111.ゴールドの裁き(side:3国会議)
バイキング形式の昼食会は3国間の交流の場として素晴らしい場となった
騎士や魔術師はそれぞれに情報交換をしながら互いに刺激を与え合う
定期的にこのような場を設けるのもいいかもしれないと誰からともなく言い始め、気づけば3国持ち回りで毎月開催されることが決っていた
「さて、残りの処遇を決めねばならんな」
「まずはゴールドからか」
「確か前正妃一族の愚行を黙認していたのですよね?」
「黙認していたというよりそうさせたようにも見えるが」
「反応を見る限りそうであろうな」
あの愚行に気付かないなら逆に問題だ
「あれが計画的なことだったとすれば、2人目の正妃の行いはあまりにも酷すぎるがな」
「その器になる者がいなかったか、あの一族の力が強かっただけか…いずれにせよ愚かではあるな」
「だいたい、3国の王を婚姻祝賀パーティーに招くのに、自らの生家の蝋封をするあたり元々王族に対する忠誠など存在しないだろう」
そんなことがあったのかと呆れる声が漏れる
「奴らの一番嫌がることは何か…」
そのつぶやきに暫く皆が考え込む
「男どもには“何でも屋”でもさせるか」
「何でも屋?」
「奴らは自らの欲望のまま下の者に命令を下していたわけだろう?その下の者から命令されて働き続けるというのはどうだ?」
「ほう…」
モーヴがニヤリと笑う
「主要な町に一人ずつ配置して仕事を請け負うようにすれば嫌でも働くだろう?」
「して、その仕事の内容と報酬はどうする?」
「奴らの使用人は衣食住が与えられるとは言え、月に10万シアから家賃や食費を引かれた額でこき使われていたという。おまけに寝る間も惜しんで働いていた事を考えると時間当たり100シア未満ということになるな」
この情報はクロキュスからもたらされたものだとモーヴは説明した
本来なら知れなかった内情を報告書としてまとめてあったという
それに関しては既にポンセとレンヌにも共有されている
「元々仕事の出来ない者に時間で報酬を払うのは無駄でしかないのでは?」
「では1仕事当りでいいだろう。それがどのような重労働でも軽作業でも関係なくな」
「1仕事あたり100シアでいいのでは?」
「そのかわり国からは何の保証も付けない」
「ああ、つまり働かねば食うことも出来ぬと言うことか」
「それはいい。当主は特別に亡命者の沢山いる場所に配置してやるといいかもしれんな」
「僅かな時間で終わる仕事を貰えるか、数日かかる仕事を押し付けられるか…すべてこれまでの行い次第というわけだな?」
少しでも哀れと思ってもらえるなら割のいい仕事を貰える可能性もある
でも逆の可能性の方が高いのは皆分かっていた
「魔力を込めた追跡のチップを埋め込めばそれで管理も出来ますな」
「鉱山に送る者に埋め込むのと同じものか?あれなら確かに仕事量も全て記録されるか」
「水回りを備えた小屋だけは用意してやるか。そこに仕事の依頼書を投函するのはどうだ?」
「依頼書は順にしか取り出せず、先の依頼が完了して初めて次の依頼を受けることが出来るようにすれば、余計な問題も回避できるだろう」
「民たちは仕事の選択肢などなかったのだから当然だな」
「チップで行動範囲は制限できるので逃走防止にもなりますね」
「逃げたところで居場所の特定は容易だ。後頭部にでも埋め込めば勝手に外すことも出来ないだろう」
「そう言えば過去にいたか。手の甲に埋め込んだら手首から下を自ら切り落として逃げた者が…」
レンヌがため息交じりに言った
「それはそれで中々の根性だな?」
「その先の仕事にも支障があるだろうに」
「そこまでの根性があったとしても、後頭部付近にあれば流石にどうすることも出来ないでしょう」
「まぁ、切り落とすわけにも行かんしな」
切り落とした瞬間に命が終わるのだから当然である
「これまで蔑んで来た者達に蔑まれる生活。さてどれだけ耐えれるか?」
