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110.今後のこと(side:3国会議)

「新しい町を作るのはどうかと思ってな」

「新しい町、ですか?」

「そうだ。性的被害にあった女性や未亡人、性的マイノリティの者が安心して暮らせる、この先も幸せを望める町だ」

「性的マイノリティとは?」

「同性愛者や心と体の性が一致しない者の事だ」

その言葉に一瞬ざわめきが起こった

「騎士団にも何名か…」

ソルトが呟く


「わが国にも時おり見受けられる。ひた隠しにしているようではあるが…」

「処女説を重視する中での被害者は少なくない。その者達も新しく伴侶を得て幸せを望む権利はあると思うのだ」

「確かに…」

「しかしそんな女性を娶ろうとする男がいますかね?」

議員の一人が顔を顰めながら言った


「では聞こう。そなたには娘がいたな?」

「ええ。おりますがそれが?」

「その娘が婚姻後すぐに夫を亡くしたとしたら?」

「は?」

「どんな理由があろうと今のこの世界では再婚など望めないだろうな」

「!」

男の顔が引きつった


「たとえ閨を共にしていなかったとしても変わらないだろう。その娘に再び愛する者が出来たらそなたはどうする?」

「…」

「処女説を重視する以上未亡人として孤独に生きて行けと説得するか?」

「それは…」

愛する娘にそんな酷なことが言えるわけがない


「幸いこの世界でも新しい考え方を持つ者が出てきている」

「新しい考え方とは?」

「男は婚前に娼館に通うのに女にだけ処女説を押し付けるのはおかしいという考え方だ」

「婚姻歴があっても娶りたいと思う者もいるようですな」

「盗賊に襲われた娘は修道院にも受け入れてもらえないと聞いたことがある。かといって屋敷にいても周りから白い目で見られて引きこもるのが常だ」

「男だけが再婚できるのも言われてみればおかしな話なのかもしれませんな」

「再婚はともかくとしても…もし私が突然亡くなり、その後、妻が虐げられ続けるなど考えたくもない」

他人事、建前で考えれば先の議員のように顔を顰めていても、もしも身内がと考えれば他人事で片付けることなど出来ないのだ


「最初は性的被害者が偏見の目で見られることなく、安心して暮らせることを重視してもいいと思うがどうだろうか?その町では性的偏見がないと知れれば、性的マイノリティの者も集まると思うのだが」

「ではその場の警備に同性愛者の騎士を回しても?」

「勿論だ。その騎士達もその方が本来の力が発揮できるだろう」


「…つまりモーヴはソンシティヴュを更地にした後に、その町を作りたいと言うことだな?」

「ああ。そこは3国の共有の町としてもいいと思うのだが」

「誰もが生きやすい町か。それがかなうなら素晴らしいな…」

「今の国の中で変えていくより新しく作る方が抵抗も少ないかもしれないな」

「住む者も今の場所から離れることで気持ちが切り替えられるのではないか?」

固定観念は簡単に変わるものではない

それなら新しい価値観の者で作り始めればいい


「この人数で議論は逆に難しいか。一旦3国に分かれて議論の時間を持とう」

モーヴの言葉で2国の者が別室に案内された


1時間ほどすると話がまとまったのか2国の者達が戻ってきた


「マアグリは賛成させていただこう。一妻多夫の町もある故見込みはあると判断する。同行した者の中に未亡人の娘を持つ者もいる故、その町が実現するなら住まわせてやりたいそうだ」

