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19.正妃(side:王宮)

「オナグル様、お時間のようです」

「わかった」

扉の外から掛けられたヴィオノの言葉にため息交じりに応える


「行ってしまうの?」

「その鳴き声を聞くためにまた来るさ」

そう答えながらイモーテルから離れ服を整える

時間がないからと自らの欲だけを解放したためイモーテルは消化不良でしかない

それでもオナグルはさっさと離宮を後にして王宮に戻った


「オナグル様にご挨拶申し上げます。ソラセナ・オーティ、オーティ家の長子にございます」

部屋に入るなり立ち上がった女は見れなくはない礼の形を取りそう言った


「よく来たな。まぁかけるといい」

ソファを進め自らも正面のソファに身を預ける


「そなたを正妃と迎えるにあたりいくつか条件がある。もちろんそれに同意なき場合この話は無効となる」

「条件、でございますか?」

「そうだ。まず俺が歌姫を囲うことに一切の口出しを禁じる。歌姫の元に通うことも含めてだ」

「…」

「2つ目、この結婚はオーティ家から是非にと言ってきたものだ。正直俺にとってのメリットはさほどない」

「な…」

ソラセナは顔をひきつらせた


「今、目の前にいるそなたを見て正直幻滅している。事前に学院からの紹介状はあったが裏で金が働いたのは明白。実際に会うまでは義務でもあるから正妃として大切に扱おうとは思ったが無理だと悟った」

「無礼な…何の証拠があってそんなことを?」

机を叩き立ち上がって叫ぶように言うソラセナを、オナグルは探る様に見ていた


「ほぅ…無礼?王族の俺に対して?」

「!」

鋭い目を向けられソラセナはまずいと言う顔をした


「それが普段のそなたということだろう?」

「それは…」

「ゴールドランクの称号を持つ家の者とは言え、そなた自身はただの一般人だ。それが王族に無礼と言えるとは…学園の『非常に優秀で品行方正な素晴らしい令嬢』がいかほどのものか…」

その言葉にソラセナの顔が赤く染まる


「俺も学園には通っていたが…そなたが非常に優秀であれば学園は非常に優秀以上の者で溢れ返っていた事だろう」

「な…」

「表情を崩す、大声を出す、机を叩くなど令嬢にあるまじき行為だ。今のまま王族として扱うなど自殺行為だな」

ソラセナは言葉を失った


「そこで2つ目の条件だ。もう決まったことである以上、対外的には正妃として迎える。だが、俺の用意した教師が合格という言葉を出すまで、そなたを正妃として扱うつもりはない。もちろんそれまで外部との連絡は一切許可しない」

「そんなの酷いわ!」

「酷い?『非常に優秀で品行方正な素晴らしい令嬢』なら何の問題もないだろう?」

「だからそれは…」

オナグルは口ごもるソラセナを一瞥した


「それほど難しい条件ではないだろう?正妃として、王族として、恥ずかしくない礼儀と教養を身につけろと言っているだけだ。教養に関しても、学園で優秀な成績を収めていたなら、1月も必要ない程度の内容を追加で覚えるにすぎん」

「…」

「この2つの条件が飲めないなら、この話は断らせてもらうがどうする?」

「そんなの…今更正妃になれませんでしたなんて言えるわけないじゃない…」

オナグルはその言葉にほくそ笑む

そのあたりは既に調査済みだ

ソラセナは正妃になると周りの者に言いふらし、祝いを請求していたことも知っている

その上でオナグルは自分にとって都合の良い要望を突き付けたのだ


「ではこの書類にサインを」

「…わかったわよ!サインくらいいくらでもするわ」

ソラセナはヤケクソのようにそう言いながらサインする

特に読みもせずにサインをする姿に、側近は呆れた目を向けオナグルはニヤリと笑う


その書類の最後にはこう書かれていた


++++++


上記の条件を破った場合、公式の行事以外で部屋から出ることを禁ずる

教師人の合格を得た後、王族の義務として子が出来るまでは月に1度閨を共にするが、子が2人できればその義務は果たされたとみなす

生まれた子とはオナグルの認めた者が同席しない限り会うことを禁ずる

万が一、半年以内に教師の合格が得れなかった場合、正妃は病気で伏していると発表し、側妃を娶るとともに公式の場には側妃と出席する

同時に正妃としての権限を全てはく奪の上幽閉の身とする

またその際、子が2人出来ていない場合、その義務は側妃に移譲される


++++++


名ばかりの正妃となるのかそれともただ落ちていくのか…

オナグルは自分にとって都合のいいその書類に自らもサインし側近に渡した

「それを複写した上で原本を父上に」

「承知しました」

側近の一人がそのまま部屋を出て行った


「ソラセナを正妃の部屋へ。教師には婚姻の義でソラセナが失態を犯す事の無いよう改めて申し付けろ」

「承知しました」

「ソラセナ、婚儀までは6日しかない。せめて婚儀で恥をかかない程度の礼節は身につけろ。そなたがやらかした場合恥をかくのは王族だけでなくそなたの一族もだということを忘れるな」

