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126.異変

迷宮が出現して2週間たった頃、事態は大きく変わった

迷宮から魔物が出て来るようになったのだ

「明らかに昨日までと違う」

ロキの言葉に皆が頷く


「まだ1階層の魔物しか出て来てないが…時間が経てばどうなるかわからんな」

シュロの言葉に息を飲む


“スタンピード”


その言葉が頭の中で何度も繰り返される

でも通常のスタンピードとも様子が違う

「進めるのを中断して1階層から確認しよう」

「ギルマス!外に出た魔物を対処するために冒険者を!」

「引き受けた。Bランクはこの周囲に、Cランクは町までの道中に配置!Dランク以下は町の周りで守りを固める」

その言葉が伝令と共に伝え広がっていく


「行くぞ」

ロキの合図で私達は迷宮に足を踏み入れた


『フジェ、亡ぼす』

『神、従う』

『カギ、殺す』

『我、殺す、嫌』

『神、従う、嫌』

『カギ、殺す』


「な…?」

入った途端耳に飛び込んできたのは呪詛のような言葉たちだった


「魔物が言葉を?」

「高ランクの魔物では聞いたことがあるが…」

ここは1階層だ

ここにいるのは決して高ランクの魔物ではない


『神、カギ、亡ぼせ、頭、繰り返す』

『繰り返す、苦しい、痛い』

『苦しい、我、暴れる』

『我、神、従う、嫌』


「神がカギを亡ぼせと頭の中で繰り返す?」

「苦しいから自分たちは暴れる?」

「自分たちは神に従いたくない?」

私たちが魔物の言葉を拾って口にすると、それを発した魔物が頷いた


「どういうことなんだ?」

「この魔物は神に操られてると?」

「そんなバカな…」

とても信じられることではない


『カギ、殺す、町、亡ぼす、神、望む』

『神、望み、叶える』

「カギを殺すこと、町を亡ぼすことを神が望んでる?」

マロニエが側にいた魔物を捕まえて問いただすと、魔物は激しく首を上下に振って肯定した

私はふらつきそうになるのを耐えるのがやっとだった


「仮に神の命令だとして…カギって何なんだ?何のカギだってんだ?」

ダビアの苛立ちを含んだ言葉に背筋が凍り付く


「カギ…」

ロキが呟きながらこっちを見た


「クロキュス、心当たりが?」

「…あぁ」

ロキは気まずそうな顔をしながら頷いた


「…カギは多分、オリビエの事だ」

「「は?」」

「こいつには『ミルトゥのカギ』って称号がある」

「ミルトゥのカギ?」

「ミルトゥは私の元いた世界。でも向こうではそんな称号は表示されてなかったの。表示されたのはこの世界に来てから。神は私を、私がいる場所ごと滅ぼすことを望んでる…」

それが間違いではないと私は知っている

でも、その詳細をロキにさえ話すことが出来ずにいた


「そのカギがオリビエを指してて、オリビエのいる町を亡ぼすのを望むとは穏やかじゃねぇな?」

「しかもこいつら自身はそれを望んでいないってことだろう?」


『ミルトゥ』

『カギ、声、我、癒す』

『ミルトゥ…』

『ミルトゥ、カギ、救い』

『神、世界、閉じる、嫌う』


「オリビエの声がこいつらを癒す?」

「それにミルトゥの名に随分反応してるように見える」

「世界が閉じることを嫌う?どういうことだ?」

ダビアをはじめ皆が首を傾げる


「この魔物も迷宮もお前の元いた世界が関係しているということか?」

確信を突く言葉に頭を殴られたような錯覚を覚える


「オリビエ?」

「…」

これ以上黙っているのは無理だ


「みんなに聞いてほしいことがあるの」

私は意を決して、神から聞いた事をかいつまんで話すことにした


話している間も魔物は襲ってくるため一部のメンバーが魔物と対峙し続けることになった


こんな突拍子もない話をどこまで信じてくれるかは分からない

それでも話さなければならないことだけは分かる


話し終えると暫く静寂に包まれた

聞こえるのは魔物と対峙する音のみの異様な空間が広がっていた

ロキは勿論ダビア達も、同行していた他のパーティーのメンバーも何も言わない

その静寂を破ったのはフロックスだった


「つまりなんだ、次元ホールが閉じるのを嫌う神が、閉じるのに必要なオリビエのいる場所ごと滅ぼそうとしてると?」

「…」

「歌姫を召喚したことでこの世界では既に1つの国が滅んでる。それを考えれば次元ホールなんてない方がいいんじゃないか?」

ダビアに続いてマロニエがぼそりと呟いた


「召喚した者にこの世界の運命を任せること自体間違ってるんだよ」

「そうだな。元の世界にそれぞれの人生がある。それを犠牲にして国を、世界を救えなんて言う方がおかしいんだ」

「皆…」

皆の言葉に私は涙をこらえきれなかった

それを見てロキが抱きしめてくれる


「オリビエの事は絶対に守る」

「ロキ…」

「そうだぞ。そんな運命蹴散らしてやればいいんだよ」

ロキ達だけでなく周りに居たパーティーの面々も頷いていた


「ありがとぅ…」

「礼なんて必要ない。オリビエはそれだけのことをこれまでにしてくれてるんだからな」

「そういうことだ」

騎士達も当然の様に言ってくれる

それが本当に嬉しかった


『カギ、声、言葉、消す』


不意に聞こえた言葉にそれを発した魔物を思わず捕まえていた

「私の声がその命令を打ち消すってこと?」

魔物は頷いた


「私の声…」

その時私は幼い頃母に言われた言葉を思い出した


『オリビエ、あなたはいずれ巻き込まれるかもしれない。その時は今の歌を歌いなさい。あなたを巻き込んだ人と共に。あなたの声は必ず光をもたらしてくれるから』

言われた時は全く意味が分からなかった

でも母は何度もそう言い聞かせた

遺言として残すほどに

もしその言葉が今の事を指しているなら私を巻き込んだのはイモーテルだ


「ロキ、一旦出よう」

「「「は?」」」

皆が何を言っているんだと目で訴えて来る


「イモーテルの力が必要なの。多分だけど」

「…なにか思い当たる節があるってことか?」

「うん。母に言われ続けた言葉だけど…今まで全く意味が分からなかった。でも多分今の事を指してるんだと思う」

不確かながらもどこか確信をもっていた


「異世界に召喚されることを指してたってことか?」

「だとしたら普通は考えられないことだ。意味が分からなくて当然だな」

「…わかった。どうせ永遠に倒すしか手はないんだ。賭けてみるのもいいだろう」

「全員で行くわけにもいかないから俺達はこのまま魔物と対峙する。ここでお前たちの吉報を待つよ」

「お前ら…」

ここで魔物と対峙し続ける

それは休みなくここで倒し続けるということだ

私たちがどれだけの時間で戻ってこれるかもわからないのに…


「なーに、1パーティーずつ順に休憩取ってりゃ何とかなるさ」

「まかせとけ。だてに冒険者やってねぇよ」

「騎士団も冒険者に負けてられないからな」

好戦的な言葉に後を押されるように、私たちは少しでも早く戻ると約束してすぐさま行動に移した

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