表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

131/140

120.体験してみた

レキシーとリリーはすぐに屋敷に馴染んだ

昼間の暖かい時間に魔道具作りをして、夕方から子供達、特にリラと共に過ごす

「リラはすっかり2人に夢中ね」

それに一番驚いていたのはカメリアだった


「今までなら1人だけで行くことは殆どなかったのに…」

少しショックを受けたように言うカメリアに思わず苦笑する

リラは人見知りこそしないものの、慣れた人の元にしか1人では向かわない

ジョンやナハマの元ですら連日甘えに行くことなどなかったのだ


「そろそろ子離れの時期なのかしら…」

「そんなに残念そうに言わなくても…」

「だってねオリビエ、リラだけじゃないのよ?」

「え?」

「コルザとロベリはアントの側に張り付いてるの」

「そういえばよく一緒にいたかしら?」

思い返してみると確かに2人がアントといることは多い

でも…


「2人よりカメリアがアントといる姿の方がよく見かける気もするけどね」

「ちょっと…オリビエ?!」

「ふふ…いいと思うよ?アントは子供達との相性もよさそうだし」

「オリビエ…」

カメリアが大きく息を吐きだした


「私はいいと思うよ?」

「でもアントに悪いじゃない。こっちは3人も子供がいるのに」

「子どもがいるのをいいか悪いか判断するのはカメリアじゃなくアントだよ?」

「それは…」

「それにアントにとっては最初から3人の子供がいるカメリアだもの」

私たちにとってもそれは変わらない


「まぁ、いそいで結論出す必要はないだろうし、ゆっくり考えたらいいんじゃないかな?」

「…そうね。それも楽しいかもしれないわ」

カメリアはつぶやくように言った

旦那さんを亡くしてから、その日その日を生きるのに精一杯だった日々が記憶から消えることは無いだろう

それでもカメリアや子供たちの時間は今も、そしてこれからも続いていく

その未来にカメリアの再婚があってはならないはずがない


「ママ!」

リラがそう呼びながら飛び込んできたのはそんな時だった


「あら、どうしたのリラ?」

「レキシーとリリーが魔道具作り教えてくれるって」

「「え?」」

私たちは思わず顔を見合わせていた


「レキシー!リリー!早くぅ…!」

リラはカメリアにしがみ付いたまま声を張り上げる

その声に従う様にレキシーとリリーが現れた


「リラ、そんなに慌てて行かなくても魔道具は逃げませんよ」

リリーが苦笑交じりに言う


「逃げなくても早く行くの~!」

カメリアから離れたリラは、姿を見せたリリーの手を握りしめる


「ママもオリビエも行こうよ」

「え?でも…」

「よければ一緒にどう?オリビエの気に入ってくれたランプを作るのよ」

レキシーがニコニコ笑いながら言う


「でも魔道具は…」

私もカメリアも戸惑ってしまった

魔道具を作れる人間はこの国に数えるほどしかいない

魔術師と魔道具士の魔力の使い方が全く違うため、と言うのが一番大きな理由

そして2つ目の理由は、その技術が秘匿されていて現役の魔道具師に師事して初めて、その技術を継承することができる仕組みのせいだ


「オリビエ、私もリリーも魔道具を世間に広めたいと思っているの」

「え…?」

「もちろん危険が伴うから、きちんと指導は必要だとは思うのよ?でも、これまでのように秘匿する必要はないと思うの」

ためらう私達にレキシーは言った


「この国の魔道具師は私達を含めて5人しかいないわ。その中の1人は年内に引退を決めてるの」

「…」

「4人…私たちは2人で1人前だから実質は3人かしらね。その中で弟子を取ってるのは1人だけ。一番年配の男性だけよ」

「あと2人の男性も私達より高齢だからいつまで続けられるかは分からない」

それはつまり、高齢の4人も引退してしまえば1人になってしまうということだ


「私たちは手紙でやり取りをしてるんだけどね、希望する者がいるならその技術を伝えて行ってもいいんじゃないかって話になってるのよ」