「ブロンシュも同じく賛成だ。女性騎士団に同性愛者がおるらしい。その者達をその町の警備に回してやりたいのだが…」

「願ってもないことだ。実はこの話のきっかけは我が国の女性騎士の言葉だったんだが…」

モーヴはこのタイミングで初めてオナグルに手籠めにされたメイドの話をした


「その2人が安心できる場所があればとその騎士が申してな…」

「それが理由で亡命を諦めるとは…」

「頼る者もおらず未来に絶望しかなかった2人は、助けられてからも笑顔さえ見せないという。蔑まれ、白い目で見られるなら囲われていた方がましだと」

「何と…」

この場にいる者がそう言った声を直接聞くことはまずない

既に自分事と捉えている者たちはやりきれない思いを感じていた


「同じような経験をした者同士なら互いに理解し合えることもあるだろう。最初は傷のなめ合いかもしれんが、その先に希望を持ってくれたらと思わずにおれんのだ」

「ではその町を作る方向で話を進めよう」

レンヌが言うと皆が頷いた


「更地に戻した後、奴らには引き続きその町の土台作りをさせるのはどうだろうか?」

「ほう」

「これまで権力に胡坐をかいていた者に肉体労働を続けさせるか?」

「ふんぞり返って下の者にさせてきたことを自ら体験してもらうとは…いいかもしれませんな。多少食費がかかろうと肉体労働する労働者を雇うより遥かに安く済む」

「財産が没収された上に亡命は出来ないとなれば働かざるを得ないしな」

耐えがたい屈辱に耐え続けることが出来るかが見ものだと、言葉がどんどん飛び出してくる


「奴らには倉庫のような大きな小屋を提供してやるとして…女子供には畑を作らせよう」

「男手にはまず住む場所を建てさせることになるな」

「複数人で住める家はどうだろうか。1人にしておくのは心配で…」

そう言ったのは未亡人の娘を持つ男だった

「なるほど。ではプライバシーが確保できる部屋と複数人で共有できる部屋を持った家のようなものならどうだ?」

「それはいいですね。一人になることも出来るし誰かとつながることも出来る」

「では4~5名ずつ住める建物にして、それとは別に食堂のような建物を一つ作ってもいいかもしれませんな」

「バイキング形式にすればある程度好きなものを選べる」

「食べる場所はその場でも自分の部屋でも可能にすれば気持ち的にも楽かもしれませんな」

「それならトレイを渡す時に支払いをして、食べ終えたトレイの返却口も必要だ」

「先のメイド達もいるなら食器洗いや公共の場の掃除を仕事として提供してもいいかもしれませんな」

部屋に閉じこもっているだけよりも、何かしていた方が気分転換にもなるかもしれない

誰かの意見を引き金にどんどん意見が広がっていく


「技術指導と料理人を3国から5名ずつ出そう。今の環境と全く違うものになると精神的にもきつかろう」

「彼らには別の住居を魔術師団で用意させてもらう。食料も奴らには最低限の物だけだが別途用意すべきだな」

「技術指導も料理人も性的マイノリティの者がいるならその者を向かわせてはどうだ?」

「それはいいな。そのまま自分たちの住む町になるならやりがいもありましょう」

「見つからなくても理解のある者に任せた方がよさそうですな」

その後も様々な意見が出された


「新しい町の土台作りを行わせることで、しばらく働かせることが出来るがその後はどうすべきだろうか」

「亡命者の住まう場所の開拓に回せばよいのではないか?そこが整っても各国の僻地もたくさんあろう。死ぬまで開拓要員として下働きさせればいい」

「それはいいかもしれないな。当面テントで暮らしながら自ら開墾する必要もある。その手伝いに回すのは面白そうだ」

「これまで手足として使っていた者たちの下働きか」

「民たちのこれまでの不満も晴らせましょう」

誰一人として擁護する者はいない

それが称号持ちのしてきたことの結果だった


「逃走防止は既に処置済みです。民が傷付けられないよう反攻防止も施しましょう」

「心の中でどれだけ腹立たしく怒りをぶつけたくとも行動には移せない。さぞ屈辱的なことでしょう」

スキットはそう言いながらニヤリと笑う


「成人前の子供に関しては孤児院に回しても良いかもしれませんな」

「一旦見極めが必要ではないか?幼くても既に親と同様の思考の者も沢山いるだろうしな」

「確かに既に刷り込みが完了してる者もいるか…」

称号持ちの偏った考え方は子供のころからの刷り込みでできあがる

刷り込みの上で自我が完成していると既に遅いのだ

孤児院に入れてしまえばそこで屋敷にいたときと同じ振る舞いをする可能性もある


「ある意味被害者と言えるだけに…」

「では矯正施設を作るのはどうだ?」

「矯正施設?」

「称号持ちの考え方を捨てさせるための施設だ。その中で自給自足の生活をさせて教育を行う。更生されたと判断された者だけ孤児院に移す」

「念のため命令禁止を施した方が良いな。命令しようとした時点で施設に戻せるなら孤児院側も安心できるだろう」

「そのまま成人になってしまったらどうする?」

「その場合は施設から出し親同様生涯下働きをしてもらうしかないだろうな」

「それが妥当か」

「では新しい町と少し離れた場所に矯正施設を作りましょう。その運営も3国の共有で問題ないでしょう」

「孤児院へは3国へ順に送れば変な偏りもなさそうですな」

「開拓に関しては家族は分散させましょう」

「その辺りはまだ先の話になるでしょうからおいおい決めていくと言うことでよろしいか?」

「ああ、構わない」

「我々もそれでいい」

レンヌの言葉に他の2国も頷く


「これまで散々民を蔑ろにして来た結果だ。その身でしっかり受け止めてもらわねばな」

その言葉には皆同意する

これまで何度もソンシティヴュに苦言を呈してきただけに庇う思いは一切生まれない

称号なしの亡命者を無条件で受け入れたのはその辺りも影響していた


「これで大方決まったか」

「あとは王族の処遇ですな」

「その前に昼食にしましょう。広間にバイキングを用意しているので休憩がてら楽しんでもらいたい」

モーヴが言うと大きなため息がそこら中から聞こえた

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