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92.復興支援金

ソンシティヴュが攻めてきた日から半月

魔術師たちのおかげでフジェはすっかり落ち着きを取り戻していた


「2人とも少し時間を貰えるか?」

店の片づけをしている時にやってきたのはタマリだった


「珍しいわねタマリ。店はもうおしまいよ?」

「いや、客としてじゃなく相談に乗ってもらいたくてな」

タマリは何とも言えない顔をしていた


「相談?まぁいいわ。どうぞ」

ロキを見ると頷いてくれたので店内に案内した


「で?」

促したのはロキだった


「国から支援金が出たんだが…」

「支援金?既に貰ってなかったか?」

「そうなんだ。それ以前に魔術師のおかげでけが人も完治してるし、壊れた建物も修復が済んでる」

「なのに今頃追加ってこと?」

確かに困惑するわと納得してしまった


「攻めてきた者の内、一部が操られていたということは…?」

「ああ、聞いてる。当主10名、騎士が20名だったか。その騎士の家族から騎士1人当たり1000万シアの賠償金を請求したのは聞いてるが…」

「その賠償金がこの町の支援金として追加で入ってきた」

「は?」

「えー…」

1000万シア×20人=2億シア

とんでもない額だ

ロキも驚いているということはモーヴのある種の企みだろうか

多分驚かせてみたかったとかその類の…

うん。あの方ならやりそう


「この町には元々130世帯、500人ほどしかいなかった。この一連の騒動なんかで騎士や魔術師が50名ほど、単身の者が多いからその家族を入れても増えたのは100人未満。多く見積もっても今の人口は600人、180世帯だ」

「600人に2億シアね…1人当たり30万シアオーバーか」

「それだけの額を投入した理由って何なのかな?」

「この町はソンシティヴュから見放されてたからだろうな。おそらく賠償金を取ったのは、操られていたとはいえこの町に攻め入ったことを無かったことにはできないからだろう」

ロキは自分の持っている情報を色々紐づけながら話す


「それは確かにそうよね。そんなことが許されたら操った上での犯罪が作り出されるわ」

「そんなことになったらとんでもない世界になってしまうな」

呟くように言った言葉にタマリが頷いた


「つまり、とりあえずの落としどころで取った賠償金だから、これまでの賠償に当てようとでも思ったんじゃないか?」

「そういえばカクテュスはそれなりに豊かな国なんだっけ?」

「ああ。亡命者は多いけどそっちは自ら参加した家から徴収した金を回すだろ。そっちの方がでかい額になるだろうしな」

「しかしこの額は…」

これまで足りなくて困っていただけにどうしていいかわからないのだろう


「とりあえず一部を復興支援金として分配するって言うのは?」

「分配?」

「そ。人や世帯ごとに設定した額を平等にね。それで長い月日の苦労が無かったことになるわけじゃないけど、思いがけない臨時収入は心を豊かにしてくれると思うよ」

「それはありかもな。表面上は元に戻ってても感じた恐怖が消えるわけじゃない。ちょっと旅行してリフレッシュしても罰は当たらない」

「大きなものを買い直すのにも使えるかもね」

「なるほど。そういう方法もあるか」

タマリは感心したように頷いた


「180世帯600人として…1世帯一律10万シア、そこに1人当たり10万シアを乗せたとしても7800万シア、1億シア以上が残る」

「4人家族で50万シア、半年分弱の臨時収入ってことね。勿論それより少なくても多くてもいいだろうし金額を決めるのはタマリ次第だけど」

「受け取った金をどう使うかは自由だ。さっき言ったみたいなリフレッシュに使うもよし、この先も冒険者もどきで暮らさなきゃならないなら、近隣の町で少しでもマシな装備を整えることも出来る」

「中には無駄に使う人もいるかもしれないけどね」

それは一定数必ず現れるだろうけど自己責任としか言いようがない


「残りは…」

「町の資産とするなら、公共の場の整備だな。人が増えた分、広場を拡張してベンチを増やすとか、王都と行き来する馬車の乗り降りや待合の場所、これから迷宮目当ての冒険者が増えるだろうから宿を増やすのも手か」