「でも…」

「特別な技術だけど秘匿すべきほどのものじゃないわ。それよりも魔道具を作れる人がいなくなる方が問題だと私達も思ってるの」

たしかになくなってしまったらとても困る


「私達2人は他の3人に比べて若い分動くことも出来るからね。だから色々挑戦してみようと思ってるのよ」

「その第一歩として、オリビエの料理教室のような魔道具教室を考えてるの」

「魔道具教室…」

それはとても魅力的だ


「オリビエ、ニヤケすぎだ」

すかさずロキから指摘された…


「オリビエなら料理に活かせるものも作れるんじゃないかと思うのよ?」

「!」

私は思わず立ち上がっていた


「ふふ…決まりみたいね」

リリーが笑いながら言う


「ウーとブラシュも参加するよ」

「…じゃぁ私も参加させてもらうわ」

「俺も」

ロキも興味があるようだ


「私もお願いしようかしらね」

カメリアも立ち上がる

こうして魔道具作りを体験することが決まった


「遅いよ!オリビエ」

庭に回るとウーとブラシュが既にスタンバっていた


「何か私が参加するの当然って聞こえたのは気のせいかしら?」

「間違ってないだろ?」

「まぁ…間違ってはいないけど」

「じゃぁいいじゃん」

ケラケラと笑いながら言うウーに苦笑しながら、私たちはリリーたちの作業場に入った


「まず、実際に作る前に注意事項からね」

レキシーがそう言うと一気に静まり返る

皆で耳を傾け、私はメモを取る

難しい話も多いのになぜかリラが理解しているのが不思議でならない


「…ねぇレキシー」

「なにかしら?」

「小難しい話も多いのにリラが理解してるのはなぜ?」

「あぁ…」

レキシーは苦笑する


「リラには前から物語として聞かせていたからよ」

「物語?」

「ええ。例えば…風の魔力を赤い魔石に流したら…」

「風は緑だからお家が吹っ飛ぶ!」

リラが得意げに言う


「その通りよリラ。だからどうするんだっけ?」

「魔石の色と魔力の色をちゃんと見る!」

「よくできました」

その言葉にリラがふにゃりと笑う

このくだりを私達に向けた言葉では“魔石と魔力の属性に相違があると反発が起こるため危険”となる


魔力の色というのは基本的には存在しない

でも属性により色で表現することは多い

水は青、火は赤、風は緑…と言った具合で、その色は魔石の属性と一致しているのは暗黙の了解ともいえる

リラに教えたのは同じ色ならOK、違う色はNGと言うごく単純なことだけど、“家が吹っ飛ぶ”という強烈な印象で危険なのだと認識させているということだ


「中々面白い教え方だな」

「本当にね。でもリラが理解できるってことは誰にでも可能性があるってことよね?」

「…次は何を考えてる?」

「被害にあった女性たちの新しい仕事に出来ないかなって」

「は?」

「何となくだけど、男性に頼るのは怖いんじゃないかなって」

「…」

「彼女たちが自分の仕事を持って、それを元に自立できるなら自信につながるんじゃないかなって」

思い浮かべたのは新しい町に住む女性たち

特に犯罪に巻き込まれた被害者の立場である女性たちは、簡単に他人を信用するなんてできないはずだから


「もちろんレキシーとリリーの判断にもよるんだけどね」

これは私達だけで決めていいことではない

誰かが強制されるようではだめだものね


「ま、様子を見ながら…だな」

「うん」

頷き再びレキシーの話に耳を傾けた


2時間ほど注意事項や基本的な説明を聞いてから、ようやく実践に移る

ランプの形はそれぞれが自由に作ることになると、ああでもない、こうでもないと、意外と夢中になってしまう


「形にするのってやっぱり難しいのね」

中々イメージ通りの形にならない


「オリビエでもそうなら私なんて猶更よ」

カメリアはそう言いながら出来上がっていた部分の半分くらいを作り直し始めた


「それにしても面白い素材だな」

時間がたっても固くならない樹脂系の素材

