないだけ

それが複雑な表情になるとは思わなかったけど


「それを始めたのはお前だよ」

ロキの手が私の髪をなで離れていく


「そうだな。俺を引き留めてくれたのはオリビエだ」

「俺達をここにと言ってくれたのもオリビエだよ」

ジョンの言葉にマロニエが続けた


「お前自身にそのつもりがなくてもここに人を集めたのはお前だ。助けてるんじゃなく助け合ってるんだってことだけは覚えとけ」

「助け合ってる…」

呟くようにロキの言葉を繰り返す

すごく暖かい言葉に感じるから不思議だ


「持ちつ持たれつですね。そういう意味でもここは居心地のいい場所だ」

マロニエは言いながらうんうんと頷いている


「ふふ…みんながそう言ってくれるならそう思うことにする。これからもよろしくね」

「「「こちらこそ」」」

その頷きにみんなで笑い出す


「ところでカフェはいつオープンの予定だ?知り合いが楽しみにしてる」

「本当に?改装も魔道具の搬入も終わったから来週くらいには始めようと思ってるんだけど…」

「じゃぁそう伝えとくよ。顔の広い奴だからいい宣伝になるだろ」

「それは助かるわ。正直どうやって広めようか迷ってたの」

こっちの世界の宣伝方法など分かるはずもなく、その効果も未知数だけに口コミは何より頼もしい


「ダビアにも言っとけ」

「何でダビア?」

「あれでも女に人気がある。勝手にギルドや花街で広げて来るだろ」

「ギルドは分かるけど、花街…出入りしてるのね」

突然飛び出したワードにちょっと思うところがある

花街は娼館の集まった場所のことだ

働いてるのは未亡人で生活が立ち行かなくなった人や、盗賊たちの被害にあった人が大半らしい


「あれが女断ちなんて到底無理だ。俺がいなけりゃ一番に狙われるのはオリビエだろうけど」

「確かに。オリビエはダビアのドストライクですからね」

マロニエの言葉に顔が引きつる

最初ダビアとロキをさん付けで呼んでいたマロニエは、いつの間にか呼び捨てするようになっていた


「安心して大丈夫ですよ。ダビアはクロキュスに勝てたためしがないですから。それにここでの暮らしが気に入ってるようなのでそれを捨てるようなことはしません」

「断言?」

「はい。ダビアは女好きだけどそれ以上に美味しいものに目がない。カフェがあったとしても、ここの食事つきの生活を手放すという選択肢は無いはず」

「だろうな。あいつほど単純な男も珍しい」

ロキがため息交じりに言う


「それにたとえ俺が出かけてても、お前に手出しさせるような真似はしない。相手がだれであってもな」

その言葉にドキッとする

普段はあまりそういう言葉を言わないだけに余計かもしれない


「…頼りにしてマス」

「何で片言なんだよ?」

「何となく?」

私たちのやり取りを見て、ジョンが微笑ましそうに見てるのは気のせいだと思いたい


この後、細かいインテリアや小物類の準備を進めていくことになった

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