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閑話10.家族の処遇(side:フロックス)

昼過ぎにクロキュスに呼ばれた

オリビエも側にいるがその顔は少し強張っていた

ここ数日で何かが起こったという記憶は特にないんだけどな…


今日はカフェの定休日で俺たち以外はこの場にいない

静けさに包まれた時間が心地悪くて話を切り出した

「何かあったのか?」

「ああ」

頷いてから少し沈黙が続いた

クロキュスがこんな態度を取るのは珍しい

一体何があったというのか…


「シルバーとブロンズの処遇が決った」


クロキュスの静かに告げた言葉に気を使われたのだと理解する

俺はシルバーの称号を持っていた

クロキュスのおかげでこの地に逃れたが、本来なら俺も罰せられる立場だ

称号持ちであることを嫌悪しながらも、少なからずその称号の恩恵は享受してきた事実は否定することが出来ない


「どうなるんだ?」

少し複雑な思いを抱えながらその先を尋ねた


「ソンシティヴュは一旦更地にする。その上で新たな町を作る」

「新たな町…」

「ああ。その撤去作業や新たな町の土台作りをさせることになった。それに期限内に更地に出来なければ一家そろって奴隷落ちになる」

奴隷落ちという言葉に家族の顔が頭の中に浮かんだ

でも全てぼやけていて明確に描くことができない自分に驚いた

考えてみれば最後にまともに顔を合わせたのはいつだったかさえ分からない


「その先も亡命者の住まう場所の開拓や僻地の開拓を生涯続けることになるらしい」

「…死ぬまで土木作業員ということか?」

「まぁ、そうなるな」

これまで民を愚民と呼びその上に胡坐をかいてきた称号持ちが、その民の為に働かなくてはならない

さぞかし耐えがたいことだろう

実の親や兄弟のことなのに俺は驚くほど他人事として感じていた


「…俺は…」

無関係ではないだけに少なからず何かあるはずだ

正直聞くのは怖いが聞かずにいれるはずもない


「お前はこの町に居る。それが全てだ」

クロキュスははっきりそう返してくれた

俺の中に生まれたのは驚きと感謝だった


騎士と魔術師として共に最前線で魔物と対峙していた日々を思い出す

俺が無条件で背を預けられるのはクロキュスとダビアだけだった

騎士や魔術師、他の特攻や精鋭もそれなりに頼りにはしていた

でも、2人以外に命を預けるだけの信用は最後まで持ち得なかった

今俺がここにいれるのはそのクロキュスのおかげでしかない


「ただ…」

「?」

「お前の家族は…」

言いづらそうにしているクロキュスに苦笑する


「構わない。元々俺は兄上たちのスペアでしかなかったからな」

「…」

「お前も知ってるだろう?俺が物心つく前からあの家の使用人として生きてきたことを」

その話は過去に何度かしたことがある

自分自身のこと、あの国に対して思ってることと、今後のこと

色んな心の内をダビアとクロキュスと一緒に酒を飲みながら語ったのは一度や二度ではなかった

そしてそんな話をする時は決まって朝までコースだった

お陰で俺達は話すたびに絆を深めることが出来たんだ…


「それに成人したらこの家から出るようにと言い含められたおかげで自立も出来た」

「そう…だったな」

「だから形だけの家族に思うことは何もない。成人してから言葉を交わしたこともないしな」

そうだ

顔など思い出せなくて当然なのかもしれない

俺は家を出てから家族の誰とも話をしたことが無いのだから

王宮ですれ違っても挨拶すら返されなかった時には流石に凹んだが…

でもそのおかげで家族を切り捨てることが出来たのも事実だ


「お前が気にしないならいいんだ」

「悪いな。変な気を回させた」

「いや」

クロキュスはそう言って首を横に振る

家族を何より大切にしていたクロキュスらしい気遣いだった

側にいるオリビエがそんなクロキュスの心に寄り添っているのが伝わってくる

今のクロキュスの家族としての愛情はほぼ全てオリビエに注がれてると言っていい

勿論カクテュスの王族に対しても多少の愛情は有るだろうけど、オリビエは明らかに別格だ

それが嬉しく、どこか羨ましく感じる

俺にはそんな風に大切にしたい家族も恋人もいない

飲み会以降、女性騎士と簡易パーティを組んで迷宮に行くことも増えた

でも、特別な付き合いをしようと思う相手とは出会ってないからな…


「俺に出来ることがあるなら手伝わせてもらいたい。それで称号持ちだった事実を消すことも、償うことも出来ないことは分かってるが…」

「お前は充分償った」

「は…?」

全く心当たりがないのだが?


「王宮にいた称号なしに未来への道を与えたのはお前だろう?」

当然のように言うが…

「あれはお前の案だろ」

「実行したのはお前だ。俺には実行は出来なかったからな」

確かに手紙を読んで無茶ぶりと思ったのは否めないが…

でもクロキュスが俺を信頼して送ってきたことは分かっていた

だからこそ、その期待にこたえたいと思った


「そもそも称号持ちへの処遇は民の意志を汲むためのものだ。感謝されてるお前に罰を下す方がおかしいだろ」

「感謝などされてないさ」

「知らないのか?騎士や王宮に勤めてた者の家族、その周りの人間からお前の事は恩人だと広まってるぞ」

「な…?」

「だからお前に家族と同等の裁きを下せば別の意味で問題が起こるだろうな」

信じられない言葉だった


「あれは俺だけの力じゃ無理だっただろ。現にジルコットの協力がなければ…」

「その協力を得れたのは、フロックスが称号なしの人たちを称号と関係なく、一人の人として対等に見てたからだよね?」

そう言ったのはオリビエだった


「大半の称号持ちは称号なしに協力を仰ぐことは無いってことだ」

「…そういうことか…」

だから、王族ではなく国民の為に先陣を切っていたカトリックも同じようにこの町に来た

長い間クロキュスと一緒に働いていたはずの側近は声さえかけられなかった

ずっと引っかかっていたその理由を初めて理解した


家族と相いれることは無かった

でもそのおかげで手に入れたものが確かにそこにあった

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