お陰で何度も形を変えて作り直すことができる


「専用の薬品を塗って魔力を流すと固めることができるのよ」

「つまりそれまではいくらでも修正できるってこと?」

「そういうことよ」

リリーは大きく頷いた

それなら慣れていなくても充分作り上げることができる気がする


「これは魔力の一部を魔道具を作るための魔力に変換するのを助ける道具なの」

レキシーはそう言って1つの魔道具を取り出した


「一部だけを変換?」

「ええ。今まで使ってた魔法はそのまま使えるわ。そうね…魔力の一部をスキルに変える感じかしら」

「…スキルを使って魔道具に魔力を流すってことか?」

「そういうこと」

「…その魔道具は数がない?」

「ええ。この国では4つだけ」

「つまり今の魔道具師の数だけ?リリーは細工がメインだから…」

「そういうこと。これは弟子に引き継がれてきたものよ」

「だから自己流の魔道具師がいないってことか?」

魔術士が沢山いるのだから、そこから発展してもおかしくはない

でも実際問題、魔道具師は5人しかいないのだ


「危険性や禁忌の情報と共に受け継ぐための仕組みね」

「そう。それを理解した者や、側でサポートできる相手にしか使わない道具でもあるわ」

「元々少ない魔道具師に伝手のある者も少ないしな…そう考えれば携わって見たくても、手段がない者の方が多そうだ」

私達もキリアがいなければ出会う事さえなかった相手だ

それも偶々ランプを扱っていたからという偶然の積み重ねでもある


「魔道具教室をするなら、最初の内は今日説明した内容をさらに詳しく、幅広く説明して、理解できていると判断した者から魔道具でスキルに変換することになると思うわ」

「じゃぁそれまでは形成迄?」

「そうなるわね」

「それに教室と言っても一度に教えるのは2人が限度だと思うわ」

「どうして?」

「本当に理解しているか確認するためって言うのもだけど、一気に魔道具師が増えるのは…ね」

「あぁ…値崩れにもつながりそうだな」

ロキがぼそりと言った


「ええ。だから2人ずつ。独り立ちしたら入れ替わりで次の人って感じになるかしらね」

「オリビエたちは魔道具だけで売るってことは無いだろうから別枠ね」

「そうね…どちらかと言えば自分の為に作りたい感じかしら?」

「俺も!薬草を調合するための道具とか作りたいかな」

ブラシュが言う


「ふふ…だからあなた達は別枠ってこと」

「弟子とは別だからそこまで詳しい知識も必要ないだろうし、作業する時はレキシーが付き添うこともできるものね」

「だから子供達でも大丈夫ってことね?」

「ええ」

そんな話をしながら順番に魔道具を使って変換していく

終わってからステータスを確認すると“魔力注入”というスキルが増えていた


「すっごく分かりやすい名前のスキルね」

「ふふ…迷わずにすんでいいでしょう」

レキシーは笑いながら言う


「じゃぁ実際に流してみましょうか」

注意点を再び確認してから私たちは自分で形成したものに埋め込んだ魔石に魔力を流す


因みにこの時の魔力は生活魔法に付随するものでもいいらしい

ただし、属性魔法と違い力が弱いので小さな力しか持たない

同じ火の魔力を流しても、生活魔法の火はコンロの火をつける程度の力で、属性魔法の火は家を燃やし尽くす威力も可能ということだ


今回作ってるのはライトなので、生活魔法のライトを使って卓上を照らす程度の光をともすことができる魔道具が完成した


「これ、防空壕に避難した時とかによさそう」

ウーが言う

確かに防空壕のような場所では、ろうそくに火をともすより安全かもしれない


「俺は夜ベッドで本を読む時に使う」

そう言ったブラシュは今まではライトをずっとかけていたらしい

同じものを作っても使い道はそれぞれというのがまた楽しい

こうして私たちの魔道具作り体験は終了したけど、その後月に1回の頻度で作ってみることになった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