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105.エリーと契約

その後も亡命者の今後の事を何となく話し続けていた

話しながらもロキの手は次に使うことになるだろう契約書を作成していたんだけど…

「オリビエ、まだここにいる?」

ドアをノックしながらカメリアの声がした


「ええ。どうぞ」

返事をするとカメリアと共に同じ年頃の女性、エリーが入ってきた


「久しぶりエリー、バーベキュー以来ね」

「あの時はありがとう。とても楽しい時間を過ごせて嬉しかったわ。ずっとお礼を言いたかったの」

エリーは満面の笑みを浮かべてそう言った


「楽しんでもらえたならよかった。どうぞ座って」

「私は席をはずしてるわね」

カメリアはそう言うとエリーに少し声をかけてから出て行った


「早速だけど、来てくれたってことは掃除を引き受けてもらえるってことでいいのかしら?」

「喜んで!私には掃除くらいしか出来ることが無くて…それで探しても中々見つからなかったの。それなのに今日カメリアが話を持ってきてくれたから…」

「そうだったのね。エリーにお願いしたいのは2階の大部分と3階になるんだけど」

「はい。聞いています。1階と2階のオリビエたちの部屋はカメリアが引き受けることになってるって」

カメリアはそこまで話をしてくれていたらしい


「シルバーの家で使用人として働いていたと聞いたが?」

「はい。18の頃からなので10年になります」

「随分長いのね?」

「まぁ…」

エリーは言葉を濁した

何かあるのだろうかとロキを見ると頷いた


「称号持ちの屋敷で5年以上働けるのは稀だ。大抵はそれ以前に奴隷に落とされる」

「どういうこと?」

「少しの粗相で怒りを買うんだよ。その都度奴隷に落とされる。それを怖れてやめようとすれば家族を人質に取られるケースが多いと聞いたことがある」

「そうなの?」

そんなことがまかり通るなんてどう考えてもおかしい


「…はい。私には婚約した人がいたんです。結婚の日取りが決ったので辞めさせてもらおうとお願いしたら、その翌日に父が襲われました。それに婚約者にも圧力がかかって婚約の話もなくなってしまいました」

「酷い…」

人の人生を何だと思ってるんだろう?


「自分が奴隷に落とされればとも思ったけど、実際に落ちた知り合いの家族が契約の違約金を請求されたと聞いてそれも悪手だと…」

「最初から断ることは出来なかったの?」

「私達に選択権はなかったんです。ある日突然屋敷から迎えが来ましたから」

「何で?」

「街で見かけたそうです。奥様のお眼鏡にかなったから光栄に思えと」

「それで無理やり連れて行って縛り付けるってこと?人としてどうかしてるわ」

「それが現実だったんだ。取り締まろうにもナルシスもゴールドも反対どころか推進派だから無理だった」

ロキは悔しそうに顔を歪めた

側近という立場で改革してきたことを周りから聞いてたけど、出来なかったことも多かったのかもしれない


「まぁ、そんな中で5年以上働いてる者はそれなりの実力があるともいえるけどな」

家族を盾に取られながら一定水準を保った仕事をこなせるということは確かにそういうことなのだろう

だからと言って長く務めたことを喜べるかと言えば否だろう


「あの、勿論入るなと言われる場所には立ち入りません。守秘義務も守ります。どうか働かせてください!」

エリーは懇願するように頭を下げる

ロキを見ると頷きが返ってきた


「顔を上げてエリー」

「…はい」

「あなたならカメリアとも上手くやってくれるだろうし、当のカメリアが推薦してくれる人だから安心だわ」

「…じゃぁ…」

「ええ。とりあえず月10万シアの契約でいいかしら?」

「10万シア…そんなに?」

エリーが目をパチパチさせている

理解が出来ずロキを見た


「一般収入の相場はカクテュスのものだ」

「なるほど?」

「ソンシティヴュの称号なしの報酬は極端に分かれる。個人で商売してたりフジェの様に王都から離れていれば10万シア弱は大抵貰える。王宮の騎士で15万シア、それ以外の騎士が13万シア、メイドたちが10万シアくらいだな」

「最初にジョン達を雇うときに聞いたのもそれが基準ってことだよね?」

「ああ。問題は王宮や称号持ちの屋敷に勤めてる者だ。今言った額面は最低賃金として義務付けられてるがそこから引かれる金額がな…」

「引かれる金額?」

「騎士にしてもメイドにしても基本は住み込みだ。その家賃、食費、酷い所は衣装代まで引いてやがる」

「え?それって殆ど残らないんじゃ…」

「私は平均して3万シアでした。家賃が4万シア、食費が2万シア、衣装代で1万シア引かれてたけど2万シア分の食事なんてとてもさせてもらえなかった」

「なんて酷い…」

本当に腐った国だったってことね


「エリー、その報酬額はカクテュスでの一般的な報酬なの。だから高すぎるってわけじゃ無いから安心して」

「でも本当にこんな…私、報酬に見合うよう、精一杯働きます!」

かなりの決意が読み取れた


「期待してるわ。それと掃除する時の服装なんだけど、メイド服のようなものは用意してないの。だからエリー達が動きやすい服を3セット買ってくれる?お金はこっちで出すから」

「カメリアにもその話はしてある。2人で動きやすいものを選んでくれ」

私達には掃除しやすい服装なんてわからないし、自分たちで選んでもらった方が都合がいい

同じ仕事をするならと言うことで、カメリアにも買うことを納得してもらったのだ

そのうちお手伝いを楽しんでいる子供たちの分も買っておこうと思ってるのはまだ内緒だ


騎士団の報酬もカクテュスの他の騎士と同等になってるから2人の収入でソンシティヴュにいた時の4人分の収入くらいは軽く超えるだろうというのがロキの談

幼い子もいるから少しでも気持ちが楽になるといい

エリーと詳細を詰め、無事契約を交わすと翌日から来てもらうことになった

2人は早速、作業用の服を買いに行った

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