14.迷宮
私がこの世界に召喚されてから1週間が経った
ジョン達もカメリア達も屋敷での生活に慣れてきたようで、みんな生き生きとしている
子供達は来た当初の興奮がようやく落ち着いてきたようだった
「と、言うことで資金調達に行こうと思うんだけど」
「…相場調べも兼ねてか?」
「だめ?」
「んなわけないだろ」
ロキは呆れたように言う
「で、依頼?それとも迷宮か?」
「迷宮に行きたいかな。本で調べたんだけど、迷宮で出るものにも興味があるんだよね」
「了解。けど迷宮なら日帰りは無理だぞ?」
「大丈夫。料理の作り置きは万全だし、食材なくなったら買い出しするようにカメリアにお金預けとくから」
それは昨日の晩に済ませてある
迷宮に行くことは少し心配されたものの、ロキが同行すると言えば”それなら”と同意してくれた
”私だからではなく1人でというのは賛成できない”と真剣な顔で言ってきたところを見ると、この世界でソロで活動するのはイレギュラーなのかもしれない
「相変わらず抜け目ねぇな…じゃぁすぐ行くのか?」
「行ける?」
「俺は基本暇だからな」
ロキの言葉に私はジョンとカメリアに迷宮に行くことを伝えた
「大丈夫なのか?」
「一応Aランクだけど?それにロキはSランクだし」
「まぁロキがついてるならなぁ…」
ジョンはそれでも心配そうだ
その横でカメリアが苦笑してるのは昨日の自分を思い出しての事かな?
「心配しなくても無理はさせない」
「絶対だぞ?」
「ああ。お前らも無理すんなよ」
ロキはからかうように言う
「カメリア、昨日も言ったけど作り置きのおかずは温めて食べてね。足りなかったらカメリアに用意してもらうか、みんなで屋台に行くかしてね」
「分かってる。その分のお金も預かってるし、こっちの事は心配しないで」
皆の食事はカメリアに任せてしまって申し訳ないけど、元々主婦だし問題ないわよと苦笑交じりに言われた
確かにその通りだよね
一通り話を終えてから皆に見送られて私たちは迷宮に向かった
「とりあえず一番近くでいいんだろ?」
「うん。初級だし腕試しには丁度いいでしょう?」
「まぁな」
2人並んで歩きながら軽口をたたくのが心地いい
向かってる途中でも数種類の魔物に遭遇し、適当に倒して素材だけを回収する
「魔物の強さは似たようなものかな」
肉を解体しながら言うとロキは複雑そうな表情をしていた
「どうかした?」
「いや、料理できるから予想はしてたけど解体の腕良すぎ」
「えー?血や内臓見て悲鳴上げる方がよかった?」
「んなわけないだろ」
呆れたように言いながら不要なものを土に埋める
「うわぁ…こっちの迷宮は上に上がっていくんだ?」
「向こうは?」
「地下に潜っていく」
「真逆だな」
そんな違いが何故か面白い
低層はいわゆる雑魚だらけだった
「あっけないな」
「あはは。相手のランクが低すぎるもんね」
「それでも倒す物好きがここにいるけどな」
「そこはほら、ドロップアイテム狙いということで」
どんなものが出るのか興味本位で片っ端から倒している
それでも普通に歩くペースで進んではいるんだけどね
歩きながら倒しドロップアイテムは風魔法でかき集める
「まさか風魔法をそんな使い方するとはな…」
「知り合いには魔力の無駄遣いって言われてたけど、慣れるとやめられないんだよね。これくらいなら大した魔力消費でもないからよけいかな」
「そう考えると俺も風欲しくなるな。水では流れていくだけだからなぁ…」
「もしくは水浸し?」
「そうなるな…っとそれレアだな」
「これ?」
手にしたものをまじまじと眺める
どこにでもありそうな魔石と思っていたもののよく見ると何か違う
「それ、2属性設定できる魔石だ」
「変わった物があるのね?初めて聞いたわ」
ついでに鑑定してみるとこの世界独自のものらしい
「売らずにとってた方がいいかもな。屋敷の改装の時なんかに重宝する」
「なるほど…」
「めったに出回らないからいざ探そうと思うと時間も金もかかる」
「…置いとくわ」
頷きインベントリに格納する
本当にロキといると助かるわなんて思いながら進んでいく
「ボス、俺が倒してもいいか?」
「いいよ」
ロキの動きを見れるならその方がいいかもしれない
と思ったものの一瞬で終わってしまい関係なかった
「…何かつまんない」
「は?」
「ロキの動きが見れると思ったのに1太刀で終わりとか…」
「もっと上に行きゃ多少は見れんじゃねぇの?」
ロキは笑いながら進んでいく
なんだかんだ言いながらも30階くらいまでは散歩程度ですんなり上がってしまった
「ちょっと休憩しよ。お腹すいちゃった」
ボスを倒してそのまま座り込む
「疲れたじゃなく腹減った?」
呆れたように言うロキに笑って誤魔化す
実際たいして疲れてはいない
「ロキは食べない?」
「食う」
即答したのを見て笑ってしまう
ロキとのこんなやり取りはかなり気に入っている
「今日はここまでかな?」
時計を見るともう夜の8時を回っていた
「そうだな。ここで寝て朝から再開ってとこか」
「何か久々に動くと気持ちいいかも」
「屋敷の中の動きと違って全身だからな」
「だねー。私もロキと一緒に毎朝鍛錬しようかなぁ…」
そう言った途端ロキが固まった
「ん?」
「…知ってたのか?」
「うん。気配には敏感なの。毎朝庭に出てやってるでしょ?」
そう答えると何故か唸り出す
「ロキ?」
「…まさか見られてるとは思ってなかった」
心なしかその耳が赤いような気がする
ひょっとして照れてるのだろうか…?
でも突っ込むと大変なことになりそうなのでやめておく
「そういえばウーが身体鍛えたいって言ってたよ」
「ウーが?」
「そ。何かね、ジョンに体力負けるのが悔しいみたい」
「ぶっ…」
「ちょっと吹き出さないでよ…」
「悪い」
ロキは謝りながら飛ばしたものを生活魔法で綺麗にする
「あいつまだ10才だろ?流石に庭師続けてる親父には勝てないって」
「そうなんだけどね。まぁ鍛えること自体は悪い事じゃないし」
「…ま、気が向いたら見てやるよ」
言いたいことを察してくれたようだ
そんな話をしばらくしていると、私は気づかないうちにうとうとしていたらしい
「…ぃ…おい」
「ん…?」
「寝るならちゃんと準備して寝ろ」
「ん…」
そんな成立したようなしていないような会話がなされていた記憶すらない