第一章5『拝啓、あの日の自分へ』
九月二十九日十九時 佐藤陸
長かったバイトが終わり、賄いを食べていた。今日もラーメンだ。悠誠くんみたいにチャーハンとかでも頼んでみようかな。そんな事を考えながら麺を啜っていた。気づいたらどんぶりの中には麺が残ってなかった。残っていたのは、鶏がらベースの醤油味のスープだけだ。
どんぶりを上にあげ、帰宅の準備をする僕に後ろから不意に声が掛かる。
「佐藤さんって今週の日曜日暇ですか? 」
声の主は後輩の美咲だった。なんで? なんのために? 聞いてきたの? と訊きたくなる気持ちを抑え、
「暇だけど……、どうしたの? 」
と出来るだけ愛想良く答えた。店内に沈黙が走る。いつもはそこまで客足は多くはないが、そこそこ賑やかなお店だ。なのに今だけは店内は静寂に包まれている。
「そ、その、日曜日デートに行きませんか? 佐藤さん」
彼女は僕の服を少しつまみ、上目遣いで僕にそう言った。
*
九月二十八日二十一時 西宮美咲
「少し服つまんで、上目遣いで言えばね、ノーって言う男はいないよ」
妹の菜々美に男心って言う物を教えて貰っていた。よく分からないが、男っていうのは単純らしい。どうやら菜々美は手慣れているっぽいのでご教授願いたい。
「まぁ、私も漫画で読んだだけだからよく知らんけど」
前言撤回だ。
*
九月二十九日二十時 佐藤陸
美咲ちゃんからデートのお誘いをされた。まだ返事はしてない。僕は今日確信した。どうやら美咲ちゃんは僕に好意を寄せてくれているらしい。
僕は美咲ちゃんと付き合って、幸せに生きていいのか? 紗良は死んでるのに。僕だけが幸せになっていいのか? 紗良を救えなかった僕が救われていいのか? そして何より、紗良のことを忘れられないまま、付き合って美咲ちゃんに失礼じゃないか?
僕はどうすればいいんだ。なぁ、紗良。教えてくれよ、紗良。頼むから。
『陸、諦めるな。生きろ。頑張れ』
頭の中に紗良の声が聞こえる。紗良の励ます声が聞こえる。そんな気がした。そんな気がしただけだ。でもそれだけで嬉しかった。紗良が近くにいるようなそんな気がするからだ。
僕は今でも、いつまでも。君の事を。君の最後の言葉を。忘れない。
「生きて、陸の夢を叶えてね。空から陸のことを見守ってるからね。」
「生きて、生きて、生きて。死ぬのは最後でいい」
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拝啓、あの日の自分へ
学校生活はどうだい? 紗良が居なくなってからつまんないだろ? 友人関係はどうだい? いじめられてないかい?
今の僕はというと、紗良との約束を果たすために。のうのうと生きています。
僕は、『大人』になったよ。もう『大人』になったよ。だからいつまでも過去に縛られず、『自由』に生きてください。
頼むから。『自由』に生きさせてくれよ。なぁ、紗良。僕を許してくれよ。あの日、君を救えなかった僕を。紗良の苦しみに気づけなかった僕の愚かさを。僕はいつまでも自分を許せない。だから君が許してくれ。僕を死なせてくれ。頼むよ。なぁ――――。
「陸、諦めるな。陸、頑張れ」
頭の中に紗良の声が聞こえる。紗良の励ます声が聞こえる。そんな気がした。そんな気がしただけだ。でもそれだけで嬉しかった。紗良が近くにいるようなそんな気がするからだ。
僕は今でも、いつまでも。君の事を。君の最後の言葉を。忘れない。
『生きて、人生の。生き方の。死に方の答えを見つけて、死ね』
『生きて、生きて、生きて。死ぬのは最後でいい』
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拝啓、あの日の自分へ
学校生活はどうだい? 紗良が居なくなってからつまんないだろ? 友人関係はどうだい? いじめられてないかい?
今の僕はというと紗良との約束を果たすために、のうのうと生きています。
僕は、『大人』になったよ。もう『大人』になったよ。だからいつまでも過去に縛られず、『自由』に生きてください。
頼むから。『自由』に生きさせてくれよ。なぁ、紗良。僕を許してくれよ。あの日、君を救えなかった僕を。紗良の苦しみに気づけなかった僕の愚かさを。僕はいつまでも自分を許せない。だから君が許してくれ。僕を死なせてくれ。頼むよ。なぁ――――。
第一章本編終幕です。後は番外と外伝書きます。