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127.イモーテルとの再会

「モーヴに来るように伝えてくれ」

迷宮を出るなりロキはダビア達にわからないようにシャドウに伝えた

モーヴに頼むということは転移するつもりなのだろう

確かに私たちが馬で行くよりも来てもらう方が早い


「おいクロキュス?」

迷宮を出て人気のない場所で立ち止まったロキにダビア達が戸惑った

今は少しでも早くイモーテルを迎えに行き、戻ってこなければならない

それなのになぜ?

彼らの目はそう訴えている


「カクテュスの王を呼んだ」

「は?」

「王は転移の魔術が得意だ。ここからイモーテルのいる町に飛ばしてもらう」

ロキの言葉に平然としていたのは私とシュロだけだった

ダビアとマロニエ、フロックスは呆然としている


「王に転移で飛ばしてもらう…」

「あの王に…」

ダビアの言う“あの”が何を指すのかは分からないけど突っ込まない方がいいわよね…


「ここから馬で行って帰って来るにはイモーテルのいる町は遠すぎる」

「確かにそれはそうだけどな…でも王を呼ぶのもそんなすぐにできる事なのか」

「ああ。王程の魔力はないが自分一人なら転移できる者が付いてるからな」

「付いてる…?」

そりゃ驚くわよね

姿を見せることのないシャドウの存在なんてそうそう気付けるものじゃない


「ほら、俺達は一応継承権を放棄してると言っても王族だからな」

「王族…まさか…」

「そのまさかだな。俺達には護衛が付いてる。もっとも簡単に姿を見られるような者じゃないけどな」

そう言われても信じられないと、その目が言っていた


「一応、応援要請があれば動けるように王都のギルドでも準備してるんだ」

「は?」

「今のところ問題なさそうだから待機してもらってる。騒動になれば余計に不安をあおりかねないからな」

スタンピードが起こったとしてもすぐにフジェが襲われるわけじゃない

まだ起こってないスタンピードでみんなを不安にさせたくないというのが大きな理由だ

念のために魔術師団の一部が合同演習という形ですでにフジェに入っていたりするんだけどね


「「「「「「!」」」」」」

5分程して大きな魔力を感じたと思ったらモーヴが立っていた

咄嗟に警戒態勢を取ったダビアとフロックス、マロニエには感心してしまう

私たちは覚えのある魔力だったせいもあるけど全く何の警戒もしていなかったから…


「久しぶりだな。クロキュス」

「ああ。突然呼び出してすまない。でも、挨拶は全て終わってからで頼む」

「そうだな。今は時が惜しい。ここにいる6人でいいんだな?」

既にシャドウから事情を聞いているだろうモーブは嫌な顔一つせずそう尋ねた


「ああ。頼む」

ロキが答えた次の瞬間、私たちは違う場所にいた


「これが転移…」

「迷宮の転移陣とさほど変わらないな?」

フロックスとダビアが対照的な表情をしていた


「あれは転移の仕組みが分かるかわからないかの差だな」

ロキが呆れたように言う

その間にモーヴが門番に自ら話を付けてくれたおかげですんなり町に入る事が出来た


「オリビエ、行ってくるといい」

「はい」

モーブの言葉に頷いて、教えてもらったイモーテルの家に向かった


「久しぶりじゃない、オリビエ」

イモーテルはベッドの上にいた

その側には3人の男がいる

夫以外の男が家に入る事は禁じられているということでロキたちは家の前で待機だ


「久しぶりね。あなたがこの町に無事着いたと聞いたときはホッとしたわ」

「あら、知ってたの?」

「ええ。ソンシティヴュから逃走したと聞いたときに、カクテュスの王を通じてこの町への受け入れをお願いしたの」

「オリビエが?」

イモーテルは驚いた顔をした


「そういえば領主がそんなことを言ってた気がするわ。私が来たら受け入れを頼むって言われてたとか何とか…」

ぼそぼそとつぶやいている


「で、突然やって来て何の用?」

「イモーテルにお願いがあって」

私がそう言うとイモーテルは目を見開いた


「私に?オリビエが?」

「そんなに驚かなくてもいいんじゃない?」

「いや、驚くでしょ。オリビエが私に頼みごとなんてこれまで一度もなかったじゃない。だから余計に…」

イモーテルはブツブツと言いながら顔を反らした


「余計になに?」

「…何でもないわ。で、その頼み事って何?」

開き直ったように尋ねられ、私は少し戸惑いながらも口を開いた


「イモーテル、私の母が教えてくれた歌を覚えてる?」

「おばさんが教えてくれた歌?あぁ、あの綺麗な鎮魂歌ね。勿論よ」

即答されてほっとする


「その歌を、最近出現した迷宮で私と歌って欲しいの」

「は…?」

予想通りというべきか、イモーテルは呆れたような声を上げた


「あんた何言ってる?妻を迷宮に等…許せるはずがないだろう?!」

「そうだ!迷宮なんて何が起こるか…」

男たちがイモーテルの前に立った

イモーテルが愛されているのだと伝わってくる


「イモーテルの身は絶対に守るわ。だからお願い。彼らを、町を…救うのを手伝って」

かつてイモーテルにこんな風に向き合ったことがあっただろうか

いつも適当に躱してやり過ごしてたように思う


「…いいわ。おばさんにも頼まれてたしね」

「え…?」

「昔何度も言われたの。オリビエが一緒にこの歌を歌ってと頼むことがあれば一緒に歌ってやってくれって」

「お母さんが…?」

「ええ。オリビエはよく歌詞を忘れるからお願いねって」

「…」

そうでした

確かに私は歌詞を覚えるのは苦手だ

あの頃も何度も間違えてたものね


「それに、私が歌うことで誰かが救われるってことなんでしょう?」

「ええ、その通りよ」

「私は歌姫よ。歌うことで誰かを救えるのなら歌うわ」

「イモーテル…」

強い意志を伴った言葉に私はこれまでイモーテルに持ってたイメージを恥じた

確かにほめられない部分は多い

でも、歌に関してだけは嘘偽りのないものを持っていた


「本当に行くのか?」

「何も君が危険な思いをしなくても…」

「そうだよ。ここにいた方がいい」

男たちは心底イモーテルを心配していた


「行くわ。元々私は歌姫として召喚されたんだし、今回は本当の意味でその役目を果たせそうだから」

心配そうに声をかける男たちにイモーテルはそう言った


「ソンシティヴュではオナグルのいいように使われただけで終わっちゃったしね」

「イモーテル…頼むから危険な場所には…」

「大丈夫よ。オリビエが私との約束を破ったことは無いんだから」

キッパリそう言ったイモーテルが頼もしく感じた

ミルトゥであれだけ適当にあしらってたにもかかわらず、そう言ってくれることに少し罪悪感も感じてしまったけど…


意思を曲げないイモーテルに男達も最後には頷き私達を送り出してくれた

「すまないな、歌姫」

モーブが名乗ってからそう言った


「いいの。私が歌で役に立つなら嬉しいしね」

そう言ったイモーテルは心底嬉しそうに笑っていた

その笑顔は昔から歌っている時のそれと同じだった

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