第一章2 『賄い』
八月十九日十九時 佐藤陸
僕はバイト終わりに、賄いを食べていた。
今日の賄いもラーメンだ、そろそろ飽きてきたな。まぁ、ここはラーメン屋だから仕方ないけどね。と馬鹿な事を考えていると
「佐藤さんって彼女とか居ないんですか? 」
と隣から声が掛かってきた。声の主は、後輩の美咲だ。
僕は口の中に入っていた麺をよく噛み、飲み込んだ。
「居ないよ」
間髪入れずに答えた。それを聞いた美咲は、目をキラキラさせて
「そうなんですか? イケメンなのに」
と少し嬉しそうに美咲は言った。
なんでお前はそんなに嬉しそうに言うんだよ。僕に彼女が居ないことを馬鹿にしてるのか。
頭の中で悪態をついた。
「そんな事ないよ。そういう美咲ちゃんは? 彼氏とかいないの?」
と愛想良く答えた。すると彼女は少し食い気味に
「彼氏はいないですよ、フリーです! フリーですよ!」
と言った。何だこの子。
「そうなんだ」
「先帰りますね、お疲れ様でした。」
「お疲れ、悠誠くん。また明日。……あれ?明日ってシフト被ってたっけ?」
「被ってないっすよ。あと、先輩って鈍感なんですね。」
「え? 」
そう言い、彼は去った。
彼からはいつものような覇気は感じなかった。
*
同日同時刻 安倍悠誠
今日もまた家に帰るのか。あのクズしかいない家に。そう考えていると
「やだ……帰りたくない……」
驚いた。まだ自分に弱い部分があるとは。弱音を吐くな俺。俺は違う、あいつらみたいなクズな人間とは違うだろ、悠誠。みんなクズだ。死んでしまえばいいのに。俺は違う、俺は、俺は、俺は、俺は、俺は、俺は、俺は、俺は、俺は、俺は。
「俺は、俺は、俺は、人間だ! 」
気づいたら叫んでいた。周りから冷たい視線が刺さる。もうどうでもいい。俺は歩き始めた。地獄の家に。
*
「寒いね、陸」
「だね、紗良」
そう言いながら僕たちはイルミネーションの綺麗なクリスマスツリーの近くを歩いていた。僕たちが交際を始めてから六ヶ月近くが経過した。時の流れは早い。
「ね、陸。」
「ん? 」
「………」
紗良が目を閉じて、口を少し尖らせている。
僕は察した。だけどするのが恥ずかしくて、
「何してるの? 紗良」
「さいてー、鈍感男」
そう言い、紗良は自分から近づいてきて唇にキスをした。匂いが、感触が、吐息が、全てが僕の体を刺激する。体が熱くなるのを感じる。
「顔真っ赤だけど大丈夫? 陸」
僕は声を出そうとするが、上手く発音ができない。今まで感じたことの無いような感覚、脳がショートしたような、そんな感覚がした。
「ねぇ、大丈夫? 」
僕はその場に座り込んだ、体が言うことを聞かない。
脳内が彼女の匂い、吐息、感触、あの時五感で感じた全てがぐるぐる回る、情報が完結しない、飽和しない。
ベチッ
急に頬に痛みが走った。僕は我に返った。どうやら紗良が僕の頬に一発入れたらしい。
「ごめん、紗良にキスされたのが嬉しくて、舞い上がってたみたい」
「なら良し、またしたかったら言ってね。何時でもしてあげる。――でも今度は……陸からして欲しい」
後半は声が小さく何を言ってるのか聞こえなかったがどうせ聞いても、教えてくれないだろうと見切りをつけ、綺麗なイルミネーションの輝く街の中に二人で消えていった。
彼女の腕に痣が出来ていることに僕は気づけなかった。その時の事を僕は遠くない未来で後悔することをまだ知らない。
ポッキー美味しいですね。
ポッキー作った人天才だと思うんですよね。