表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

103/140

93.モーヴの訪問

復興支援金の配布以降カフェのお客さんが増えた

余裕が出来たからと足を運んでくれた人、その分回数を増やした人など様々だけど、賑わっているのは有り難いことだと思う


お客さんが残り1組となりそろそろ片付けようかと思った時、大きな魔力を感じた

ロキも同様で読んでいた本から目を離す

私たちの見る先、店の入り口付近にモーヴが姿を現した


「珍しいお客様ですね?」

扉を開けて迎え入れるとカウンターに座る

王族がカウンターに…と思ったものの、自ら座ったのだからとそのことには触れないことにした


「可愛い甥に会いたかったのと、オリビエに聞きたいことがあってな」

「可愛いは余計だろ?」

「いやいや。妹の面影を持つお前は可愛いさ」

ロキは嫌そうな顔をしつつも遠ざけようとはしない

モーヴが妹であるロキの母を大切にしていたことは言葉の端々から伝わってくる

妹の代わりにロキを大切にしたいのだろう気持ちも理解しているからだ


「何か召し上がります?」

「そうだな…新しい果物の…」

悩んでいるようなので3種類をトレイに載せて見せる


「黄色のタグのものを頂こう」

「ありがとうございます。すぐに準備しますね。ロキはどうする?」

「コーヒーのケーキ」

ボソッと呟くような答えに頷いて2人分のスイーツをコーヒーと共に準備する

目の前に並べるとモーヴは顔をほころばせた


「優しい味がするな。甘すぎないのもいい」

満足げにかなりのスピードで口の中に入っていくケーキを見れば、その言葉がお世辞でないことはよくわかる


「…で、オリビエに聞きたいことって?」

最後のお客さんが帰ったタイミングでロキは話を振った


「あぁ、実はな…」

モーヴはオナグルに手籠めにされたメイドに関することを説明してくれた


「そこで聞きたい。オリビエの元の世界ではどうだったのだろうかと」

「どうだった、とは婚前行為について、ということです?」

「ああ」

モーヴは頷いた


「そうですね…色んな世界の人がいたせいもあるんでしょうけど、重要視はされてませんでしたね。早い子なら成人する前に処女でなくなってる子もいましたし」

「そんなに早くからか?」

「ええ。それこそ興味本位でとか気持ちが高ぶってとか、雰囲気に流されてとか…理由は様々でしたけど」

「それでも結婚相手は何も言わないのか?」

「中にはこだわる人もいますけど、そこにこだわりを持たない人の方が多かったと思いますよ?手を繋いで口づけをして、その流れで性行為をしているだけって感じ」

「「…」」

モーヴもロキも考え込んでしまった


「…では離縁した者や未亡人は…?」

「愛した人を想い続ける方もおられましたけど、普通に再婚されてる方も多かったです。子供と一緒に嫁ぐ方もいましたし、男性側に、もしくは両方に子供がいるケースもありました」

実際私も母の連れ子で父とは血が繋がっていなかったと説明するとさらに驚かれた


「男性的には自分が初めてだと嬉しいとは思うけど、違ったところでそれを理由に拒否するほどのことでもないとか」

「…それは誰の…?」

突っ込んできたのはロキだった

その目が少し鋭くて怖い


「えっと…パーティー組んでた仲間とかだけど…?」

どうしたのかと首を傾げているとモーヴが笑い出す


「オリビエ、今のはクロキュスの嫉妬だ」

「え?」

ロキを見ると不貞腐れたように顔を反らした

一体どこに嫉妬するような要素があったのか?

どことなく不穏な空気を感じながらそれに気づかないふりをした


「なるほど。そういう世界にいたから理解できないか。逆に言えばそれだけ性行為に寛容だったということか」

「みたいだな。そんな中でお前が俺だけのモノになってくれたことは幸運だったってことか…」

ロキが私の腕を引き抱きしめる

確かに私は結婚するまでは…なんて考えていたわけではない

偶々そう言う機会が無かっただけなのだと思い出す

もしその機会があったのならこうしてロキと結ばれることも無かったのかもしれない


「そういう意味ではもったいない気もするね?」

「もったいない?」

「うん。例えば旦那さんが騎士で、その仕事の中で亡くなったとするでしょう?女性がまだ若くて生きていく中で別の人に惹かれたとしても、共に生きていくことは出来ない、って言うのがこの世界の常識なのよね?」

「…そうなるな」

「傷付いて、ようやく前を向いて歩き出したのに幸せになれないのは悲しいなって思う」

「先のメイドたちも同様か…」

「彼女たちはなおさらです。望んで処女じゃなくなったわけじゃないもの。それなのに未来を閉ざされるなんておかしいって思っちゃいますね」

誰にでも幸せになる権利はある

事件に巻き込まれて心を閉ざしてしまう人もいた

でも、それでも幸せを望む人もいたし、知人の中にも相手に癒されて幸せになった人もいた


「そういう者の為に町を作ろうと思っている」

「そういう者?」

「メイドのように望んでそうなったものでない者や未亡人、離縁されてしまった者の住みやすい町だ」

「男性は?」

「中にはいるらしい。自分たちは娼館に通ったりするのに女性だけに処女説を押し付けるのはおかしいという者が」

「それはもっともな意見ですね」

「聞かされた時思わず心の中で同意してしまった。そういう新しい考え方をする者がいるなら希望はあると思っている」

モーヴの目は真剣だった


「最初は女性だけになるだろう。その守りに新しい考え方をする騎士や魔術師を配置して、少しずつ恐怖なり不安を解消してもらえたらと思っている」

「なるほど。ならそこに生活に役立つことを教える人を派遣してもいいかもしれませんね」

「人を派遣?」

「ええ。突然住む人はいないでしょうし…その新しい考え方をする人を派遣することで接触機会を増やすのはありだと思うんです」

「接触機会を増やす…」

「人の心は強制できませんからね。でも関わる中で何かが変わる可能性もあるでしょう?日用品を運ぶ商人もそういう考え方の出来る人にすべきでしょうし」

「そうでなければその町は色んな意味で標的にされそうだな」

ロキの言葉に頷いて返す


「確かにいろんな面で考えるべきことがありそうだな」

「どうせならその町は性的マイノリティの方も受け入れてくれるといいんですけど」

「性的マイノリティ?」

「同性しか愛せない人や、体と心の性が別の人のこと」

「…いるな。騎士の中でも何人か見たことはある。頑なに隠してはいたが…」

「そういう方も含めて誰もが自由に過ごせる町、素敵だと思います」

この世界では虐げられている人たちでもある

頑なに隠すのは知られれば排除されるとわかっているからだ


「彼らにしかわからないことも多いのだろうな」

「そうですね。だからその町を作るなら彼らと一緒に作ってくださいね?」

「ああ、必ずそうすると約束しよう」

そう言えるモーヴはいい王と言えるのだろう

古くから根付いた慣習を変えるのは簡単なことではない

でもイモーテルのいる町があるのだから不可能ではないとも思う


「お菓子作りを教えにとかなら協力しますよ」

「それは有り難い。その時には声を掛けさせてもらおう」

モーヴは満足げに頷いて帰って行った

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