彼女の願い
新しい朝がやってきた。彼女と一緒に朝を迎えるのは今日で何日目だろうか。
僕達は家を出て、僕の散歩ルートを辿った。格好は彼女と再会したときの服を選んだ。
「ねぇ。この「おふだ」探しはいつまで続くんだろうね。」
「そろそろ飽きてきたのか?」
「いやぁ、そうじゃなくって時間の関係もあるからさ。」
「?」
僕には彼女の言う事がよくわからなかった。
「これ以上続くとなると、振り出しに戻るしかないよね。」
「振り出しは嫌だな・・・」
とはいうものの僕は今まで彼女といたこの時間が楽しかったから、むしろ振り出しに戻って欲しいと思った。
これからもずっと2人で探検出来たら、なんて。
「ホントに見つけられるのかなぁ。」
「どうなんだろう。なんか非科学的な現象が起きすぎて、見つけられたとしても驚かないかな。」
「確かに。」
一体自分で何を願ったかなんて覚えていない。だから自分はあのとき何を願ったのかを思い出したいと思った。
しかしながら、この探検が終わってしまうのは寂しく感じてしまう。「おふだ」を見つけた後はどうなるのだろう。
楽しく話しているうちに目的地についた。僕は数日前ここで彼女と再会した。
「じゃあ、ここで待ってて。全力で走ってくるから。」
「うん。待ってるよ。」
彼女はすごい速さで遠くに駆けていった。
「今から走ってくるのに、最初からあんな全力で走って大丈夫かよ。」
そんな事を思ったが、大丈夫だったらしい。あのとき同様、全力で僕に向かって走ってくる。
一目惚れの再来だ。咲良、やっぱり君は可愛いよ。
「やっぱ僕めがけて走ってきたよね。」
「うん、そうだよ!」
見事に再現した。そして僕達の目の前に空から紙が落ちてきた。
夢を求む男女へここに記す。願いを求めしところへ参れ。いざ、これを成就す。
「見つかりそうだね。」
「うん。ゴールまで突っ走ろう!」
そして彼女は突然僕の手を握り走り出した。
神守山の入り口の方で彼女はとまった。
「もうそろそろ終わっちゃうね。何か寂しいな。」
「僕もだよ。」
「あれ、珍しく共感してくれるねー。
これが終わって私とお別れするの寂しい?むしろ私のこと好きになった?」
彼女は笑って僕をからかおうとする。
むっとしたけど、僕はからかい返し(そんなのあるか?)をしようと本心を言った。
「寂しいよ。当たり前だろ。だって僕は、僕は・・・」
「?」
「咲良が大好きなんだから!」
きっと彼女は動揺するだろう。そう思ったのに、彼女は落ち着いて答えた。
「そっかぁ。ありがとう。嬉しいな。私は颯斗君が昔っから好きだったから。とっても嬉しい。」
「!?」
逆に僕が動揺した。
「あぁー颯斗君、顔赤くなってるよ〜。」
「前言撤回していいか?」
「ダメッ〜!」
彼女はとても楽しそうだった。
ついに僕達は山を登り、鳥居をくぐった。
するとそこにはこの前来たときには無かったものが置かれていた。
「あった、あったよ颯斗君!」
すぐに「おふだ」の元に走り出す。
それぞれが「おふだ」を手に取り、夢を確認する。
僕はこんな事を書いていた。
咲良が幸せになって欲しい。
恥ずかしいなと思いながらふと彼女の方を見ると、彼女は小さな笑みを浮かべて僕を見ている。
「颯斗君。裏には何て書いてある?」
そう言われて裏を見た。
「ん?咲良は自分の夢が叶うことで幸せになれる。そっか、そりゃそうだ。そんな君の夢は何だ?」
すると彼女の表情が少し暗くなった。
「私の夢は・・・最期のときを颯斗君と過ごしたい。」
「・・・裏は?」
「1週間の幸せを与える。」
よくわからない。これは一体何だ。
「ごめんね。颯斗君。秘密にしてた事があるんだ。信じてくれないと思うんだけど、私・・・もう死んでるの。」
彼女は小さい頃から大きな持病を抱えていた。元々20歳まで生きられないような体だったらしい。
彼女が引っ越した本当の理由は都会の大きな病院に入院するためだったらしい。
だからといって、そんな話を聞いたところで当然僕は信じられる訳がなかった。
「だって君は僕の目の前にいる。僕は君を抱きしめる事が出来・・・」
触れない。透けている。
「何で?どうして!」
そのとき僕の顔は涙で染まった。
「泣かないでよ。死んでしまったのは私だよ。悲しいのは私だよ。」
「だって、だって・・・」
「ごめんね。でも許して。わがままだけど、わがまま過ぎるんだけど、お願い。
1週間だけ、私のそばにいてください。私のそばで笑ってください。」
僕は泣きながら頷いた。
「ありがとう。お願いだからもう泣かないで。私も悲しくなっちゃうから。」
その日は一晩中泣いた。明日からずっと笑顔でいるという約束を条件に。
それを許してくれた咲良のおかげで大分落ち着いた。
僕達はこの1週間色んなところを探検してたくさんの笑顔の花を咲かせた。
僕達は笑い続けた。話続けた。
日に日に時が経つにつれて、彼女の姿が少しずつ薄くなっていく。この寂しさを抑える事がとても辛かった。
そして、7日目の夜。
「ありがとう。颯斗君。楽しかった。」
「こちらこそ。ありがとう。」
そして僕はいつの間にか眠ってしまった。
朝目覚めるとそこに彼女はいなかった。
分かってる、分かってるはずだけど、涙が止まらなかった。
そのまま家を飛び出しいたるところを探し回る。どんなに探しても見つからない。声も聞こえない。
「嘘だろ・・・。」
生きた心地がしない。
覚悟しても耐えられないものがあるのだと知った。
こんなに苦しくて、辛いことは他にないと思った。
悲しみに包まれたまま仕方なく家に戻った。
すると玄関先に1枚の紙が落ちていた。
私を求む颯斗君へここに記す。
そこに書かれていたのは彼女の眠る場所だった。
会える。きっと、また話せる。僕は急いで準備を済ませ家を飛び出した。
もう一度彼女に。咲良に会おう。僕は彼女の眠る場所へ向かった。
「きっと、僕達ならまた会えるよね。」
終