1.突然の召喚
先日20歳の誕生日を迎えた私、オリビエ・グラヨールは仕事帰りに突然
次元ホールに、落ちた
そして気付いたら見知らぬ世界にいたというベタな展開
私の住んでいた世界『ミルトゥ』は次元の狭間にあるらしく、実際に目の前で人が消えたり、現れたり、いなくなった人が突然戻ってきたりするのは、特に珍しい話ではなかった
結構身近にも異世界から来た人はいたし、その人たちから色んな情報を聞くのは私の楽しみの一つでもあった
ただ、これといって何のとりえもない、その他大勢の一般人でしかなかった私がその対象になるとは思わなかっただけだ
「おぉ…とうとう召喚が成功したぞ!」
周りから声が聞こえるものの闇の中から出たばかりで視界がおかしい
「な…なぜ2人もいるのだ?!」
戸惑った声が広がる中少しずつ周りが見えてくる
「…なんであんたまでいんのよ?」
真横から聞きなれた声がした
「…イモーテル?」
彼女は幼なじみで何故か昔から敵意を持たれている
事態が呑み込めない中、私たちを召喚した人達が近寄ってくる
「我々が求めていたのは歌姫だ。貴方達のステータスを確認させて頂きたい。『オープン』と唱えてもらうだけで表示されるはずなのだが…」
「ステータス?構わないけど…」
イモーテルはオープンと唱え、周りに見えるように表示する
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イモーテル・オンシュザ(20)
【基本特性】
体力:35
魔力:20
知力:5
適応力:20
【スキル】
歌姫:50
世界言語:50
称号:召喚されし者
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「数字は標準的だが歌姫のスキルをお持ちのようだ」
「どれくらいが標準?」
イモーテルが訊ねた
「この世界では16歳で成人とみなされるのだが…成人の際の基本特性の標準値は30とされています。50が最高値ですが召喚された方のスキルは一様に最高値となるようです」
イモーテルの言葉にそばに控えていた若い男性が答えた
「あなたはいかがかな?」
代表格の男が私に尋ねてきたため、私はひとまず自分のステータスを確認してみる
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オリビエ・グラヨール(20)
本名:オリビエ・グラヨール・ラ・ミルトゥ
【基本特性】
体力:95
魔力:90
知力:95
適応力:90
【魔法属性】
火:85
風:90
闇:90
【スキル】
覇王:90
統率:50
世界言語:50
インベントリ:90
鑑定:90
隠蔽:90
【称号】
召喚されし者
ミルトゥのカギ
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なんかすごいの出たかも…
自分のステータスを見ながら考える
うん。これ絶対ダメなやつ
オープンしない方がいいかな?
っていうか隠蔽すべき?
スキルあるからできるよね?
でも今操作するのは…まずいか
目の前の男がじれったそうに見てるのを確認して操作するのは諦める
それにしても…本名って私自身も知らなかったんだけど?
『ラ・ミルトゥ』って何?
何で私、元の世界の名前背負ってんの?
今までそんな話聞いたことないんだけど…
それにミルトゥのカギって何?!
元の世界で鑑定してもそんなの全然表示されてなかったはず…
…と、突っ込みたいところばかりだけど、注目されてるからスルーは無理よね?
開示するのは論外として、とりあえず質問には答えるべきかな?
「…私にはそのスキルはありません」
「なるほど。ではどうしたものか…」
ブツブツとつぶやきながら首をひねっているのを見て嫌な流れだなと思う
勝手に召還したにもかかわらず、不要な人間を切り捨てる世界や国は掃いて捨てるほどある
とんでもなく失礼で理不尽な話だけど、それが私たちの中の常識だ
そんなことが頭をよぎったものの、今の私にこの場で何かをするなんて無理だよね
召還できるだけの力を持った人間がこの場にいるってことは、下手な動きをすれば命が危ない
ただでさえ望まれたスキルを持ってない
これ以上のマイナス要因を増やすべきじゃない
それにしても…と、ステータスを再び見て頭の上にクエスチョンマークがいっぱい並ぶ
50が最高値と言われるステータスで、なぜそれ以上の数値が表示されるのか
どうみてもチートの部類…だよね?
数値を見る限り元の世界のスキルが影響しているように見えるものの確信が持てない
可能性があるとすれば元の世界で冒険者登録をしていたか否かが影響しているということ
そんな話を聞いたこともあるしね
私は高ランク冒険者として活動していた
そのステータスとこの世界の最大値50を足せば辻褄の合う数値にならなくもない
でもイモーテルも以前登録すると言っていたはずだけど、それにしてはイモーテルの知性の低さが異常すぎる
だとすれば登録するつもりが何らかの理由でできなかったということだろうか?
何にしてもこのことを知られたらどう転ぶかは定かじゃない
命の危機は無くなるかもしれないけど、自由は完全に絶たれるはず
最悪飼い殺しとかかな
どにかくどう転んだとしても、いい方向には進まないだろうことは確かだ
目の前で自分の先行きが相談される中私は一人そんなことを考えていた