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第一話 ―② あれは何だったんだ?

「金剛君?」


「君は……」


 俺の名字を呼んだ女生徒は俺と目が合うと、俺が眠るベッドの側まで近寄る。


「良かった! 目、覚めたんですね……!」


 側にまで寄ってきた女生徒はそう言って俺の手を握った。


 その手は温かく、お互いに生きている事を俺に自覚させてくれるのだった。


(そうか……、あの時ちゃんと助けられたんだな)


 そう思って俺は相手の顔をじっと見る。


 緩めなおさげの髪に大人しそうな顔立ち、低めな身長に何処か小動物的な姿を見せる彼女の顔や体には何処にも、見える範囲ではあるが怪我をしたような様子は見受けられなかった。


「あ、えーっと、私は姫月椎菜(ひづきしいな)……です、隣の席の……。あのっ……、あの時は助けてくれてありがとうございました! 本当にすみません!」


「そうか、無事に助けられたなら良かった」


 俺は心配そうにこちらを見る姫月さんに向かって笑ってみせる。


 不思議な現象に頭を悩ませていたものの、どうやら俺が彼女を庇って身代わりになった事はこの世界でも変わりないようだった。


「でも、私のせいで金剛君が……」


「ああー、それなら大丈夫だ。医者が言うには奇跡的に大きな外傷は無かったそうだから。明日には退院できるらしい」


「そうなの……?」


「ああ、だから気にしなくていい。お互い無事だったみたいだしな」


 本当は多分、1度死んでいるのだと思うが、ここでそれを言う必要は無いだろう。


 この世界では無傷だった事になっているのは間違いないし、例え死んでたとしてもその選択をしたのは自分だ。


 俺は彼女に安心させるためにそう言った。


「でも……」


「お互い自分の運だったと思って水に流そう。飲酒運転をしていた犯人は捕まったって聞いたし」


 尚も姫月さんは自分で納得できないのか、心配そうな顔で俺を見つめていた。


 気持ちはわかるし、正直そんな風に心配して貰えるのは嬉しいが、俺もずっとそんな気持ちでいて貰いたかったわけでは無い。


 一言感謝の言葉を貰えればそれで十分だろう。


「……うん、わかった。ありがとうございます」


「わかって貰えたなら何より……ああ、イヤホンは周りの音が聞こえなくなるから外しておいた方が良いかもな」


 円満に話が着きそうだったので俺は冗談交じりにそう言う。


「あ、はい! 今度から気をつけます……」


 そんな話をした後に俺と姫月さんは少しだけ当たり障りの無い話をした。


 この世界とあの空間での出来事との関係性は謎のままだが、今の結果だけでも満足かも知れない。


 こうして現世に戻れてあの選択の結果をこうやって知れたのなら、それで良いじゃ無いかと思った自分が居たのだった。


「それじゃあ金剛君、お見舞いの果物はここに置いておきますね。今日は本当にありがとう、また学校でね……!」


「ああ、姫月さんもお見舞いありがとう、また学校で」


 こうして姫月さんは帰って行った。


 少しずるい気はするが、学校で一緒に話せそうな相手ができた事に内心喜ぶ。




 そして俺は、この世界がどういう世界なのか、この時真剣に考えなかった事を後々後悔する事になるのだった。

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