第一話 ―③ あれは何だったんだ?
翌日、俺は無事に退院することができた。
昨日はあの後、家族全員もお見舞いに来てくれて大変であった。
特に大怪我も無かったため心配して損したと笑い話になってしまったが事実がどうであれ、死ぬ感覚を味わった身としては笑えないし、目を合わせられなかった。
これからは少し、親孝行もしておこうと思う……。
さて、それはそれとして今日はもう学校に行ける日である。
正直気が重い。
休んでいたのは二日とはいえ、事故で入院してからの復帰だ……どんな話題を振られるかわかったもんじゃない。
「はぁ……とはいえ、早く行かなきゃ遅刻だ。……覚悟を決めるか」
そうして覚悟を決めて学校に行ったのだが……。
実際、学校に着くと何もなかったというオチである。
いや、流石に最低限の付き合いはしていたので声をかけてくれたクラスメイトも居たのだが、数人と一言二言話して終わりである。
「金剛君? 交通事故に遭ったって先生から聞いたけれど災難だったわね。もう学校に来て大丈夫なの?」
「ああ委員長、幸い大きな怪我も無かったから大丈夫だよ。ありがとう」
「そう、それは良かったわ。体育とかは休むのかしら?」
「あー、1週間くらいは様子を見た方が良いとは言われてたかな」
「それなら私が先生方に伝えておくわ。後はお大事にね?」
「ああそれは助かる。ありがとう」
と、まぁこんな感じだ。
クラス委員長の彼女が去った後も数人、心配して声をかけてくれた生徒も居たがその会話はもっと短い。
後は近くで聞いていた他の生徒によって話を広げられて、いつも通りの生活に戻るのだった。
「……身構えすぎか?」
「え?」
「おわっ!?」
俺の無意識な独り言に返答を返して来たのは姫月さんだ。
丁度学校に来たところのようで、どうやら俺に話し掛けようとしていたようだ。
「あ……ごめんなさい、驚かしちゃいましたか?」
姫月さんは戸惑った表情をしながらこちらを見る。
「いや、大丈夫だ。ちょっと考え事していたから驚きはしたが……」
「あ、そうなんですね……」
「ああ……」
そうしてお互いに沈黙が訪れる。
気まずい……。
俺は話題を振られれば話すタイプで自分から何か話題を出すのは苦手だ。
そして恐らく、姫月さんも話すのが得意なタイプでは無さそうである。
仕方が無いので俺は今考えていた事を話した。
「身の振り方がわからなくてな」
「え?」
「あんな経験って滅多にないだろ? だから、周りにどんな態度で居たらいいかわからなかったんだよ」
「あ……」
「だから、色々聞かれそうな事を考えたりしてたんだけど、思ったより何も聞かれなかったから考えすぎだったかな~と」
「私も今日……どんな顔して学校に来たらいいかなって思ってて」
「ん、ああ、そりゃそうだよな……」
よく考えたら当たり前だ。
姫月さんの方が状況的にどうしたらいいかわからないだろう。
「お互い、水に流すことに決めたし気にするのはやめとこうか。そういえば姫月さんってあの時は何聞いていたんだ?」
「え、あれは……」
そうして一日が過ぎた。
この日は初めて、休み時間で本に触れなかった日だと思う。