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122.誕生

私がこの世界に来て3年目に入った7月の半ば、ようやくお腹の中にいた赤ちゃんが外に出てこようとしていた

「フロックス、頼むぞ?」

「分かってる。ジルコットとアントもサポートを頼む」

「「ああ」」

「オリビエとロキの子と言うから心配したけど…いらぬ心配だったようね」

産婆のロージーがふふふと笑いながら言う


「それにしても、とんでもない子が生まれそうだな…」

フロックスがぼそりと呟いた


私のお腹の中の子の魔力は驚くほど強い

だからこそフロックスたちにもスタンバイしてもらっているのだけれど…


妊娠が発覚した時から気になっていたことをフロックスに確認したのはついこの間の事だ

魔力の多い者同士の間には子供ができにくいという言葉

それはこの世界ではよく知られていることだったらしい

個として強い力を持つため反発し合うのは勿論、通常なら強い魔力を弱い側が吸収することで中和されるところが、どちらも吸収することができないというのが理由らしい

さらに魔力が強い胎児は生まれるまでに自らの魔力に負けてしまったり、生まれる際に母体に大きな負担を与え、母の命と引き換えに生まれることが多い

そのため、妊娠中から魔力量をコントロールする必要があった

私とロキ、そしてフロックスにも手伝ってもらって多すぎる魔力を外に逃がし続けてきたのだ


「もう少しで会える」

「うん」

頬に添えられたロキの手にすり寄る様にして頷き返す

この温もりがいつも私を支えてくれる


「元気に生まれてきて…」

自らの腹部にそっと手を添える

感じる魔力は変わらず大きい

でも大きいだけではなく温かくとてもやさしい感じがした




つんざくような泣き声と共に生まれ落ちたのは、ロキをそのまま子供にしたのではないだろうかと思えるほどロキの色を持った男の子だった

「間違いなくクロキュスの子だな」

「疑いようもないな」

「どうせならオリビエに似た女の子を…」

フロックス達の言葉に苦笑するしかない


「で、この子の名前は決めたのか?」

「ソージュ」

ロキが言う

男の子ならソージュ、女の子ならマリエル、そう決めていた

それはロキの幼い弟達が次に自分たちの弟妹が出来たら付けたがっていた名前だ

ロキにそれを提案された時、私はすぐに賛成した

幼くしてこの世を去ることになった子たちの希望の詰まった名前だから


「ソージュか。いい名だな」

ジルコットが穏やかな笑みを浮かべてそう言った


「元気に生まれて来てくれてよかったわね」

「本当に。私たちの元に生まれて来てくれてありがとう」

枕元に寝かされたソージュの小さな手をそっと握ると温かい魔力を感じた

それが生きているのだと確かに教えてくれる


「私ソージュの面倒見る!」

少し前に6歳になったリラはすっかりお姉ちゃんになったつもりのようだ


「そうね。お願いねリラ」

「任せて!」

大きく頷くリラに皆が微笑んでいる

幸せだ…

心からそう感じた


「どうした?」

「え?」

「ボーっとしてるからさ。疲れたなら…」

「ううん。違うの」

「?」

ロキだけでなく皆が首をかしげる


「幸せだなって思って」

多分その一言にまとまってしまう


「突然この世界に来て、でも向こうで生きてきた時間よりも、こっちでの3年くらいの方が凄く濃くて…」

「まぁ…普通は有り得ないことが色々起こりすぎたからな…」

「確かに」

「そうね。私達でも信じられないことがいっぱい起こった気がするわ」

「ふふ…そういうのも含めて、この世界に来てよかったって思うの」

「オリビエ…」

「それに、不思議とこっちの世界の方があってる気がするの。ここが自分の居場所なんだって思える。そこにロキが、皆がいて笑顔でいてくれることが嬉しい」

大したことではないのかもしれない

でもそれが私にとってはなぜかかけがえのないものに感じた


「ソージュとロキと…そして皆でこれからも楽しく暮らして行きたいわ」

「改めて言われなくてもみんなそのつもりだぞ」

「そうよ。出てけって言われても出て行ったりしないんだから」

「そうね。ここを失うのは私たちも困るわねぇ…」

口々に紡がれる言葉に涙が溢れて来る


「ありがと…」

この温かい場所が自分の居場所なのだと改めて実感していた

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