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128.受け継がれた歌

イモーテルを加えた私たちは再び迷宮に戻った

「戻ったか…」

ギルマスがホッとしたように言う


「どうなってる?」

「今のところ大きな変化はない。入り口付近にBランクのパーティーの一部を配置して魔物が出てこないようにはしているがな」

それで皆が落ち着いているところを見る限り本当に大きな動きは無いのだろう


「俺達が盾になる」

ダビアがそう言うとマロニエ達がイモーテルを囲むように陣取った

その前を私とロキが歩く

向かってくる魔物を倒しながら目指すのは1階層の中央、みんなの待っている場所だ


「思ったより早かったな?」

こっちに気付いた騎士が安堵の表情を浮かべた


「王が動いてくれたからな。オリビエ、ここからはお前任せになるけど…」

「うん」

私は頷いてからイモーテルを見た


「私はいつでも大丈夫よ」

「イモーテルの度胸を心強いと思う日が来るなんてね…」

「それはお互い様でしょ」

苦笑交じりに言葉を交わす


「これから私たちは歌を歌うから無防備になってしまうの」

「気にしなくていい。俺達がこのまま盾になる」

ロキが言うと周りの皆も頷いてくれた

入ってきた時同様私とイモーテルの周りをロキたち5人が囲むように立つ

その周りを冒険者と騎士が2層で囲んだ


「おそらく途中から高ランクが出て来るだろう。Bランクは入り口付近で取りこぼしを確実に仕留めてくれ」

「まかせろ」

「俺達の意地を見せてやる」

そう言いながらも捨て身の表情をしてる人はいない


それを見てイモーテルと私は大きく息を吸い込んだ

流れるのは懐かしい歌

自分でもよく覚えていたものだと思う

それでもところどころ歌詞があいまいな場所があるんだけど…

その度にイモーテルのリードで救われる


『穴、塞ぐ、嫌う』

『カギ、亡ぼせ』

『声、もっと』

おびただしい魔物たちが私達に向かってやってくる

中には救いを求める様に懇願しながらやってくる魔物もいる

それらを皆がひたすら倒し続けてくれる


『憎きカギは亡ぼす』

「…っ来るぞ!」

これまでと違う明確な言葉と共に現れたのは龍に分類される魔物だった

その後からかなりランクの高い魔物が続いて現れる


「マジかよ…」

入り口付近から絶望をにじませた声が聞こえる


「自信のないヤツはすぐに外に出ろ!」

「中途半端な奴は邪魔になるだけだ!」

騎士も冒険者も関係ない

この状況で仲間を庇う余裕などないと暗に伝える

私は歌いながらひたすら考えた

一部の魔物は戦意を失い迷宮の奥に戻って行った

でもこの目の前の魔物がそうなるとは到底思えない


どうすればいい?

どこかにヒントがあったはずなのに…

焦りが滲み声が震える

そんな私の肩をイモーテルが支えてくれた

その目は“あなたならできるでしょ?”と言っているように見えた


「オリビエ落ち着け。お前は一人じゃないから」

「そうだぞ。俺達も町の皆もいる」

ロキとダビアがそう言って笑いかけてくれる

私達を守りながら対峙するのは思う以上に大変なはずなのに…

申し訳なく思いながら必死に考えた


何かあるはず

そう思いながら、だとすればどこに突破口があるのかと考える

この世界に来て手に入れたもの

ミルトゥのカギという称号、ラ・ミルトゥと言う名…

統率は何となくわかったけど元から持っていながら謎のままのスキル

「覇王…」


覇王は徳によらず武力や策略で諸侯を従えて天下を治める人のこと

ロキたちの力を武力としてもそれで解決することはきっとできない

この場で使えるのは私の声と歌

策略と呼べるかは疑問だけど、それでこの迷宮内を統べることができたとしたら…?

そもそもスキルの名前なんてアバウトなものが多いんだもの

明確な解があるとも思えない


「そうよ…歌…」

声だけなら歌でなくてもいいはずなのだ

実際一部の魔物は声だけで癒されると言っていた

でも歌えと伝えられてきた

ならばその歌に何かあるはず…


私は歌いながら初めて歌詞を読み解こうとした

中々覚えられず、すぐに間違う私に母は何度も言っていた

歌詞の意味を理解すれば間違うはずなんてないのにと

何としても覚えさそうとしたのには理由があるはずだとようやく気付いたからだ


『さらなる悲劇を生まぬためにこの歌をささげる』

『理解を示すものには救いが訪れるだろう』

『神に歪められしものを、あるべきすがたにもどせ』

『逆らえぬ弱き者を救うために歌う』


歌詞の一節一節を少しずつ読み解いていくとそんな感じの言葉が並んでいた

あぁ、この歌はこんな歌だったのかと初めて理解する

「だからイモーテルは鎮魂歌といったのね」

イモーテルのおかげで正しく読み解けた歌はまさしく鎮魂歌だった

母の言った通り、歌詞を理解すれば間違えようもないものでもあった


「くそっ…!」

何人かが既に傷を負い倒れこんでいた

命は有るものの重症の者もいる

もう時間は残されていない

この龍種を押さえられなければそれに従う魔物が共に迷宮から飛び出してしまう

でも防戦し続ける事さえ支障が出て来てる

倒すなんてとても無理なことだと誰もが理解していた


「お願い…」

私は生まれて初めて歌に心を乗せた


「え…?」

最初に気付いたのはイモーテルだった

そのとまどいの声に続くように周りの者だけでなく魔物まで動きを止めていく

私は目の前の魔物も含めてこの町を、世界を守りたい

その想いを込めて歌い切った




『…我はそなたに従おう』

全てが動きを止めた静寂を破ったのは龍種の魔物だった


『穴は塞がった。もう神が手を出すことは出来ない。我らへの強制力はそなたの歌が立ち切った。そなたは何を望む?』

穴が塞がった…?

その言葉に私たちは本当にミルトゥとは切り離されたのだと理解する

でも不思議と穏やかな気持ちでそれを受け容れていた


「私は…穏やかな日常を過ごしたい。迷宮は迷宮として存在して、私たちはこれまで通りの日々を送りたい。スタンピードで大切な人を無くすなんてこともあって欲しくない」

『従おう』

「え…?」

『我は迷宮核として最深層に戻る。数日で他の魔物も元の層に戻るだろう』

迷宮核?あの龍種が?

この人数で防戦もままならないのに踏破できる人いる?

何故か遠ざかっていく意識の中で、私そんな的外れなことを考えていた

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