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第四話 逆プロポーズだったらしい

「からかわれただけだと思いたい」

 案の定私は知恵熱をだした。全くもって頭の使いすぎである。倒れたその日以前から、あまり家には父親も居ないし、兄も居ないと言う状況。父親は宰相のため、簡単に屋敷に帰れなく、兄は兄で、宰相の仕事に就くべく外部で、あの幼さながらも猛勉強中。

 屋敷には私一人という状況だったわけだ。しかしこの一件で、父親が溜まりに溜まった休みを一気に取得。父親は大急ぎで家に帰ってきた訳だ。


 ので、今屋敷には珍しく、父親が居るのだ。流石に、永遠と家でくつろぐことは出来ないらしく、持ってこれる仕事は持ち込んだそう。


 そんな絶妙なタイミングをはたして見計らったのか。遂にあのキャラがくる。


私が女神の天殻を授かり、女神と同等の力を持つ少女と、帝国に認識された日にすぐ決定した、皇太子殿下との婚約。それは当然だ。女神の力を他国に奪われないために、婚約で縛るのは鉄則であり、私のバックに皇室がいると言う事で、他国は私に手を出しにくくなる。


 実は授かって数週間たって居たらしい。婚姻は書類上確定している物の、今日正式なお願いとして殿下が来るとのこと。


 ユーノ・リフレイン皇太子殿下は攻略キャラクターだ。

木漏れ日のような輝く金色の髪は、乙女さえ歯ぎしりするほど美しく、何処までも澄み切った空と生命の海を切り取ったかのような蒼い瞳は、誰もが羨む宝石のよう。生きた芸術作品とはこの事かと思う程のイケメン。まさに王道ルートキャラ。

 性格は、一言『ヤバい』。なにがやばいって、本当にヤバい。

敵にさえ、物腰柔らかな口調と仕草で接するが、脳内で何回その敵を残虐に殺して居るか分かった物では無い。時折その断片なのか、言葉に皮肉った言いまわしが混じる。


 そんな王道敬語系Sな皇太子と庭園に置かれたベンチに座っていた。現在位置は自邸だ。


 歳は同い年の四歳。本当に四歳かと見紛うばかりの色香さえ持つ少年は、少女の初恋を本人の許可無く奪い去る怪盗に等しい。しかしながら、私は冷静だ。


皇太子ユーノルートの悪役令嬢の末路は、処刑、自死、他殺の三つ。トゥルー、ハッピー、バッドエンドの順である。

では死に怯えているのかと言われれば、否。私のステータスを持ってすれば、主人公側のキャラ全員カンストで私を殺しにかかっても、私を殺せはしない。善戦すら危うい。


「イシス嬢」

「はい殿下」


 物腰柔らかな声色で名前を呼ばれても、既に私はゲームのやり過ぎで、目が慣れトキメキはもう棺桶に入っている。それにだめ押しとばかりに、死ぬことは有り得ないという確定事項により、…………皇太子に興味がこれっぽっちもなかった。

 もし、ステータスが貧弱であれば、なんとしてでも、皇太子をあの手この手で骨抜きにして、私の婚約から逃れられなくしようとしたのだが、その行為は不要である。

 愛無き政略結婚ゆえに、必要最低限の好意さえあれば問題無い。


「庭の花はまだ咲かないのですね」

「見ごろはもう少し先、ですので、残念ながらまだ時間がかかります」


 これ四歳にする会話か!?会話なのか!?いや、四歳児な皇太子が話題を振っているのだから正解なの、か?

 というか、さっさと本日の本題にはいってくれると嬉しいのだが!?


 ここで黙るのは、話題を作った皇太子に対して失礼だ。ならば話を続けるのが正解である。


「殿下は何の花がお好きで?」

「白バラ、ですかね」


 ふむ白バラか。知っている花で安心した。その程度なら簡単に『許可』できる。


「では、庭の花の代わりに、白バラでご勘弁を」


 私は頭上に天殻を展開した。幾何学模様の魔方陣は紛う事なき女神の天殻であり、女神の御業をこの世界に顕現できる。

 隣で息を呑む音が聞こえたため、私が本当に女神の天殻を所持しているのだと実感したのだろう。まあ、前髪に刻まれた女神の証だけでは信用ならないのは、ごもっともな話。


 手を、水を掬うように胸元に。あとは、白バラとは何かと頭の中で思考し、念じ、私の手の中に存在していいと『許可』すればいい。


 小さな光の粒子が手の中に溢れれば、蜃気楼の様に空間が歪む。それは一瞬の事で、光が四散すれば、私の手の中には一輪の白バラが鎮座する。

 無から有を作り出す神々の特権を無駄に使った結果だ。用済みと天殻の構築を解いた。


「お納めくださいな」


 スッ、と、大輪の白バラを、皇太子の胸ポケットに差し込んだ。俗に言うブートニアである。

本日の本題、婚約の正式な挨拶の了承の証は、本当に言葉だけで良いのかと、考えに考えた結果、これが良いかと思っていたのだが……よくよく考えれば順序が可笑しい。正しくは、ブーケを受け取ってからである。

 

 まあいっか、この世界にブートニアの文化があるのかは定かではないし。


イケメンと白バラの組み合わせは約束されていた、なんて気楽に考えて居れば、笑いを寸前で堪えた皇太子……ユーノの声がして、顔を上げる。


「ふッ、ふふ、女性に花の贈り物の先手を、取られるとは思いませんでした」

「え?あ、ああ。そうですね……」

「こんなプロポーズも初めてです。僕を幸せにしてくれるのですね」

「待って下さい。私、殿下にプロポーズした事になっていますか……?」


 遂に笑いが堪えきれなくなったのか、上品に口元に手を添え笑うユーノだ。そんな状況と、まさかのプロポーズ解釈に、いたたまれない。

 何処かの死角にいるだろう、護衛騎士や従者達、空気のようにベンチ背後付近にいたメイド達すらも堪えきれず、気配を出してしまっている。


「出直してきます……」


 プロポーズ失敗した男の気持ちがしぬほど良く分かった。

 

 見栄えが良かったが、さっさと胸ポケットのブートリアを回収してしまおうと手を伸ばせば、その手はユーノに奪われる。


「僕、ユーノ・リフレインは、イシス・ラッドルチェンド嬢に、婚約を申し込みます。どうか、受け入れては貰えませんか?」


 気が付けばユーノはベンチから降りて私に跪いていた。それも手を取りながらだ。本来なら、ここで手を求められ、了承するなら手を乗せるのだが、既に手はユーノの掌の上。

 私に対する意趣返しだろうか。それとも、本性の物騒な部分が顔を出したのか定かではないが……受け入れなければ、このあと私は各国からの婚約の申し入れに疲れ果てる未来が見えるため、ここで頷くのが最善だ。


「お受けいたします限り、殿下に幸せになっていただけるよう尽力いたします」


 これは本心からの誓いだ。しかし、次期皇后教育が待ち受けているのかと思うと、気が重いが、仕方が無い。面倒くさいなぁという感情を押し殺して微笑めば、手の甲に当たる柔らかい感触。成立の証は何時だってキスである。


 わあああっと歓声が庭中に響き渡り、後ろを見れば、メイド達がきゃっきゃと喜んでいた。私より喜んでいる状況だ。


「これからよろしくお願いしますね」

「ええ、こちらこそよろしくお願い申し上げます。殿下」


 笑顔のユーノに、やっぱり早まったかなぁなんて思う私だった。

 というか本当に四歳児の婚約台詞として正解なのかこれ。誰か教えてくれ。



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