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99.勧誘

「…どこか目的地はあるの?」

「いや、故郷は亡び、既に戻る場所もない。特に行きたい場所もないな」

その言葉に私はロキとフロックスを見た

2人共頷いて返してくれる

何が言いたいか分かってくれる辺り、とてもありがたい


「ジルコットさえよければだけど」

「?」

「この町に留まりませんか?」

「この町に?」

「ええ。ここにはロキとフロックスの他にもダビアとマロニエ、特攻と精鋭だった騎士達もいますし…」

「彼らが…そう言えば元々彼らを逃すための策だったか?」

カトリックの事を思い出したのか、ジルコットはそう言った


「この町は医師が不足してる。とどまってくれるなら有り難い」

「魔術師もいるがジルコットも知っての通り、魔術に頼りすぎれば自然治癒力が衰える。この町の周りは魔物が出るし、騎士団の詰所の医師もまだ足りない」

「騎士団の…それは…」

「あぁ、ソンシティヴュとは違うから安心してくれ。ここの騎士団は町の者の為にある。詰所には町の者が色んな相談事を持ち掛けてるくらいだ」

「それは珍しいな…」

ソンシティヴュにおける騎士団は国の物で、王族、そして称号持ちの為に存在していた


「今詰所には通いの医師が1名いるが週に3日だけなんだ。勿論騎士だけでなく町の者の診察も受けてる」

「新たに治療院を建てるより、元々町の者が立ち寄ってた場所に騎士団の詰所を用意してるに過ぎない。町の者は勿論、流れの冒険者でも診察は受けられる」

「今居る医師はなぜ週に3日なんだ?」

もっともな疑問だ


「彼の奥さん、スタンピードの時に片足を失ってしまったの」

「足を…」

「生活できなくはないけど、小さい子どももいるから毎日家を空けるのは心配だってことでそうなったの」

「今は1日おきに通ってもらってるし、町の者も事情を知ってるから、1日おきでもいてもらえるなら有り難いと言ってる」

「しかし病などそんな都合に沿ってはくれんだろう」

ジルコットはため息交じりに言う


「そうなんだよな。だからジルコットが留まってくれて、その開いた日に引き受けてくれたら助かる」

「あんたの腕は俺達が保証するしな。空いた日に、あんたが前から望んでた巡回診察するのも自由だ」

「フロックスお前…」

その話は感染症の協力を依頼した時に聞いたらしい


「その話を出されたら頷いてしまいそうだが…その他の条件や住む場所はどうなる?」

これはかなり乗り気なのかしら


「詰所の治療室は基本的に朝9時から17時、1日当たり15,000シアが支払われる。診察室の備品などは領主が購入するから直接申請することになるな」

「基本的にということは例外もあるということだな?」

「例外と言っても非常時くらいだが、その際は時間通りに終えるのは難しくなるだろう」

「それくらいは問題ない。むしろけがや病気が時間通りにやって来るとは思ってない」

確かにそうよね

そんなに空気の読めるケガや病気は逆に怖いわ


「患者がいてもいなくても日当は保証されるが、多すぎてもそれ以上は保証されない。まぁ領主次第になるだろうが…」

「タマリなら特別報酬って言って出しそうよね」

「間違いなく出すだろうな」

「タマリというのは?」

「この町の新しい領主だ。いい奴だよ」

ロキがそう言うとジルコットは驚いた顔をした


「お前が人を褒めるから驚いてんぞ」

「は?」

フロックスの言葉にロキが呆れた声を出す

それを見てジルコットは噴き出した


「クロキュスが変わったのはオリビエの影響か?」

「だろうな。俺がこの町に来た時には既にこうなってたよ」

「…何か納得いかない言葉が交わされてる気がするんだが?」

そうつぶやくロキに苦笑する


「あとは住む場所ですけどここでいかがですか?」

「ここ?」

「俺もここに住ませてもらってる。飯付きで月8万シア」

フロックスが言う


「ちなみにダビアとマロニエも住んでる。あいつらは住み込みでここにいるチビ達を見てもらってる形だけどな」

「住み込み?チビ達とは?」

「庭師と掃除婦に成人前の子供がいるの。合わせて4人。その子たちにあげた玩具がちょっと普通じゃなかったせいで…」

「普通じゃないとは?」

「迷宮のドロップ品だ。ただのボールだと思ってたんだがレアドロップだった」

「…それを子供たちが持ってるってことか?」

「ええ。随分気に入ってしまって手放せとは言えなくて…その護衛を彼らに頼んでるの。一応この屋敷の敷地内だけで使うように言ってるから実体としては子守に近いけど」

私が苦笑しながらそう言うとジルコットは口を開けたまま固まった


「従業員としては庭師と掃除婦、荒節づくりの職人、家族を含めると7人ね。住む場所を提供して仕事で返してもらってるのがダビア達と薬師の親子、家賃を貰ってる普通の住人はフロックスと大工のハリーだけで、あとはロキの従兄妹の冒険者が1人住んでるわ」

「そんなに住んでるのにまだ住めると?」

「空き部屋、一杯あるんです」

「ちなみにここは元々ナルシスが持ってた別荘だ」

「な?」

突然出て来た王の名前にジルコットは再び固まった


「一部の間では結構有名になってるが…オリビエは歌姫の召喚に巻き込まれた被害者なんだ。その補償でこの屋敷を提供された」

「なるほどな…噂では耳にしたことがあるがまさか本当だったとは…」

まぁ普通はそう思うよね


「経緯はともかく、部屋はあります」

「…そうか…馴染の者がいるなら心強いな…」

「では?」

「その言葉に甘えさせてもらいたい。医師としての仕事の方もだ」

ジルコットは静かにそう言った

それを聞いたロキとフロックスは安堵したような表情を浮かべた


「じゃぁ、あとでみんなへの紹介と…タマリへのつなぎも必要よね?」

「タマリのところは俺が一緒に行くよ。明日チェスの相手する日だし」

フロックスが言う


「領主とチェス?」

「タマリの相手になる人がいなかったんだけど、フロックスは強いらしくて」

「フロックスは王の相手もしてたか?」

「たまにだけどな」

何と、王宮ではナルシスと勝負してたのね


「こんにちは~」

「あ、いらっしゃい」

「4人だけどいいかしら?」

ジルコットたちが4人席に座ってるのを見てそう尋ねて来る

一応カウンターで4席というのも有だけど…


「フロックス、ジルコットに屋敷の案内お願いできる?」

「ああ。構わない。部屋は俺の時と同じで好きな部屋でいいんだろ?」

「ええ」

頷くとジルコットを促してカフェから出て行った

案内が終わればサロンで話に花を咲かせるだろう

その後お客さんを案内して通常通りのカフェ業務が再開した

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