「それは確かに手を回す必要があるな」

タマリは大きく頷いている


「学習用の家みたいなのも作ってもいいかも。今は計算や読み書きの勉強も戦い方の講習も、教会の隅とかその時に空いてる場所でやってるんでしょう?」

「ああ、たまに俺の屋敷を使うこともある。そういう意味では場所を固定することで参加しやすくなるか」

「ギルドの隣に3部屋ほどの平屋を建てればいい」

「3部屋?」

「一部屋は戦い方の基礎を教える部屋。あとは計算、読み書きかな?」

「そういうこと」

「そっちに予算が回せるならもう一人雇って、それぞれの部屋で計算か読み書きを教えるために常にいてもらえばいいかもね」

「みんなそれぞれに事情があるだろうし、いつでも聞きに行けるなら大人も参加するんじゃないか?それぞれの部屋に学習に使える本を置いておくのもいいかもな」

「それいいね。戦い方の基礎なら魔物や薬草図鑑も役立つよね」

「相変わらず次から次へと…」

タマリがため息交じりに呟いた


「別に一気に使い切らなきゃいけないわけじゃないだろ。町をよくするために必要なタイミングで使えばいいと思うぞ」

「そうなのか…?ソンシティヴュに属してた時は使い切らなかった分は取り上げられてたらしいからてっきり…」

「取り上げられてた?」

「ああ。だから過去の領主は持ち越しを残さなかったし、非常時用にためておくことも出来なかったらしいんだ」

その事は領主が受け継ぐ書類で分かったことなのだという


「そんな規則は無かったはずだけどな…まぁ今更どうこう言ったところで機能してない国の事だが、普通は各領地でプールできるぞ」

「それならいいんだが…」

「ギルドで領主用の口座開いてそこにおいとけばいい。屋敷に置いとくより安全だ」

「わかった。明日の朝すぐに入れておくよ。復興支援金はすぐに手配しようと思う。屋敷の者に手伝ってもらえば今週中には配れるだろう」

どうやら1軒ずつ回って配布するらしい


「その時にギルドの口座番号を聞いてリストにしておくといい。この先同様の事があればその口座に振り込むことが出来る」

「おお、そんな方法が…なら今口座のない者も開くように依頼しておこう。口座番号はカードを見ればわかるのか?」

「ああ。金額の上に表示されている10桁の番号だ」

この世界にはギルドにしか預金等のシステムが存在しない

その代わりこの世界のどの国でも共通で使える優れものなのだ

さらに預金機能だけの簡易カードもあり、そちらは施設や家族間の共有カードとして利用されている

小さな町では住民登録の体制を整える代わりにギルドの登録を推進する場所もある

町を出た子供が今どこにいるのか知るのにも重宝するらしい


タマリの行動は早かった

宣言した1週間が経つ前に支援金の配布を終えていた

町の中は勿論、屋敷の中も嬉しい悲鳴と笑顔で溢れていた



「で、カメリアは子供たちの簡易カードを作ってそれぞれに10万シアを振り込んだのよね?」

「ええ。独り立ちする時の足しに出来ればいいと思って。残った20万シアでも充分贅沢できるから」

普段のお金の使い方から考えればそれは確かだろう


「ウーは本を買いそうね?」

「分かる?」

「お前毎月買ってなかったか?」

「あれは中古だよ。でも今回は奮発して新しいのを買う!」

ジョンの言葉に満面の笑みで答える

中古の売買が始まってから本は以前に比べて身近にはなったらしい

でも好きだからこそ新しいものも欲しくなる気持ちはよくわかる


「オレゴン達、親父組は酒だろ?」

「良く分かったな。今夜は酒盛りだから晩飯はBBQを希望する」

ナハマがどや顔でそう言うなり皆が笑った


「ブラシュはどうするんだ?」

「俺は…薬草を作るための道具かな」

ブラシュとオレゴンは世帯に支給される10万シアを5万ずつに分けたらしい

ウーの分はジョンがカードに入金済みで世帯分の10万シアは共有のカードに入れておくという

今度旅行に行くのだと、ウーはそう言って嬉しそうに笑っていた


“集い場”と名付けられたギルド横の建物は、雇用を生み出すためにと町民から作業員を募集し、子供から老人まで自分のできる事を率先して取り組んでいる

子供達は机や椅子のペンキ塗りを遊び感覚でやってるけど…

その都度作業に見合った手当てが支払われるため皆のやる気が凄く、完成も早そうだ


広場のベンチの側には小さなテーブルも備え付けられ、屋台で買ったものを広げて食べる姿が見られるようになった


宿の建設は新しい町の建設の需要にもつながるからと、国から魔術師が派遣され、2週間もしない内に完成したのには皆が驚いた


他にも馬車の昇降、待合場所の建設、山の中の避難場所の建設など、町の者の意見も取り入れながら、必要とされるものは少しずつ皆の手で作っていくことに決まったらしい

タマリを中心に復興支援金は有効に活用されているようだ

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