あなたのテンプレはどこから?
なろう系といえばハイファンタジーにおける中世っぽい世界観に魔王と勇者がいたりする、というイメージは大分古いものなのかもしれない。
だが、そこに聖女やら悪役令嬢やらが加わった、いわゆるテンプレ作品は今日もランキングを賑わせている。
このエッセイにおいてはテンプレの是非を問うものではなく、単純に「テンプレ」ってどこから来てるんだろうね、というのを筆者なりに考えてみたものである、ということを前置きした上で本題に入ろう。
まず、中世風の世界観に勇者がいて、魔王を討伐する使命を帯びる物語としてなんといっても欠かせない名作がある。
そう、「ドラゴンクエスト3」だ。
発売された当初の熱狂は凄まじいもので、買うためだけに学校をサボったり会社を休んだりした人も多かった……という情報を時たま耳にするものの、筆者はリアルタイム世代ではないので正直なところよくわからない。
初めて触れたのは確かゲームボーイカラー版(余談だが、このGBC版ドラクエ3、まさしくいわゆるチート主人公の如きことができるバグが潜んでいるのである)なのだが、そこに綴られた王道の物語や過去作とのミッシングリンクに強く胸を打たれたことを覚えている。
テンプレの話に戻ると、この手の世界観のベースを辿っていくと、大体「ドラクエ3」に行き着くのではないか、というお話だ。
無論、冒険者ギルドなど、なろうハイファンタジーにおけるテンプレには「ドラクエ3」にない要素も含まれている。
ギルドに関してはTRPGである「ソード・ワールド」シリーズや、「モンスターハンター」シリーズがその由来と見ていいだろう。
つまるところ、勇者と魔王がいる中世風世界は「ドラクエ3」をベースにして、「ソード・ワールド」シリーズや「モンスターハンター」シリーズなどの要素を取り込んでいった結果生まれたものではないかと考えたのである。
ただこれは、筆者が「ドラクエ3」に触れているから殊更強く感じたことであって、オマージュやリスペクトというのは創作においてもはやありふれたものである。
異世界転生、あるいは異世界召喚といった展開の源流は「ゼロの使い魔」の二次創作群にあると考察する意見もあれば、それより昔に「新世紀エヴァンゲリオン」、「Kanon」における主人公の過度な設定改編を行ったSSが、チート主人公の原型であるという説もある。
この辺りの文化の変遷は興味深いものであるが、最初に「異世界転生/転移」をオリジナルでやっても受けるんじゃないかと考えた人は多分天才なのだと思う次第だ。
話が横道に逸れてしまった。
つまるところ、何が言いたいのかといえば、シェイクスピアのオマージュであったり古典SF群のオマージュである作品は世にありふれている訳で、何に影響を受けたか、という点についてはそれこそ書き手次第で異なってくるのだ。
例えば筆者は「ドラクエ3」をなろう系ハイファンタジーテンプレの原型だと思っているが、いやいや「指輪物語」だよと主張される方もいらっしゃる。
それぞれに影響を受けた作品があって、その原点へのリスペクトを持ってユーザーたちが寄り集まった結果が、なろうにおける「テンプレ」なのだろう。
表題を回収すると、筆者が思い描くハイファンタジーテンプレは「ドラクエ3」が源流である。
何に影響を受けて創作活動を始めたのかは人による。人の数だけリスペクトがあり、人の数だけ生み出された作品が存在している。
そんな「なろう」だからこそ、たまには自分の中の原点と向き合ってテンプレと対話をしてみるというのも一興ではないだろうか。
筆者が書いているテンプレ的な作品は「悪役令嬢は追放されたので錬金術師としてアトリエを開くようです〜悪役改め爆薬令嬢、生まれ持った脳筋スキルとこつこつ鍛えた錬金術で世界を拓いてみせるのですわ!」だが、これもまた今まで読んできたり触れてきた物語に少なからず、何かしらの影響を受けているところがある。
それは非テンプレでも同じことであり、現行の拙作、「魔法少女、クビになりました〜世界を救った最強の魔法少女ですが、代わりの兵器ができたとかで休暇を言い渡されたのでもう好きにやっていこうと思います〜」も、種々の作品に色んな影響を受けた上で執筆している。
もしも筆が止まってしまった方が何かの縁でこの文章を読んでいらしてくれたなら、己を形作った「テンプレ」、創作の原点に一度立ち返って、インプットに集中してみるのも悪くないのではないかと筆者は思う。
走り出した物語は、例えそれが止むを得ず打ち切りになってしまったとしても、完走させてあげたいのが親心というものだからだ。
あなたの作るテンプレート、作品の指標はどこから来て、どんなもので、どこに行こうとしているのか。
そこには人それぞれに答えがあると信じて、本稿の締めくくりとする。
ここまでお読みいただきありがとうございました。