風に乗る手がかりは小屋へ
紙を飛ばす風は僕達の体力なんて考えてはくれず、その強さを増していった。
「はぁ、はぁ、あれどこまで飛ぶんだよ。」
「口動かさずに足動かして!喋るとどんどん体力なくなっていくよ。」
紙が飛び続けている以上、休憩する事も出来ない。ましてや今の僕は彼女に手を引っ張られているから、(もはや引きづられているのでは?)急に走りを止める事も無理である。
ふと気づくたなんとなくだが周りが見たことあるような景色になった気がする。
「あ、ほら紙が減速してきたよ!そろそろじゃない!」
もはや疲れすぎて頷く事も出来ない。
そして彼女の言う通り、紙はコケやカビの生えた外見の一つの小さな小屋の前にゆらゆらとゆっくり落ちたのである。
そして紙は消えた。
「!?」
「今、紙消えなかった!?」
「・・・うん。」
小さなパニックに陥ったけど、彼女がキラキラした目で「神様の力だね。」と言ってそれを信じて(僕は信じてない)話を戻す事にした。
「この小屋なんか見たことある気がする。」
ふと僕がそうぼやいた。すると彼女がこっちを向いた。
「颯斗君!ここ秘密基地だよ!私達が小さい時に見つけた。」
そう言われて考える。そしてなんとなくそれを思い出していく。あちこち壁も老朽化していて、周りも草が生えだらけでよくわからなくなってはいたが、そこは確かに僕達の秘密基地だった。
「とりあえず中入ろ!」
「えっー。」
これだけ外観が不衛生なのである。中はどうなっているのか分かったもんじゃない。
「仕方ないでしょ。続きを探さなきゃいけないんだから。」
彼女の言う通り、あの紙がこの場所に僕達を導いた以上、この小屋の中に続きの手がかりがある可能性は高い。
意を決してドアを握る。そして一気に開く!
「・・・あれ?」
「わ〜!ものすごくキレイじゃん!」
不思議だった。外はあんなにボロっちいのに小屋の中はまるで建てられたばかりのようにキレイでホコリひとつ落ちていない。
何故か電気はついている。真ん中にある木の机や椅子は昔よりもむしろキレイになっている。
「何でこんなにキレイなんだろ・・・」
僕はこの不思議な光景に驚きを隠せないが彼女はそんな事を全く気にしていないようである。
「きっとこの小屋の管理してる人が掃除してくれてるんだね!」
「じゃあ、外もキレイにしろや。というかでも、この小屋の持ち主なんてそもそもいるのか?」
「それはまぁわかんないけどさー。とりあえず次の手がかり探そうよ。」
「ん?それならほら・・・」
ぼくが指差した先、壁のど真ん中に紙がバッチリ貼られている。
「いや、わかりやすー。」
「なんて書いてあるかな。」
夢を求む若き男女へここに記す。闇を照らす光が最も美しいとき、最も美しい場所でその光を感じよ。
「闇を照らすって事は、月かなぁ?」
「あーなるほど。そうかもな。」
もう暗くなってきたので、僕達は家に戻る事にした。今回も親の目を切り抜け彼女を侵入させる事に成功した。
早速推理してみる。
「月が最も美しいってことは?」
「やっぱ満月?」
「なのかなぁー?」
「満月っていつだろう。」
普段月などいちいち気にしないので、満月の日など覚えていない。
「あと、1番キレイに月が見れる場所ってどこ?」
「うーん。」
謎が多すぎる。ならばこんなときは。
「また僕がしれっーと、訊いてみるさ。よし、じゃあまたあとで食料もって戻ってくる。」
「よろしくねー。」
そういって僕は部屋から出た。
夕飯時、素晴らしい嘘を思いつく。
「ねぇお母さん、月の観測レポートって宿題があるんだけどさ、満月っていつかわかる?」
「確か、今日よ。」
「今日!?」
「その宿題今日でやっちゃいなさい。」
「うん・・・。あ、じゃああのさ1番キレイに月が見れる場所ってどこ?」
「そうねぇ、やっぱり神守山の頂上じゃない?」
現在時刻は午後6時半。頂上までなら最短ルートでなら片道45分程だ。山の範囲はとても広いが、標高はとても低いのでそこまで時間はかからないはずである。
「9時半頃には絶対戻るから今から行っていい?」
「え?わざわざそこまで行って観測するの?」
「お願いキレイにスケッチしたいんだ。」
残念ながら許可は取れなかった。
「こんな時間に1人で山登りなんてさせるわけないでしょ!」
である。
この事を彼女に話すと、
「じゃあ抜け出すしかないね。」
「えっ?」
僕は親の言う事にあまり逆らわないタイプである。
しかしながら今回は彼女におされ、逆らわずにはいられなくなってしまった。
親も寝静まった頃、僕等は家を抜け出した。
ばれませんように・・・