113.消えた国
処遇の決まった翌日、魔術師団と騎士団は総動員で術を施すことになった
「お前たちは先にソンシティヴュに行ってくれ。これが対象者のリストだ」
スキットは紙の束を渡す
「念のため騎士と2人1組で動くように。もし抵抗を見せるなら騎士が抑えつけても構わん」
「施すのは逃走防止と反攻防止だけでよろしいので?」
「ブロンズとシルバーはそれでいい。ゴールドと元王族はそれに加えて後頭部にチップを埋め込む」
「承知しました」
「我々もこっちが済み次第合流する。頼んだぞ」
ソルトが集まっている者たちに向かって言うと皆が動き出す
普段からグループを組んで行動している為組む相手も自然と決まる
準備が出来た者から魔術師の転移で去っていった
「さて、こっちも始めよう」
「と言ってもこっちにいるのは当主の10人とナルシスだけだがな」
「そう言えば騎士は全てノルマをクリアしたんだったか」
「ああ。クリアした時点で取り込んでない者は壁の中に送り返した」
「討伐させられた上に土木作業を課せられるとは哀れだな」
「与えられたチャンスを生かせなかったのは本人の自己責任だろ」
「確かに」
ソルトとスキットはニヤリと笑う
実際チャンスを生かしてカクテュスの騎士になった者がいる以上、彼らに言い訳は出来ないのだ
「術を施せば今日の内に向こうに運ぶんだったな?」
「そうだ。各国の要人たちは王族が一気に転移させてくれるらしい」
「王族総出か?」
「いや、先代は残るそうだ。流石にここを手薄には出来んからな」
「なるほど。まぁ先代がいるなら問題ないか」
ソルトは納得したように頷く
先代とは言えまだまだ現役の実力を持っているのだ
ナルシスへのチップの埋め込みは3国の王が立ち会う中で行われた
拘束されて身動きが取れない中、喚き続けるナルシスを3人の王は蔑んだ目で見ていた
***
その日フジェでは屋台広場に巨大な映像が映し出されていた
私達もカフェを臨時休業して屋台広場に出てきた
「何があるの?」
コルザが不思議そうに尋ねる
「私たちの元いた国が無くなるのよ」
「元いた国?」
「そう。スタンピードが起きても何もしてくれなかった王様のいた国よ」
カメリアは少し悩んでからそう答えた
「そんな国ならいらないや。だって今の王様はちゃんと助けてくれるもん」
ナルシスたちが攻めてきたときの対応の早さは、子供達にもきちんと説明されていた
怪我人も、潰れた家も、いち早く対応して貰えたことに、大人たちはモーヴの事を讃え、感謝の念を口にし続けていた
詳しい説明など無くても子供たち自身がこれまでと違うのだと容易に理解した
映像の中では1か所に固められた王族と称号持ち達の前で、これ迄の非道な行いと、これからの処遇が淡々と告げられている
映像の中からの悲鳴や落胆とは対照的に、広場からは歓声と怒声が上がる
そして…
すさまじい轟音と土煙と共に王都を囲っていた塀が崩壊し、圧縮された空気弾で王宮や屋敷が叩き壊されていく
「すげぇな…」
「俺達はようやく本当の意味で解放されたのか…」
側にいた元特攻のセルトが呟いていた
この日、フーシアという世界から、ソンシティヴュという国が消えた
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