「我が国は好戦的な民が多いですからね。暴言を吐けば暴力で返されるかもしれません」
「それも自業自得だろう。これまでしてきたことがそのまま返るだけだ」
「自分たちの態度がよその国でどれだけ嫌悪されるものなのか、それも身を以て知ると言うことだな」
「所詮は狭き範囲での権力だと気づくことが出来れば先はあるかもしれんがな」
そこにはやりきれない何かがあった
「正妃はゴールドと同様に扱ってよかろう?」
「正妃としての実績は皆無だからな」
むしろマイナスの実績しかないし、婚姻を執り行った日がこの崩壊の最初の日だ
「正妃含めゴールドの女どもは修道院のようなぬるい場所では許されんな」
3国の貴族と呼ばれる女性は、何か罪を犯した際、厳しい自然環境の中に立つ修道院へ送られることが多い
これまできらびやかな生活をしてきた女性たちにとって、質素倹約がモットーの修道院はこれ以上ない苦痛の場となるからだ
でもソンシティヴュの称号持ちの女性には、それすら贅沢だと吐き捨てる
「幽閉も無しだ。ただ衣食住を確保され続ける等許しがたい。身の程をわからせてやらねば」
「イヤに根に持つな?」
ポンセがレンヌを見て笑いながら言う
「いやいや、我ら3国の王が“何の確証もなく発言する”等とよく言えたものだと思ってな?」
「そのようなことを?!」
怒りをあらわにしたのはレンヌの側近だった
「まぁ落ち着け」
「…失礼しました」
自らの主に窘められ素直に頭を下げる
「まぁ確かに自分には何の実績もないのに、家の称号を笠に着ての振る舞いは質が悪い。それを正妃になる者がとなると救いようがないか…」
「あれを見る限り、ゴールドすべてが同じだと判断してもあながち間違いでは無かろう」
モーヴはため息交じりに言う
「身分ではなく実力だけがものを言う世界に入れるのが一番よさそうだが…」
その言葉にしばしの沈黙が続いた
「…介護、などはいかがでしょう」
「介護?」
「どの国にも魔物の被害を受けた者の施設がございましょう?」
「確かにあるが?」
「そこの底辺から従事させるのはどうです?」
「底辺というと?」
「介護や医療の底辺と言えば下の世話、シーツ交換、食事の介助、魔物が絡めばウジを取ったりという作業もございますね」
そう言いながらニヤリと笑う
「傷は酷いものが多い。おまけに魔力にやられた者は狂暴化していることも多い。体位を変えるだけでも痛みが走り、怒鳴り声が飛ぶのも日常茶飯事。下手すれば殴られることもあるとか。肉体的にも精神的にもきつい仕事です」
「資格がなければそれ以上の仕事はさせてもらえませんからね。その資格もしかるべき学院で学びその後の試験に合格せねばなりません」
特殊技能の教育を行う学院は医療や司法など多岐にわたる
その学院の入学試験は勿論卒業試験も簡単に合格できる水準ではない
入学した者の半数以上が卒業するまでに挫折するというのも有名な話である
「亡命を受け入れられない彼女達には、その学院の入学試験を受ける事すら不可能。ずっと底辺でこき使われるというのもいいのでは?」
「それぞれの施設で一番狂暴化している者達を担当させればいい」
「それなら今居る職員の負担も少しは減るだろうし、精神的にも落ち着きましょう」
「底辺のまま後から入った者からも命令されて、患者に尽くす日々は彼女達にとっては穏やかではないでしょう」
「これまで身の回りのことを全てしてもらっていた立場だからな。それをする立場になるだけでも屈辱だろうが…」
その相手が狂暴化した者達となればなおさらである
「医療現場の女性は強い。しっかり鍛えてくれるだろう」
「当然、彼女たちが逆らえばしつけを行ってもよいと許可も出してやらんとな」
「しつけの内容は人によって違うのでは?」
「問題なかろう?彼女たち自身、自分本位のしつけをしてきただろうからな」
あくまで“自分たちのしてきたことがそのまま返ってくるのだ”と言わんばかりの姿勢を崩さなかった