「…分かりました」

「あぁ、後…王宮のメイドや護衛にそなたの家と同じ扱いをすることは禁ずる」

「どういう…意味でしょうか?」

「オーティ家の使用人は随分入れ替わりが激しいらしい。一部の者は暴力により日常生活さえ不自由する体にされていると報告があった」

それは少し前に上がってきた報告の内容だった

身体が不自由になる、精神を病む

そんなことが頻繁に起こるなど異常でしかない


「そなたから彼らへの暴力や暴言は、王族に対するそれと同等の罰を与える」

「同等の罰…」

「軽くて鞭打ち、重ければ処刑。正妃となった者を下らん理由で処刑することにならなければよいがな」

オナグルはそう言ってソラセナを置いて部屋を出た


実際に目にし、こちらの調べた情報に誤りがあるのなら、それなりの敬意を持ち、王に言ったように接するつもりではあったのだ

でも会った瞬間から、王族を前に聞かれてもいないのに自ら名乗るという失態を犯した

それはこの国では不敬に当たると子供でも知っていることで、いずれ国母となる正妃が犯して許される失態ではない

その瞬間、調べたことが事実だった場合を想定した書類が日の目を見ることになったのだ


「お前あの貧相な体に欲情できるか?」

「は?」

想定外の質問に側近は唖然とした


「あの胸、詰め物で持ち上げてるだけの作りものだ。左右の位置がおかしい」

「それは…」

「さらにくびれのない体。子をなすためとはいえあの体を相手にせねばならんとは…」

側近はある種の覚悟をせざるを得なかった

オナグルの機嫌は側近へのパワハラとモラハラに大きく影響している

そしてソラセナは日を追うごとに王宮で醜態をさらすことになる


ソラセナが来て3日目

既にその我儘と騒がしさは誰もが知るところとなっていた

「警護は決まったのか?」

「中庭に呼び出しています。最終判断はオナグル様に任せるとのことです」

「では向かおう」

オナグルは中庭に向かって歩き出す

そこには10名の騎士が集まっていた


「この中から3名を選べとの事です」

書類を受け取ると目の前の本人と見比べていく


「そうだな…剣技を持つダビア、守護を持つマロニエ、剛盾のハンソン。以上3名に正妃の警護を申し付ける」

正妃の警護と言われその場がざわついた


「恐れながら申し上げます」

「何だ?」

「お断りした場合はどうなりますか?」

そう尋ねたのはダビアだった


「王族の命を断るという事態を考えれば…新兵まで降格…辺りが妥当か」

「…承知しました。では本日を以って辞めさせていただきます」

「騎士団をか?」

「はい」

即答するダビアをオナグルは哀れなものでも見るように眺めた


「団長という地位を捨てるか?正妃の警護という誉と共に…まぁいい。嫌々警護したところで何かあったらたまらん。他はどうだ?」

「恐れながら私も辞めさせていただきます」

続いたのはマロニエだった

その後は静まり返っている


「そなたは良いのか?」

「はい。誠心誠意努めさせていただきます」

ハンソンは跪き頭を垂れた


「ダビアとマロニエは本日の業務終了を持って雇用契約を解除する。本日は引継ぎと片付けも忘れるな」

「「承知しました」」

「2人にはもう用はない。行け」

「「失礼いたします」」

2人は簡易の礼の形を取るとそのまま中庭を後にした



「お前までよかったのか?」

「あの女に付くなんてありえません。それに新兵に降格されるくらいなら辞めます」

「正妃をあの女呼ばわりか?」

「俺はあの女の本性を知ってますからね。学園ではずっと同じクラスでしたから。守る価値のない人間だと断言します」

一見穏やかな青年に見えるマロニエから飛び出す言葉にダビアは苦笑する


「なるほど…で、これからどうする気だ?」

「まだ何も。団長はどうされるんです?」

「クロキュスに馬車を届けてそのまま辺境に留まろうと思ってるよ。迷宮が豊富にあるし食うには困らないだろう」

「辺境、ですか…いい宿屋があれば選択肢としては有りですね」

マロニエは社交辞令ではなく本心でそう言っているようだ


「お前も行くか?行くなら同行者枠に入れてやるぞ。まだ団長権限があるからな」

「…ではお願いします。団長と冒険者するのも楽しそうですから」

「ならすべきことだけ先に済ませて王都を出るか。荷物は大丈夫なのか?」

「団長と同じで物は持たない主義です。必要なものはマジックバッグに入ってますよ」

騎士団という仕事柄決定した後の行動は早い

団長の引継ぎも普段から遠征時に副団長が代理をしていたためさほど時間を要しなかった

全て済ますと2人はとっとと馬車に乗り込み出発するのだった

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