95.準備
「さて、私達も動きましょうか」
「片付けは引き受けるわ」
立ち上がって言うとカメリアがすかさずそう申し出てくれる
「ありがと。じゃぁ先にテーブルを外に出した方がよさそうね」
「だな。俺は上から取ってくる」
階段を上がっていくロキを見送り私はジョン達と庭に出る
「ついでに作業場のテーブルも運ぶね」
「助かる」
オレゴンが頷くのを見て共に作業場に向かう
久々に足を踏み入れた作業場は以前に比べて、道具も材料もかなり揃っているように見えた
「随分物が増えたわね?」
「雑貨の売り上げのおかげだな。あとは復興支援金」
「あぁ、なるほど」
軟膏と消臭剤として使える薬草はあっという間に広まった
その少し後に出来上がったかゆみ止めもかなり重宝されているらしい
私に入ってくる金額を考えればオレゴン達の実入りもかなり増えてるはず
それは同時に作る量も増えてるってことだものね
薬草を加工するための道具類を整えるのは当然かもしれない
そろそろハーブティーや石鹸、ポプリなんかも作ってみたいなぁ
固形石鹸は元々あるからそれを加工すればそんなに手間もかからないものね
前にシュロがハーブ類の出る場所を見つけてくれたから今度そこに行ってみようかな
そんなことを考えながらオレゴンがテーブルの上の物を棚に避けている間に椅子をインベントリに格納する
「終わったぞ。テーブルも頼む」
「はーい」
促されるままテーブルをしまうといつもバーベキューをするスペースに向かう
「あぁ、作業場のを取りに行ってたのか?」
すでに降りてきていたロキが側に来る
「流石に運ぶのは大変そうだからね。とりあえずこの辺に出しといたらいい?」
「ああ。あとはこっちで適当に並べとく」
ジョンの返事を聞いて作業場のテーブルや椅子を出す
そして元々持っていた物も出していく
「…ここで店が開けそうだな」
「あはは。元々店で使ってたやつだからね」
模様替えする時に家具を全入れ替えしたけど、捨てるのはもったいなくて全部格納していたためそれなりの量がある
それも2回分
それが大量じゃないかと言われると、個人としては大量だけど店主としては大量でもないって感じかな?
「これだけありゃ全員座れそうだな」
席はあってもコンロが足りなかったら話にならないわね
この調子ならこの先も大人数でバーベキューをすることもあるだろうし、買っておいても問題はないはず
「ジョン、あとでコンロを5つくらい買ってきてくれる?請求は屋敷に回してって伝えてくれればいいから」
「引き受けた」
商店街の店で大きな買い物をした時は月末にまとめて請求してもらうことにしている
もちろん即金で必要だと言われた時は都度請求にも対応することで話を付けてある
「空いてる倉庫1つこっち側に持ってくるか」
「そうだね。そこにテーブルやコンロを収めた方が準備も楽そうだし」
「それは助かるな。バーベキューは結構な頻度でやってるから」
ジョンがそう言いながら笑った
今まではジョン達の道具を仕舞ってる小屋に置いてたから毎回大変だったんだろう
「じゃぁ、小屋は後で運ぶとして、私は店の方にいるから何かあったら声かけて」
「了解」
「俺も店番してくるぞ」
今日の雑貨コーナーの当番はナハマらしい
ロキと3人で店の方に回るとランがテラスコーナーでくつろいでいた
「ランおはよう」
「おはよー」
「屋敷の方に来てくれても良かったのに」
「気にしないで。ここ、花の香が心地よくて好きなのよ」
「そう?ならいいんだけど」
応えながら店を開ける
「そうだラン」
「んー?」
「今日の夕方から庭でバーベキューパーティーするんだけど皆時間ある?」
「皆って私達?」
「そう」
「今日はポットラックパーティーしようって言ってるくらいだから、皆それ以外の予定はないと思うけど」
「ならこっちに参加しない?ソンシティヴュから引き抜いた特攻騎士と精鋭も参加するんだけど」
「騎士!?」
ランの目が輝いたのを見てロキが苦笑する
「カプシーヌは彼も連れてきてくれて良いって伝えて?」
「分かった絶対伝える。オリビエありがとう!」
ランは私の手を握ってブンブン振り始めた
元々騎士が好きなランはお客さん以外の騎士と知り合う機会を求めていた
でも自分から積極的に関わりに行けるタイプではない
「きちんと時間を決めてるわけじゃないから適当に来てくれる?早くても多分おじさん連中が先に始めてるだろうから」
「はは…確実に始めてるな」
ジョン、オレゴン、ナハマが3人揃えば先に始めないはずがない
きっとそこに迷宮狂いの4人も加わっているはず
「じゃぁ一旦帰って皆に伝えるわ。楽しみにしてる」
ランはタグをつけた商品をケースに入れると帰って行った
「かなり飢えてるな」
「ロキ、言い方!」
本当に元も子もない言い方をする…
「まぁ、騎士の方も似たようなもんだし問題はないだろ」
「そういう問題?」
「他にあるか?」
「…ない、わね」
むしろ騎士達がこの町に居る理由を得ることでメリットしかないかも
今はどうしてもソンシティヴュから亡命してきたお客さん的な立場だから
「今んとこ騎士としかつるんでないらしい。今日をきっかけに町の者と付き合いだしたら精神的にも楽になるだろ」
「だといいね。居場所はやっぱり大切だもの」
ロキを見て言うと抱きしめられる
そして深い口づけを受け止めるととろけるような優しい笑みが降ってくる
その笑みを見ていつも幸せだなーって思う自分がいたりする
私が今この世界で笑顔で暮らせるのはロキのおかげだと思うから
「俺も準備手伝うよ。切るくらいならできる」
ロキはそう言いながら調理場に入っていく
「ありがと。じゃぁ野菜を大量に」
調理台に大量の野菜を出すと1種類ごとに少しずつ切ったものを用意する
ロキはこれだけですべてを仕上げてくれる
私はランチの準備を並行して行いながら少しずつバーベキューの準備も進めていった